第百三十三話 やるべきこと
王城内に戻ると、確かに時間は経過していたというのに未だ喧嘩を続けて、睨み合いをする2人が居た。その場にルミウがいないとこを見るに、今頃リベニアの治安を守りに行ったのだろう。ニアは工房だな。
俺らが居なくなったことにすら気づいていない様子の2人は、どれほど熱中していたのかよく分からない。共感性のない話には当たり前か。
「そろそろ止めろよ。1時間くらいその調子だろ?ルミウとニアからもめんどくさがられてるぞ」
扉を開いて早10秒。全く見向きもしないで獣のように唸るので、あまりにも見ていられなかった。流石に容姿が良くても奇行は見るに堪えない。
「ババアが消えるなら私も楽しく作業出来るんだけどね」
「そういう自分のことばかりしか考えないガキが消えればいい。早く工房に行って刀でも製作してきな」
「……喧嘩するほど仲がいいって言うもんな。相変わらずで逆に安心してきた」
最近は望まないことで疲れることが多々あったため、こうして久しぶりの日常を感じれるのは大きな心の安らぎだ。ヒュースウィットにいた際、2人の喧嘩は滅多になかった。理由は単純にシルヴィアがおかしな部屋に住んでいるからなのだが、それも相まって刀を依頼する時しか見れなかった。
それをこうして何回も見れるというのは幸せなものかもしれない。
「それはないよ」
「同じく」
「はいはい、分かった分かった。俺はまだ用事あるからまた後でな。フィティーも、今日はもう休んで明日からに備えてくれ」
「ん?多忙だね」
「そうだな。この王国も面白すぎて飽きないのが唯一の良いところだからな」
「ふーん。それじゃ、私は部屋に戻るから」
「ああ」
まだブツブツ呪文のように悪口を言っている2人を横目に、フィティーは一礼するとその場を去る。中々疲れただろう。神傑剣士の相手に王城内にいる国民の誘導、慣れないことは体力を余計に奪うものだ。ゆっくりしてもらいたい。
残るブニウとシルヴィアは放置だ。俺がなにか解決するようなことを言えば、難なくその場から解き放たれるかのように持ち場へ戻るだろう。でも、それが思いつかないし面倒なので欠伸しながら俺も別の仕事場へ向かう。
仕事場って言っても、すぐそこなんだけどな。
扉を閉めて再び歩き出すと、今日の振り返りをする。すると思う。やはり働きすぎなのではないだろうかと。
神傑剣士相手に本格的な魔人2人。酷使するほどの相手ではなかったが、流石に近しいレベルの敵を相手にするのは骨が折れる。
情報が無い点に於いては、少しでも魔人化した者から得る必要があった。そのため、気派をさらに強化し、感情や思いを把握するために大量に消費した。だから本当に久しぶりだ。ちょっとした疲労感を覚えるのは。
剣技でも8割の力を出したからなのだろうが、五感がヘトヘトだ。特に視覚は、剣技を放つ前に止めるというおかしな遊びのせいで酷使一歩手前だった。
まじで次から気をつけないとな。この遊ぶ癖は危ないわ。
ベッドに横になりたいと思いながらも、少し楽しめた戦闘だったと満足げに俺は切り替えながら歩く。廊下の両端に傷1つ無い。魔人が襲ったとはいえ、やはりリュートならばそんな危害を加えることはしてない様子。
これも作戦なら、賢くはないかもな。違和感を覚えた、その時点で負けだ。
目的地に着いた俺は扉を少し強めに叩く。しかし10秒経ってもそこから返事は返ってこない。寝ているかもしれないので、もう1度、さらに強めて叩く。バンバンと大きな音は俺の憤りを微かに漏らしていた。
だがそれでも返事はない。死んでるなんてありえないので、俺はもう地位や権力なんてどうでも良いと思い、いや、どうにか出来ると思い、許可なく入室する。
ガタンと音を立てて開く扉の先に見えるは、やはり幸せそうな表情でスヤスヤと眠るリベニア王国の王だった。
「老いぼれは耳も悪いのかよ。まだ50手前くらいだろ?マジで大丈夫なのか?」
独り言で愚痴を呟くほど呆れている。肥満体型に荒いいびき。どれを見ても王様と呼び難い有り様だ。
「おいバルガン、何寝てるんだ。久しぶりに会いに来てやったから起きろ。話があるんだ」
顔の横で少し声量を上げて、ベッドを蹴りながら起こす。一国の王にしていいことではないが、あいにくとそういうことは俺は疎い。王国と王国の橋渡しのために来たわけでもないし、別にどうでもいい。
俺の呼びかけに、まだ夢の中から出てこないバルガン。しかし顔は顰めていて、悪夢でも見ているのだろうか。それならそれで気分は少し良くなる。
ここまで来て無駄を過ごすのは嫌だった。俺は無理矢理起こすことにする。首を右手で掴み、頸動脈を圧迫。序に日頃の怠慢を反省させるために、肺を左手で圧迫する。
「早く起きろ。ってか首元太すぎて力込めないといけないの大変だぞお前」
グッと血管が浮き出るか浮き出ないか、右手を見て待っていると、そんな暇もなく、バルガンは悪夢から目覚めるように体を物理的に起こそうとする。
だが、首を絞めている俺の押さえつける力から逃れることは不可能。肺も圧迫されているため、起きても呼吸は難しく、死を一瞬過ぎらせるだろう。
これくらいでいいっしょ。
両手をバルガンから離す。その瞬間にバルガンはゲホゲホと激しく呼吸を繰り返す。不健康体そのものなので、その様子に全く違和感はない。
「おはよーっす。今から話をしよう」
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