表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

148/258

第百四十八話 気派の用途と情報




 「あの大貴族は気にしなくていい。彼女――ルミウ・ワンが暴挙の抑止力になっているから、情報を教えてくれ」


 手を挙げた男性に近づく。声を出させることは賢いとは言えない。震える理由も、最北という王国のため、少し冷えることも関係している。最大の理由は精神病だろう。過度なストレスと環境変化。どれもが体に合わないなら体調なんて崩しやすくなる。


 ルミウのことはもう正体をバラしても問題はないとの判断だ。知らないなんて剣士はいないし、もう俺の名前だって聞かせたんだ。隠しても意味はない。


 ロウソクすら立たず、保管されていたのか、薄めのブランケットや余り物の上着や毛布をありったけ被っても凍える様子は変わらない。


 「シルヴィア、確かホルダーに厚めのローブを入れてただろ?それを掛けてやってくれ」


 「はーい」


 剣士のホルダーは、刀をあるだけ入れ込むため余裕が無い。しかし刀鍛冶のホルダーは、予備の刀をそれぞれ1本ずつ入れ込むだけで、他に装備品などを入れ込むことが出来る。


 ホルダーに手を伸ばし、小さな箱から、人間1人を包めるほどの神傑剣士のローブが出てくる。異空間とはいえ、これを開発した人は神だ。


 丁寧にそれを掴むと、優しく男性の肩に載せる。シルヴィアはサイコパスが目立つため分かりにくいが、しっかり者で優しさも持ち合わせているのが本性だ。


 「あ、ありがとうございます」


 まだ死ぬには早い。弱々しくも伝える感謝の声音は良心に響く。


 「少し待ってくれ」


 男性にそう言うと、多く見受けられる体を震わせる者が目に入る。どうしてもそれを見ては落ち着かない。相変わらずルミウは大貴族の目の前で立っては物理的に見下している。


 ドMならあれは喜ばれるやつだな。


 不安定な気派を纏う者が多数。ここは無理矢理にでも合わせて体温を保たせる必要がある。


 その場に立つと体全体に纏わせ、熱を溜めた気派を一気に解放する。


 「これは俺の体温でこの部屋一帯を包んだだけの結界のようなもの。寒さを感じることはないが、微弱な殺意は感じる人が居るかもしれない。死ぬことはないし、殺す気もない。まずは落ち着くために、体を冷やさないようこの中に留まってくれ」


 殺意は込めなくても、気派には必ず殺意からの殺気が飛ばされてしまう。どうしようもないことであり、制御不可だ。なのでそれに怯む人も数名確認したため、安全だと補足しておく。


 「温かーい。こんなことも出来るんだね」


 いつもは腕を掴んでくるタイミングでも、目の前の状況を知るからこそしない。何だかんだ空気の読めるサイコパスなので、そこらの人間よりかは評価は高い。


 「消費は激しいけどな。流石に子供も多く居て冷える部屋なんて地獄だろうから、これくらいはな」


 子供は宝だ。レベルに関係なく、将来幸せを掴み続けるための希望を絶やしてはならない。


 まぁ、俺も子供だけどなー。


 「それでは話を聞かせてください」


 若干震えの止まった男性に目線を合わせる。冷えた床までは俺にはどうしようもない。伝わるヒンヤリとした凹凸の感じられる床でも、他を見ては贅沢を言えない。


 「俺が言えるのはそこまで多くのことではないのですが、魔人の中に――七星魔人(しちせいまじん)ボグマスと名乗る魔人が居ました。攻め込んだ際、真っ先にこの王城を狙いに来た魔人です。そいつは王城に来るとまず国王陛下を探しました。確かその時「用済みだ」と言って。その後は俺も必死に逃げることだけを考えていたので知るのはここまでです。どうですか?情報としては十分でしょうか」


 七星魔人ボグマス……バルガンの言った7人の魔人の1人ってとこか。名を知れるのはデカイ。この言い方からして王城に務めていた者か。国王も多分殺されたな。


 「十分だ。聞けたのが貴方からで良かった」


 中々いいことを聞けたと思う。バカのように名を出してくれたのは知能がまだ人間に追いついてないからか。御影の地の情報ではないが、魔人のことを知れたのは満足だ。


 「ちなみに、どの刀をどう使ってどの剣技を使ったかは?」


 「聞く限りは極心技を使っていました。ですがすみません、刀の種類やどう使っていたのかまでは……」


 「いいや、気にしなくていい。極心技を使っていたと聞ければ文句はない。助かる」


 ホッと震えを止めた男性。徐々にストレスが消えていっているのだろう。


 「よし、では皆さんに情報のお返しを。とは言っても神傑剣士である俺にでもすぐにどうにかすることは不可能。少しの時間と1人の人間が必要になります。その上で話を聞いてください」


 恩はすぐ返す。立ち上がり、中央に立って再び全員の意識を向けさせる。ルミウはシルヴィアの隣に戻り、大貴族は遠くから口出しすれば殺すと脅されてるように無口。


 俺はローブを脱ぎ、肩に刻まれた紋章を千切る。黙って見る人の中には不思議そうに見る人も、変な人と思う子供もいた。


 「この中の1人が、このヒュースウィット神傑剣士の紋章を持ち、ヒュースウィットに救援を求めに行ってくれ。これがあればどんなことも信じられ、優先的に対応される国務となる。国境の門番にでも渡してくれれば、即座に動き出すはずだ。伝え方は自由。話し合ってどうするべきか答えを出すのが得策だろうけど」


 権力はこうして使うもの。人の命が懸かってる時の使い方を、そこの大貴族に教えてやる。

 少しでも面白い、続きが読みたい、期待できると思っていただけましたら評価をしていただけると嬉しいです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ