第百三十四話 正体
少し落ち着いたか、呼吸を次第に整えると、俺と目を合わせる。初めて死を感じたか、その目は死んでいて涙目だった。
「……貴様……なんのつもりだ……」
「いやー、何回も起こそうとしたが起きる気配がなくてさ。無理矢理起こさせてもらった」
「不敬な!私を誰だと思っている!」
すぐ隣であるため、耳に劈くほどの声が届く。耳が悪いと聞こえるように声もうるさくなるのだろうか、厄介ジジイだな。
「王様だろ?知ってる知ってる。そんな叫ぶなよ」
「ならなぜこのようなことをする!」
「お前に用事があるからに決まってんだろ」
「用事だと?」
「ああ。お前はまだ知らないのか?この王国の神傑剣士が2人死んだことを。それも第1座と第2座のトップが。それに関することだ」
「……マークスとザーカスが?」
信じられないという面持ち。俺もヒュースウィットの第1座と第2座が死んだと聞けば信じられない。同じ気持ちではないだろうが、強さを認めていた剣士が死ぬことは受け入れ難いものだ。
眉を寄せて何かを考える。それがなにか、俺には曖昧にしか分からない。それでも、どんなことを考えているかは予想つく。
「俺が殺したんだけどな。この王国の敵だったから」
「信じられん。貴様は何を言っているのだ?この王国の神傑剣士が敗北などあり得るわけがない!」
「それは魔人の力を持つからか?」
「!?」
目を見開いて、図星をつかれたかのように驚きを隠さない。いや、隠せない。不意に自然と反応してしまうのだ。まさかそんなことを知っているとは、なんて思ってたりするのだろう。
「ここに入国してから違和感はあった。魔人の出現率が変動することや、国務としてマークスにウェルネスの排除を任せてることに偽りがないこと。自由人という理由で好き勝手動くことや、お前に常にあるその安心感も。全ては魔人であるマークスの存在を容認し、裏で手を組んでいたんじゃないか?」
やっと脳も覚醒したか、ここで初めて動揺を見せる。隠せないところはバレると思ってなかったから。ただの肥満体型の男に、それを隠すほどハイレベルな技術は持ち合わせていなかった。
「ウェルネスのことも知った上で、最終的には魔人化をさせるために長々と放置しただろ?マークスの力なら1人でもウェルネスを壊滅させることは可能だった。その実力は持っていたからな。だが、しなかったのは自由人という理由だからではなく、魔人として使えるまで生かしていただけ。だからルミウが治安を守り始め、俺らが本格的にウェルネスと戦闘を構えようとしてから押し寄せる魔人の数が減ったんだ。違うか?」
確定したことではないが、これは間違いないとは思っている。色々と辻褄が合う。
「……さっきから貴様の言う意味が分からん!」
「端的に言うと、お前が魔人と繋がって何かの利益を得てるんじゃないかってことだ」
大きなデメリットをリベニアの国民は抱えていることになる。しかし、その分大きなメリットだってあるはずだ。命の保証なんて小さく思えるほど大きな。
布団を掴む両手に力が込められる。刀を抜くにもホルダーは近くにないし、素手で勝てるほど俊敏さはない。分かってるからこそ俺を殺せない。圧倒的不利な今、死すらも覚悟するつもりなのか。
「嘘ついてもバレるのはお前も知ってるだろ。だから正直に吐けよ。別に殺そうと言ってるわけじゃないんだ」
今は。
「……私に何を求める?」
「おー、認めたか。やっぱり正解みたいでなによりだ。それで、何を求めるかって?俺は御影の地の情報が知りたいんだ。そもそもの目的は御影の地へ向かうための調査をここですること。だが、残念なことにリベニアの情報はそんなに使えなくてな。だからお前から聞きたいんだ」
フィティーから時の流れについて聞けたことは途轍もなく大きなメリット。だが、それだけでは死が待つだけ。聞きたいのはその中の情報だった。
正直リュートやマークスから聞き出したかったが、あの時ニアとシルヴィアのことで落ち着きをなくしてしまったがために、忘れて屠ることを楽しんでいたので無理だった。
そんな時にこいつが王城で騒動が起きても寝ていたということを聞いて、色々と思い出した結果、繋がりがあるのかと思ってチャンスを狙って訪ねたら、なんと大正解。ラッキーだった。
「それは無理だ!」
「なんでだよ」
葛藤している様子。言っても言わなくても死を迎えるのが肌で感じるのか、契約を交わせば何かしらの絶対が発動するか。何かがあるのだろう。
「私は命を保証されている代わりに何か情報を吐けば殺されるのだ」
「あーなるほどな。ならいいんじゃないか?どうせ言っても言わなくても殺されるんだから。俺はいつかお前を殺すし、それは今後多分変わらない。とはいっても国王だからな。今すぐ死んだら困るから次期国王が決まるまでは生かすけど」
「お前が私を殺す?」
「国民を自分のために殺す国王は死んだ方がましだろ。何より俺の仲間を傷つけそうになったんだから、それは万死に値するからな」
「……貴様、私は国王だぞ」
「だからなんだって言うんだ。どうせ俺を捕らえれる剣士は存在しないんだ。それに剣技が全ての世界で、お前が俺との刀を交えての勝負で負けたなら、それは理通りにお前が俺より下の存在だってことの証明だろ。なら咎められるいわれはない」
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