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第百四十四話 生き残り




 今のサントゥアルに似合わない雰囲気で談笑する俺らは、周辺の困り人を探すことはなく、一期一会で会った人、助けを求めてその声を聞いた人を助ける、を繰り返した。


 王城に着いた時、助けた人は12人しか居なかった。時間も大切だったため、人数的には少なくて良かったが、逆に少ないということはそれだけ人が減ったということ。


 1kmは歩いたというのに、全壊半壊の街を歩き続けてたった12。これは深刻さが伺える。一刻も早く救援要請をした方がいいだろうな。


 それらを他国の民ながら伝えるのも役目だと、勝手に思って俺らは王城内部へ侵入する形となった。確かな手続きで入国すらしてないし、増してはそんな管理をするほど情勢は整ってない。


 気にする人もいないのだ。だから侵入。


 そんな俺たちは王城で最も開けた場所、俗に言う謁見の間というやつだ。そこに3人揃って横に並んで立っていた。誰からも視線は向けられない。人気も無い。


 これは流石にそういうことかな、と諦めモードに入ると、それを即座に覆された。


 「誰だ!」


 威厳を成す玉座としての意味を持たなくなったその壊れた椅子が添えられた間から、1人の影が目に映る。声は張られ、男と判断可能なほど低く確かな声音だ。


 赤々しく基調された絨毯はサントゥアルの象徴である王族特有の眼の色――檸檬色の縦筋と共に鮮やかさを失い、砂や瓦礫の破片で汚されている。その上に睨みを利かせて男は立つ。


 「あぁー、すまない」


 敵対する気はない。この男は人間なのだから。ルミウと顔を合わせて頷き合ってそれは確認済み。俺は深く被ったフードを下げる。


 「……ん?その紋章は……」


 フードを下げたというのに、全く関係ないフードの右肩部分に刻まれたヒュースウィットの神傑剣士の紋章に目を向けた男。


 「まさかヒュースウィット王国の神傑剣士様であらせられましたか!これは失礼を!」


 静寂な間を一気にひっくり返すほど大きな声で謝罪を述べる。


 「いやいや、そこまで改まらなくてもいいって」


 こういうのには慣れてない。好きではないため、敬われるなんてそんな素晴らしい功績を残したわけでもない。元々俺は――。


 男は片膝をついて謁見の間に相応しい姿勢でこちらを見る。玉座の側にいるので、立場が逆転している。


 そんな男の右肩には細く尖った短刀の紋章。俺もそれなりに知識はある。これはサントゥアルの神託剣士の紋章だ。5王国の中で最弱の剣士団と呼ばれるのがサントゥアルだが、実力は確かなものであるため、その差は微々たるもの。


 今はリベニアが最弱だけどな。カスの掃き溜めだぞ、あれ。


 未だに構えを改めない男は、頭を下げながらも言う。


 「失礼ながら、何故ヒュースウィット王国の神傑剣士様がサントゥアル王国へいらっしゃったのですか?」


 どこの王国からも救援に来なかったということか。誰も来ないのに今になって来た理由は、流石に不思議に思うだろう。


 この話し方からして敬う人には正しく接するのが男の大切にすることなのだろう。


 「調査のついでに人助けだ。それ以外はない」


 嘘はつかない。人助けのついでに調査として、優先順位を人の命へと遠回しに伝えるのが無難だろうが、俺は正直者だ。騙すようなことをして期待させるのは性に合わない。


 「なるほど……」


 「今度は俺から質問だ。他に生き残りは居るのか?神傑剣士でも神託剣士でも守護剣士でも一般剣士でも。誰でもいい。王族でも貴族でもな。この王城内に、どれほど生き残った人は居るのか聞きたい」


 思考させる暇を与えない。変に興味を持たれるのも避けることだ。ここでは5ヶ月の滞在を予定しているが、調査に満足したら即戻らせてもらう。


 手助けするほど、俺は優しくない。


 「はい。この王城に残る生き残りは、現在使用可能な部屋の中に避難してもらっております。人数はおよそ200人。多くの貴族や剣士が生き残りました。ですが……残念なことに神傑剣士は全員が亡くなり、神託剣士も私含めて21人しか生き残れませんでした」


 全力の上で完全敗北となったことを、悲しく、現実を突きつけられた後に口にするのは苦しいだろうに、説明し終えた。


 「そうか」


 神傑剣士が全員死亡とは、忠誠心の高い気高い剣士だったのだろう。命を国民のために懸ける。簡単に出来ることではない。


 感化されてしまう。こうなるなら来たくなかったな。


 「魔人はどうなった?」


 「魔人は7割は排除したと思われます。残りの3割はおそらく御影の地へ戻ったと推測されます」


 7割か。3桁が押し寄せてきたのなら十分すぎる成果だ。神傑剣士と神託剣士がどれだけ力を尽くしたかよく分かる。魔人化せずに死んでいったというのも、感情のコントロールが万全だった証拠だな。


 「了解だ。ところで君の名前は?」


 俺は名乗らない。いつか分かるのもあるが、単に好みではない。


 「はっ。サントゥアル王国神託剣士第7位――リフェン・シュラインヒと申します」


 「ではリフェン、俺たちをその生き残った人たちのとこへ連れて行ってくれないか?」


 俺もまだまだ優しさは残ってるらしい。どうしても見過ごすわけにはいかない。きっとこれが普通なんだろうけど、俺からすれば少し驚きだ。


 「了解です!」


 希望を持ったその黒眼は、心底嬉しそうだ。

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