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第百四十三話 早すぎる




 向かうは、ここからでもよく見える王城。王都内から見れば、少し盛り上がった台地の上に城壁を構えて象徴のように聳え立っている。だが、今では王城らしさは欠片も無く、亀裂の入った壁や既に崩壊済みの一部が、遠く離れたここからでも余裕で分かる。


 おそらく王城を狙っての襲撃だったのだろう。それまでの通路として、ありったけの家や人間を滅して進んだってとこか。


 まだ建物としての原型を保つ家は何軒も存在した。先程の襲撃までの通路であった男の家、あれほどまでに全壊とはいかず、少し逸れた家は住める様子は残されていた。


 王都を破壊すれば襲撃も落ち着く。魔人らしく考えた結果か。


 フードを被っているからか、通り過ぎる人の視線が畏怖の念に駆られ、俺らを見ていた。人から怪しい人と見られることを好む精神年齢は卒業している。ローブを身に纏うのは単に武器を隠すためだ。


 そこらを歩く人が魔人の下に就いた奴隷の可能性だって捨てられない。ならば常に疑心暗鬼で、誰からも悟られない動きを求められる。これくらいは生まれた時から本能で理解している。


 男の家から少し歩くと、感覚、王城まで半分の位置まで来た。


 「ここの人たちは食料は確保してるの?さっきから青果店とか精肉店も、商業として機能してる店を見てないけど」


 シルヴィアが辺りをキョロキョロしながらも、歩いて来た中での違和感を伝える。


 「ほぼ全壊だしな。生きてるってこと自体が奇跡だ。そんな人口の減った王国で商業とか、人のために尽力するほど気力も体力もある人は、そんなにいないだろ」


 「なら飢え死に?」


 「元々助けるつもりはなくブニウにも救援には行かないと伝えたが、ここに来た以上は見て終わりって気分悪い。飢え死になんてごめんだしな」


 少なくとも出来る範囲で動く。優先順位は調査の次に人助けだ。


 「対価って形で、魔人の攻め込んで来た状況を聞く代わりに手伝うって方法で良いだろう。まぁ、急ぐは王城内だけどな」


 状況の把握は国是を始めとした、王国の把握を可能とさせる王国情報の保管庫、王城に向かって聞くことが必要となる。


 少なくとも1人くらいは生き残って居るだろう。たとえそれが執事でもメイドでも構わない。どのような状況でここまで追い込まれたかを聞ければ十分だ。


 「それにしても、ここまで攻められるとはな」


 「それは思ってた。ヒュースウィットからリベニアまで1日もあれば駆けつけれる。ブニウのことも考慮すると当たり前。それでサントゥアルからヒュースウィット、ヒュースウィットからリベニアなら2日半で来れる。最低の時間で考えて全力で情報員が向えば2日も使わずに情報を伝えれる。そう考えると、このサントゥアルはたったの2日足らずでここまで破壊されたってことになる。あまりにも早すぎるよ」


 歩き始めてから何かを考えていたルミウは、1つの王国を滅ぼす寸前まで到達したことに疑問があり、それについて首を傾げていた。


 確かに、神傑剣士が12名。神託剣士が88名存在して、魔人の軍勢に2日で負けるなんて信じられない。たとえそれがこの世界最弱の王国だとしても、実力者はその中に多く存在する。


 それらを2日で打ち破ったのなら、少々面倒なことが増えるだろう。


 「タイミング良く御影の地に派遣されてた、とか考えられそうだな。そうでないと、神傑剣士を凌駕するほどの魔人が何体もここに来たってことの証明になる」


 信じたくないことだ。もし、王城に神傑剣士が全員揃ってるなら安堵し前言撤回するが、おそらくそんなことはないだろう。国民が死んで、神傑剣士が全員生き残る。バカな話だ。


 「若しくは加担してた、とかね。タイムリーだけど、その可能性も捨てきれない」


 「うわ、ルミーのそれ当たりそう」


 「正解したら責任取れよ?」


 「構わないけどね」


 どこでも自信満々なのは、この空気感に押されてない証拠でもある。正直助かる。


 「今思い出したが、バルガンによると7人の魔人の中での猛者が存在するらしくて、人間の言葉を流暢に話すらしい。もしかしたら可能性あるぞ」


 マークスでも足元に及ばないほどの猛者と言われる相手。ただの魔人でさえ、御影の地経由ならレベル6に届くと言われる力を持つのに、それらが敵わないマークスたち言語を扱う知能を持った魔人。更にそれらが敵わない7人。この先は険しいらしい。


 「ならここで1人殺るのもありかもよ」


 「同等の力を持ってるかもしれないぞ?殺せるかも怪しい」


 「全力で負けるなら受け入れるよ。それが神傑剣士だからね」


 覚悟が決まった瞳を覗かせる。いつ負けても、それが全力なら構わない、と。でも、その相手は俺にだけ、と伝えられてる気もするのがルミウらしくて嬉しさがある。


 「まぁ、ルミウが負けるのは想像つかないけどな」


 ルミウが死ぬなら先は絶望だな。死なせないが。


 「私は?」


 「シルヴィアは逆に何したら死ぬのか分からん。ずっと生きてそうだからな」


 「ははっ、それは私も分かる」


 「うわっ、ルミー久しぶりに笑ったんじゃない?」


 酷い言われようでもルミウが笑ったことの方が気になるらしい。確かに、俺も久しぶりに見た気がする。


 「私は声に出さないだけで結構笑ってるよ。ね?()()


 「いや知らないけど?星座に就いてたヒュースウィットに居る時も、そんなに見てないし」


 7座と星座で呼ぶ時、ルミウは何かを隠してる時。それがいい事だと知るのは俺だけかもしれない。

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