第百三十七話 助けはしない
御影の地の情報は、正直こうして手に入れられたのは大きい。自分たちで魔人と戦闘し、その上で様々なことを聞き出すつもりだったため、楽が出来た。
しかし、同時に面倒なことにも気づいてしまった。あいつが魔人と繋がりがあるのなら、ここからのリベニアの統制をどうしていくかが、自然と俺たちに問われる。
殺してしまうのなら、その責任を背負う必要がある。フィティー1人に全てを任せるのは簡単なこと。しかし、フィティーもそこまで王族としての振る舞い方という点に於いて、知識が乏しく、国民に認められているかといえば頷けない。
だから、早くても王座に就くのは力の証明となる御影の地から帰還した後。それまではバルガンに形だけでも統制してもらわなければならない。
腐りきったジジイの統制なんて失墜し終えた王国と同じだな。
「面倒増やすなよな……」
現在ヒュースウィットを出国して約7ヶ月。残りは5ヶ月この場にて調査や鍛錬を積み重ねることが可能というわけだが、たとえ時間があれど、面倒をこなすのは骨が折れる。
これからするべきことなんて固まってすらいない。師匠としてのやるべきことは尽くしてきた。もう教えることは剣技の種類や型だけ。その他はもう文句を言えないほどに成長をしている。
「考えることも増えてるのか……」
今日で一気に多忙から解放された俺は、逆にこの静けさが落ち着かなかった。日々、何かの調査や、誰かに見られてるなどといったことから注意を怠ることなく索敵を繰り返していた。だからこそ、異様に静かなのが受け付けない。
ルミウが犯罪を減らしていると聞くのだが、1人で事足りている様子なので手助けしようとも言えない。フィティーも、そろそろ俺が一緒に教える段階は卒業している。ニアもシルヴィアも関われるほど、俺に知識がないため邪魔はしたくない。
職業病か、俺は腰に下げた鞘を左手で擦っては何かないのかと探し、無いと自問自答を繰り返す。
そんな時だった。何をするべきか悩む俺に、気取られないよう潜む人の姿が後ろにあった。
「いつから居たんだ?もしかしてあいつと話してた時からか?それともその前から?」
「今って言ったら信じるかな?どうせ私程度の実力だとイオナには隠しても気づかれるだろうし、それを知ってるから冗談で聞いてきたんでしょ?」
「どうだろうな。女性ながら平民暗殺一家――シック家の当主は足音はもちろん、その他の行動に一切の音と気配を立てないと言われているそうだ。そんな人なら俺に気取られないように動くのは容易と思えるけどな」
「それこそどうだろう。王国最強には、平民暗殺家の低レベルな暗殺動作なんかでは全く意味を成さないんじゃない?」
「俺にそんな繊細なことは出来ないから低レベルじゃないし、そもそもブニウが神傑剣士としての実力を兼ね備えてるからそう言えるんだよ。意外と気づかないもんだぞ?神傑剣士の暗殺って」
振り向けば鮮やかな碧の瞳を輝かせ、茶髪を後ろで結ぶ姿が目に入る。周りにもシャンデリアや絵画など、目を奪いそうな美品はいくらでもある。それをも無視して目に入れたくなるほどの美しさ。流石は神傑剣士。全員が容姿端麗なだけある。
「それで?今来たって、なにか用事があるってことだろ?」
「もちろん。ヒュースウィットで、国王が全神傑剣士に対して神集を発令したんだけれど、流石にイオナとルミウを引き戻すわけにもいかないから、私が伝言しに来たって形」
「珍しいな。国王からってことはそれほどヤバいことって気がするんだけど」
12神傑剣士会議は少し前に行っただろうから仕方なく神集で集めたってとこか。全員を国王が招集するのは異例ではある。全員が集まることは年に2回と言われるほど少ない俺たちだが、それを覆すことになっていたのなら、予期せぬ出来事でも起こったか。全員なのが1番気になる。
「私たちにあまり関係ないように思える自業自得の話なんだけど――サントゥアル王国が崩壊寸前まで魔人に追い込まれたらしい」
「……崩壊寸前まで追い込まれた?」
「御影の地へ攻め込み過ぎた結果、それを面倒と思ったか100を超える魔人が一斉に押し寄せて、その結果大敗。神傑剣士ですら全員が死んだって」
「まじかよ……」
基本他国についてはどうでもいい考えを持つ俺だが、これは興味を持つ。確かにサントゥアルは御影の地が大好きな変人国王により統制された王国なのだが、猛者は存在していた。
それらを滅殺し、2度と送り込まれないようボコボコにしたというのは、これからその地へ向かう俺からしたら気になって仕方ない。
「そこで、見捨てるか助けるかの2択を迫られた私たちなんだけど、2人を除く全員の意見は一致して見捨てるの選択。だけど、2人の意見が助けるなら私たちはそれに従うことになってるから、一応聞く」
「おいおい、俺らの手下みたいな言い方やめてくれよ」
多数派で決めてもらって良いんだけどな。優柔不断ではないが、迫られると答えを濁したり引き伸ばしたりしてしまう。
「でもまぁ、答えは俺も1つだな。多分ルミウも同じだろ」
「ルミウには先に聞いてるから後はイオナだけ」
「はいよ。もちろん俺は――見捨てる。だ」
「ルミウも同じ。これで12人の意見が揃った。それらを伝えておくよ」
「助かる」
俺は神でもなんでもないただのヒュースウィットの国民だ。どれだけ他国が死にそうでもそれは俺らの範囲外。
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