表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

146/258

第百四十六話 大貴族の抵抗




 これもまた、無駄なことを言ってもらわれては困るから。


 皆さん安心してください。神傑剣士が来ました。なんて言って息を吹き返したかのようにその話に乗り込むなんて、見えすぎた未来だ。


 「皆さんはじめまして。手前に座ってる人は良く見えて、既に理解してる人もいると思いますけど、俺たちはヒュースウィット王国の者です」


 統一されたローブと、その紋章。神傑剣士としての紋章は肩のため、胸に刻まれたヒュースウィットの紋章しか見えてない。


 どう見ても助けに来たという状況。そう解釈するここに居る大勢の民は、身を乗り出す者も居るほどに希望を持った。だが、残念。俺たちは直接助けるなんてことはしない。いや、出来ない。


 「何故ここに来たのか端的に説明すると、それは魔人の調査をするためです。俺たちは訳あって魔人について少しでも情報が欲しい。だから調査を続けているのですが、その上でどうしても頼みたいことがあります。俺たちに何かしらの魔人の情報を教えてくれないでしょうか」


 「何でも構わない。この200人の中から、有益な情報が1つでも聞けたならそれでいい」


 隣で凛とした態度を崩さず、威厳を見せながらもハキハキとルミウは伝える。その間の警戒も怠らず。


 「対価と言えば聞こえは良くないですが、教えてくだされば今よりも苦しみを得ることなく生きることが可能になります。これは保証であり契約でもあります」


 求めるものは魔人の情報。そのためにここへ来たのだから、今ここで捜索せずに1つの話を聞けるなら儲けもの。


 対価として救われることが条件ならば、人間は欲に従順な生き物、よく食らいつくはずだ。ただ情報を教えろと言っても返ってくる答えは信憑性が薄い。それを避けるためなら、等価交換が万能だ。


 「待て」


 静寂に包まれる、若しくは誰かが口を開くと思っていたが、まさか「待て」が1番先とは。


 先頭に座る、見た目は50後半程度の男。左胸にサントゥアルの紋章、鎖骨部分にはサントゥアル3大貴族家の首飾りを垂らした、いかにも「俺貴族ー」と言って権力を撒き散らしそうな弱々しい見栄だけの権力持ちが立った。


 「何用で?」


 「私たちは魔人に攻められてすぐ、各王国へ救援を要請した。だがそれに応じた王国は皆無。結局そのまま我が王国の剣士が戦いを挑み、多くの命を失うことになった」


 当たり前の誰もが知ることを淡々と述べる。が、次の瞬間、堪忍袋の緒が切れたのか、ブワッと憤りを顕にして投げかける。まるで鋭利なナイフを投擲するかのように。


 「何故救援に応えなかった!そのせいでどれほどの命が失われたと思っている!お前たちのような使徒が少しでも早く駆けつけていれば、被害は甚大にならずに済んだだろうに!そして来ては、こうして俺たちの調査の役に立てと、上から助けてやるから等価交換をしろと!よく言えたものだ!」


 ハァハァと息を切らすと、泣く赤子なんて関係なくその貴族の男は睨み続ける。死への恐怖、そして不満の募る生活を強いられたことによる矜持の損傷。ストレスからこうして吐き出さないといけないのだろう。


 分かっていても、お門違い過ぎて腹立たしい。


 「サントゥアルはよく御影の地へ調査へ向かわれてたと耳にしてます。ならば、こうして復讐のように襲撃されることは想定済みだったのでは?」


 「なんだと?!」


 口答えをするなと言われる前に、俺はそれを止めて続ける。


 「御影の地には好き勝手、己のタイミングで調査という名目で向かうくせに、急に襲われてはムカつく、と?見たところ貴方は貴族。サントゥアルの方針には従っている身ですよね?ならば因果応報ですよ。それなのに俺たち他国の剣士に救援要請しても来ないからと、自分たちの罪を他国(俺たち)に背負わせようと?どちらが上から目線なのか、明快ですが?」


 これだから貴族は。剣士が自分の盾になることを当たり前と思う曲がった考えを持つ。こんな状況でも失墜が怖い、か。バカバカしいな。


 「ならば、お前たちは他国の民が襲われていることを知っていながら、それを見過ごしただけのクズじゃないか!そんな奴らに情報提供だと?笑わせるな!」


 地位と名誉。与えるべき人間は選ぶべきだ。ヒュースウィットのように。


 引き下がることのない彼をどう宥めるか、そう考えてるが、大体この時は俺の役目はない。


 「ではなぜ同国のお前は生きている?」


 ルミウが歩き出し、男へ向かって投げかける。


 「……意味が分からん」


 「なら、分かりやすく言おう。神傑剣士や多くの神託剣士が死んでも、何故お前は生きているのか聞いている」


 「私は貴族だからだ。生きる価値がある!」


 「貴族だから?そんなの関係ないでしょ?多くの剣士が命を懸けて戦ってる最中、何もせず逃げ惑うお前に生きる価値なんて無いとは思うけど。そもそも守られることを当たり前と思うことが変。誰でもそうだ。多くの命を盾にしてここで生活している分際で、よくそんな傲慢なことが言えるな」


 その目は確かに殺意を持った。だが殺気までは飛ばさない。これだけの殺意からでは、精神的に崩壊するのが目に見えていたから。


 「助けてもらった身なんだ。お前のために死んだ誇り高き剣士を冒涜するな。自業自得。そして今ここに助けに来てもらえてることをありがたく思うんだな」

 少しでも面白い、続きが読みたい、期待できると思っていただけましたら評価をしていただけると嬉しいです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ