第百三十五話 情報のための拷問
そう。この世界は剣技世界だ。確かにその他、貴族生まれだから、王族生まれだからという理由で元々の権力は決められている。だが誰もが知り、何よりも優先するべきことは力の差だ。
「今殺したら問題があるからな。腐ってもお前は国王だ。後継を決めないで死ねば混乱に陥る。まぁ、お前は今も何もしてないようだし、俺にとってリベニアなんてどうでもいいから何をしても構わないけどな」
大事なのは国民の命だ。リベニアでも筋を通せというのなら俺はリベニアの国民だけを守る。逆に危機へと追い込むこいつは不必要な存在。
無駄は嫌いなんだよな。
「どうする?情報を吐かずに死ぬか、情報を吐いて死ぬか。死ぬことに変わりなくても、時間には多少の変化はあるだろ。多分、俺がお前を殺す方が後だな」
選択肢はどちらも死。それは魔人と手を組んだ時点で見えていた未来だ。なにか弱みを握られたのか、自分から進んでその道を選んだのかは知らないが、この男に国王としての責務を全うし、死ぬことはあり得ない。
バルガンは少しの沈黙の後、その開きたくない口を無理矢理開いて答える。
「私はあの御方に忠誠を誓った。ならば最期までそれは変えられん」
「はぁぁ、言いたくないってことだな?」
少し期待していた。こいつならすぐ心変わりをしてくれると。だが、思っていたより、恐怖による強制は死を前にしても揺るがないほど失われなかったらしい。
「ああ」
「あの御方とか、誰なのか気になるし、怠惰なお前が忠誠を誓うとかいうのも気になる。他にも魔人について、御影の地について気になることばかりだ。だから、まだお前が魔人じゃなくて良かったと思う。今すぐ殺さないで良いんだからな」
「……殺さないのか?」
呆れて戻ろうとする俺の背中に、俺の望みの言葉が届いた。その瞬間に踵を返し、俺は再びバルガンのベッドの隣へ立った。
希望が潰える瞬間というのは、どうも耐え難いものだ。
「そう思ったら俺の勝ちだ」
ベッドに尻をつけ、上半身だけ起こした態勢のバルガンの、体の前に出していた左小指一本だけ狙って斬り落とす。
「――っ!あ"ぁ"!!」
すぐ横でけたたましい声で耳に響かせる叫び。何故か俺はこれに気分を悪くすることは無かった。それほどに俺も落ち着きを無くしてしまっていたのだ。
「人間って面白い生き物だよな。不意に対して偽りのない素直な反応を見せるんだから」
「……くっ……貴様……何をする!」
「俺が殺さないことに少し安堵しただろ?それは恐怖の底に墜ちる材料でしかないんだよ。安堵した瞬間に不意に危機迫る状況を作れば、それはもう面白いくらいに落ち着きを失うってもんだ。だからそれを有効活用する。――今からお前に10秒間隔の時間を無限にやる。その間1回につき1つの御影の地の情報を吐いてもらう。だが、もしその時間内に吐かなかったら指を次から次に斬る。分かったか?」
俺はまともな人間ではない。国民の命を守る使命に取り憑かれた、人間とは呼び難い生き物だ。国民の命が失われるのなら俺が身を挺して守るし、守れなければ激しい憤りを覚え、その相手を抹殺しに向かうほど落ち着きを失う。
欠点だと分かっていても、この使命は俺が生まれながらに持った縛りなのだと、自分では思い込んで、平和のためとポジティブに考えることにしている。
まるで理想郷を描いているかのように。
「ちなみに拒否権はない。お前が頷かなくても始める」
左手を覆いながら唸っているが、俺にとってそんなことはどうてもいい。知るべきはこいつの今までしてきたことの情報と、御影の地の情報。そして裁きを下すのが俺の役目である。
「それじゃスタート」
心の中でカウントを始める。俺にはこいつが答えるという確信があった。今まで恐怖という恐怖を感じたことは、その魔人と手を組んだ時だけであり、ここ最近は怠惰に好き勝手暮らしていたからこそ、今を余計に恐怖と感じてしまう生き物である人間は今が耐えられない。
そうなれば少なくとも今を回避しようと本能は動く。たとえ「あの御方」に殺されるのだとしても、今より遅ければ、生きれる可能性はあるのだと思ってしまう。
残された道がどれだけ狭くても、可能性という言葉に釣られてしまう。俺も、目の前の確実な死よりも、小さな生きる可能性を選ぶしな。
――それからというもの、俺の予想は的中していた。残り2秒と口に出すと、何かが崩れ落ちるかのように頭を抱えて叫び出し、命乞いを始めた。
今まで上からの態度を変えたことはなかったのに、目の前では泣きじゃくる国王が居た。醜くて滑稽。これがこの王国の最上位なんて、哀れに思う。
人間であるバルガンの嘘を見破れるほど、俺の気派は長けている。だから言われる情報が本当か否か、それを判断しては指を斬るか決めていた。
まさかこんなことになるとは誰が想像したか。魔人と手を組むことが何故知られたのか、全ては相手が俺だったと運が悪いことを呪うしかない。
鮮血がベッドの上に吹き出し、止血をしながらも地獄は続いた。全ての情報を聞き出すまで逃さないつもりの俺は、どれだけ苦しもうとそれをやめなかった。今まで与えた苦しみをこいつにも知って欲しかったから。
そして全てを聞き終えた時、バルガンの左手首から上が全て消え、右手は無傷だった。
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