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第百四十一話 サントゥアル王国入国

ここから第三章です




 ヒュースウィット王国はリベニア王国の上に位置し、さらにその上に位置する王国がサントゥアル王国。ヒュースウィット王国を囲むかのように、ひし形に、残りの4王国は世界の土地に領土を持つ。


 リベニア王国の下が、所謂――御影の地と言われる魔境であるが、サントゥアル王国の上には水平線しか視界に入らないほど海が続いている。そのため、この世界がどれほど大きなものなのかの詳細は全く掴めない。


 サントゥアル王国から地が続けば調べられただろうが、世界はそんなに易しくないらしい。


 そんな雰囲気の掴めない、どこから襲撃してきたのかも不明瞭で、正直自業自得とはいえ可哀想だとは思う王国に、俺とルミウとシルヴィアは足を踏み入れた。


 ここに来る前ヒュースウィットにも入国したが、最短ルートで向かったため僻地を通り過ぎる程度であり、時間も無かったこともあって誰にも会わずにサントゥアルへ来た。


 もちろん王都と呼ばれる、王国最大級の栄えた街に居るのだが、そこはもう王都ではなかった。いや、正確には王都と呼べるほどの栄えた面影すらも皆無だった。


 魔人は去って行ったか、ここら一帯に瓦礫の山が散々としており、少数の人間がそれらの中に人が居ないかと捜索している様子。女子供全く関係なく、動ける人は駆り出されたかのように死んだ目で。


 見るに堪えない様子ではない。俺らには思い入れも無ければ、大切な人がここで暮らしていたわけでもないから。現地民からすれば、驚愕に震えるだろうな。


 もしも、御影の地へ調査へ向かっていたことを隠していたというのなら、この王国も大概だ。


 雨は降る様子は無いというのに、淀んだ空気感に感化されたように、空には無数の雲が陽光を遮っては嘲笑うように動かない。火事を鎮火させた燃え後も、無惨に飛び散っただろう赤々とした血も、その何もかもが絶望を教えてくれた。


 俺たちは開けた道を堂々とした姿で歩く。未だ助けを求める声はしないものの、少しでも耳にすれば自然と体は動くだろう。


 そして、とりあえずは情報のあるだろう王城を目指すため、少し早足でその場を抜けようとすると、その足は3人ともに寸分違わず止められる。


 「――あの!」


 声の聞こえる方向や声量的に、完全に俺たちに対して呼びかけたのだとすぐに理解した。振り向かずとも成人をとっくに迎えた男の声。若干震えて伝わるところ、身内の危機といったとこか。


 応えてやらないほどクズの落ちこぼれではない。振り向くとすぐにその男を視界に捉えて対応する。


 「はい。どうしましたか?」


 「いきなり呼び止めて申し訳ありません。ですが、お願いです。息子が、息子が瓦礫の下から助けを求めてるんです!俺1人の力ではどうすることも出来ず、どうか!」


 懇願する様子からして嘘はない。1秒が生死を分ける今、答えは決まっている。ルミウと顔を合わせると頷くことでお互いの意思疎通をする。念話は近くに実力者がいる可能性を踏まえて使わない。


 「分かりました。案内してください」


 「ありがとうございます!こちらです!」


 手はボロボロ、太ももからは痛々しくは感じられないが、痛覚を激しく刺激するほどには大きな傷が残っている。息子を助けるために無我夢中で気づいてないらしい。


 全力でその場を駆ける男は俺らのことを忘れたのか、振り向くことはせず、一心不乱に前だけを見て走る。追い付ける速さではあるものの、一般男性にしては速い。


 痛いだろうに……。


 まだ18である俺には、それなりの心情というものが存在する。だから、そう簡単に他人の希望の懇願には首を横に振れない。


 「ここです!」


 両手を膝に置くと、頭だけこちらへ向けてハァハァと息を切らして場所を教える。そこには周りと比べて大差ないほど全壊した家の下から、微かに響く声で助けを求める同い年ほどの子供の声がした。


 「分かりました。――ルミウ」


 「うん。分かった」


 おそらく姿が見えないとこから推測するに、この男も息子の位置は把握していない。声だけを頼りにしたか、1箇所だけ瓦礫が退かされているとこがあり、それは声が聞こえる先だった。


 何に於いても正確無比な気派を扱うルミウに、位置を特定するための状況を整理してもらう。場所はもちろん、健康体で不審なとこはないか、どこから助ければ良いのかの、まるで千里眼を行使するように。


 「場所は運良く出来た窪み。ここから前に6mで、左に2m半。その瓦礫の下に居る。力技だと負傷する可能性があるから急がず退かすことを優先に。あと、体は無事みたい。何日放置されてるかは知らないけど」


 「了解。シルヴィア、腰に下げてるホルダーから久遠刀取ってくれ。流石にオリジンと黒真を使うのは賢くない」


 「おっけー……はい、どーぞ」


 「助かる」


 素早い判断と行動により、連携は誰にも負けないと改めて思う。刀鍛冶が同伴する場合なんて滅多にないが、あるのなら刀鍛冶のホルダーに使わない刀を収めてもらうことはよくあること。


 「……何を?」


 この中で唯一何をするかを理解していない男は、俺の刀を持つ姿に慌て出しそうなほど挙動不審。


 「助けるんです。安全に」


 まだ声を振り絞って定期的に助けを求める。なんと忍耐強いのか、まだ諦めないその有り様は正直尊敬する。そして瓦礫の位置、量をある程度確認すると久遠刀を握った。

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