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第百三十八話 次の目的




 だが、ここで1つの目的を決めることは出来た。それでも助けに行くつもりはないが。自分にとってそれがプラスとなるなら、俺はなんとしてでもそれを掴むまで。


 「ブニウ、ついでに悪いが、ルミウは今どこにいるか分かるか?」


 「確かもう見回りに向かったと思う。私が要件を伝えるとすぐに」


 「あの真面目ちゃんらしいな。了解、ありがとう」


 「それでは、私もここで失礼する」


 お互い背中を向け合うと、すぐに背中から気配が消える。俊敏さは暗殺一家に不足なしであり、その速さは様々な神傑剣士を凌駕する。俺もその1人であり、手を全く動かしたように見えず、目の前で「今イオナを2回殺せた」と言われた時はヒヤッとしたのを覚えている。


 殺意があれば殺気は漏れるもの。だが、ブニウはそもそも殺意を知らないかのように持たない。生まれながらにして微々たる殺意を持つと言われる生き物だが、暗殺家らしくそれすらも理に反しているようだ。


 敵対したくないな。


 そんな杞憂をして、俺は自室へ戻った。


 ――それからどれほど経過したか、考えたのはこれが初めてかもしれない。あまりの退屈さに欠伸をしてはベッドの上で仰向けになる。することが無いのは意外としんどいのだと初めて知った。


 3桁を超える欠伸をしていると、それはやっと解放される。


 「君はついに調査も鍛錬も何もしない屍になったの?」


 リベニアの見回りへ向かっていたルミウが汗もかかず、息を整えて帰ってきた。細められた目は呆れた様子を伝えており、拗ねているのかと勘違いするほどジト目にも見えた。


 可愛いとカッコいいを兼ね備えてるのは罪だな。


 「そうだよ。全て俺がしなくても事足りているんだよ。何か仕事があればいいと思ったんだけどな」


 「私と代わる?」


 「激務は受け付けたくない。そもそもこの王国を守れるほど気持ちは固くないし、やりたいとも思わない」


 リベニアは王都が少し広い。人口は他国と比べると少ないのだが、それでも疎らに群れる分、守るべき範囲はそれだけ大きくなる。それを守れと言われるのは少しどころじゃなく大変だ。


 「少しはやる気を出しなよ」


 そんな俺を母親のように背中を押してくる。


 「一応モチベーションは上がってる。だけどそれはリベニアじゃない」


 「と言うと?」


 「俺はやることないからサントゥアルに向かおうと思う」


 「……え?」


 予想通りの、何言ってるの?という顔。いつ見ても予想外のことをされたり言われた時のルミウの顔は元気をもらえる。


 「魔人にボコボコにされたのは聞いただろ?だからそこで情報収集をするんだ。少なくとも生き残りは存在するだろうし、手がかりもあるはずだ」


 「でも私たちは1年間のリベニア滞在を約束したんじゃないの?」


 「いいや、1年間の師匠としての約束だな。情報収集をしながら師匠として1年間リベニアに籠もれと言われた。ならサントゥアルで情報収集をして、師匠も継続していたら何も問題はない」


 「……それ書き換えてない?」


 「さぁな。半年以上前のことは正確に覚えてない。書面にサインしたわけでもないし、確かなことを問い詰められることもないだろ」


 リベニアのことが色濃く記憶に残ったせいで、今ではヒュースウィットでの約束なんてほとんど忘れている。テンランに寂しくなったら会いに行けばいいと言われた程度しか確かに思い出せない。


 重要なことは覚えているが、個人での約束はどこかへ飛んでいった。


 「君って相変わらず適当だね。それで何故か上手く事を運ぶ」


 「神に愛されてるからな」


 信じてないけど。


 「ルミウは付いてくるのか?もちろん俺のことが好き過ぎて付いてくる以外に選択肢は無いだろうけど」


 「今ので行く気はなくなった」


 「そうか。なら1人寂しく行ってくる」


 「冗談だよ。君を1人にすると何が起こるか分からないからね。監視役としてでも誰かが同伴しないと」


 「愛、漏れてるぞ」


 「黙れ。今すぐ斬るぞ」


 この会話は俺にとっては心の安らぎであり、余裕を作るためのスキンシップのようなものだ。しかし、いつもと違って殺意も小さく殺気も放つことは無かったのは気になるとこ。


 疲れてきたのならそれなりに歪みはあるのだが、そんなこともなかった。こういう気まぐれがルミウにあるのは珍しい。


 そんなルミウは刀から手を離すと、詳しくその話を聞いてくる。


 「それで、向かうのは私とイオナだけなの?」


 「残り5ヶ月程度は調査の時間がある。だから人はそんなに必要ない。希望するならフィティーたちも連れて行くつもりだが、王女を他国へ連れ出すのはあんまりよろしくないからな」


 「そうだね。長期滞在なら刀鍛冶は必要でしょ?」


 「ニアとシルヴィア、ルミウはどっちを連れて行きたい?」


 「私はシルヴィアだね。相性的に自分のことを考えるとそれは揺るがない。でもニアには天才的な能力があるから、それを考慮するとニアでもあり」


 周りに多すぎて忘れがちだが、固有能力は稀に持つと言われる希少な存在。シルヴィアは持っていないが、それを補うかのように先天性の才能を持つ。代わりにニアは才能と同時に固有能力も持つ。


 どちらも捨てがたいが、どちらでも良いという逆の葛藤が生まれてしまう。


 「なるほどな。それならシルヴィアを連れて行くか。フィティーの刀を製作するニアは重要な役割を担うし、俺はこの刀を折ることもないだろうからな」


 「すごい自信。いいの?毎日のように抱きつかれるよ?」


 「ルミウを盾にするから心配してない。そもそも寝ないし、抱きつけばすぐ剥がすからな」


 「それもそうだね。私からも色々と頼むよ」


 何を頼むのか一切理解してないが、これから先の俺たちの目的は少し固まったのは良かった。

 少しでも面白い、続きが読みたい、期待できると思っていただけましたら評価をしていただけると嬉しいです

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