第百三十二話 ウィンダーレイション
「それで、フィティーの固有能力についてどんなことが分かったんだ?」
固有能力の種類は知らないため、何を言われても分からないが、それなりにある程度は把握可能なので、一応聞いておく。
「フィティー王女の固有能力は――ウィンダーレイションって言われる能力だよ」
「ウィンダーレイション?初めて聞くな」
もちろんどんなものでも初耳である。
「ウィンダーレイションっていうのは固有能力の中でも珍しいタイプの能力。風級剣技を使用する際に、風を纏うことが可能になるだけの単純明快な能力なんだけど、それが凄く強力なの。気派の量や質によってその強さを変化させられるから、レベル6のフィティー王女なら結構な力となると思うよ」
「マジで?ここでもそういう天才ぶりを見せてくるのかよ」
「イオナだって、私が足元にも及ばないほどバケモノでしょ?そこは私よりも上じゃん」
「成長速度と加味すれば段違いだろ」
現に、18年でここまでの俺に対して、半年でここのフィティーは正直恐怖だ。鍛錬は日々欠かさず行うもの。俺もその通り毎日のように体を動かした。だからこそ、本気で取り組んでここまでの差が出ていることに驚きだ。
「ちなみに、他の火級剣技と水級剣技の2つに特化した固有能力と、エアーバーストって言われる剣技と同じランクに属してるよ。分かりやすく私たちのレベルで言うと、レベル5ってとこだね」
「なるほど。結構稀だな」
固有能力を持って生まれる人間は剣士、刀鍛冶合わせて確率では0.1%も無いほど低い。その中でもレベル分けがされ、その結果レベル5と同じなのは途轍もないだろう。
そしてレベル6であるフィティー。つまりレベル6でありながら、レベル5の固有能力を持つということ。確率で表せばどのような稀な存在かよく分かるだろう。
まぁ、この感じは俺どっちもレベル6とか言われそうだな。
「使い方には特別な方法とかあるのか?常時発動とか、意識して発動させないといけないのか」
「それは意識して発動させるのが当たり前。だけど、フィティー王女は例外で常時発動みたい。戦闘時に何か力が働いてそうなったのか、私は見てないからよく分からないけど、とにかくこれまた稀なことが起きてるのは事実」
俺は無言のままフィティーに「やっぱり変人だな」と表情で送ると、「恵まれてるって幸せだよ」と返ってくる。そういえば念話を試したことがないため、そこらへんの細かなコミュニケーションに関しては調べるのもありだ。
「なんにせよ、王女様は王女様らしく長けた能力を持って生まれたってことだね。なんか落ちこぼれとか悪い評価を聞くけど、全くそんな下馬評とは違って、天才ぶりを見せつけられた気がするよ」
「まぁな。俺が教えなくても独学でここまで成長出来る可能性を秘めるほどだからな。正直そこまで手は加えてないしな」
「そう?イオナがいたからここまで来れたんだよ。元々成長する希望もイオナと目指すべき場所が同じだったからだし」
「目指すべき場所?」
引っかかる点はやはりそこか。気になってますと言わんばかりにこちらを見てくる。圧こそないが、聞きたい欲は出てきている。
「御影の地だ。そこに行って帰ってくるのが俺らの第1目標なんだ」
「御影の地に?無茶だよ。だってあそこって誰も帰って来ないで有名なとこでしょ?神傑剣士でも帰らないとか聞いたし」
誰もが聞いたことあるようなことで止めてくる。知り合った人に対しての優しさだろう。こういうことをされると、余計に守りたいと思ってしまうのは職業病というやつか。
「だから行くんだ。俺はそういうのに挑戦したい年頃だからな。それに、そこらの神傑剣士とは違うからな。俺の腕に触れてみてくれ。そしたらよく分かるぞ」
「分かった」
黙って俺の右腕をガシッと掴む。触れてくれ、この意味を固有能力を調べろと受け取ったシャナリーは静かに目を閉じて調べる。
「……これって……」
「これが俺の固有能力だ。少しは違うと認めてくれたか?」
「レベリングオーバー……歴代でも数少ない稀の中でも稀な能力だよ……これは驚いた」
未だに手を触れながらその感覚を掴み、確かめる。それが偽りでないと知った時の一瞬の顔の強張り方は中々のものだった。
「この力と、さらに特別な力を持って、強力な仲間とともに向かうんだ。だから安心安全。この世界で1番のチームだからな」
紛れもない世界最強。ルミウ1人でもこの世界では最強と言われるほど力は強い。そこに俺とフィティーが加わるのであれば心強い。もしそれで負けるのであれば、今後どの王国も御影の地へ剣士を送り込むことはなくなるだろう。
教訓としてでも俺の意味が成されるならそれでいい。
「全力で応援するけど、死ぬなんてことはやめてよ?知り合った人が亡くなるのは辛いんだから」
「分かってるさ。帰ってくるって」
「私も約束します」
「だと良いです」
生死を分けるのはいつだって自分。判断を誤らないよう、今から鍛錬を再開しなければ。
「まだ行くまでの期間はある。しっかり鍛えるつもりだ」
「そうしないと困るのは自分だからね」
「そうだな。それじゃ、また来る。最低でも御影の地へ出発する前日には来るから、それまで経営続けてろよ?」
「もちろん。2人とも頑張って」
「どーも」
「ありがとうございます」
そうして調べてくれたお礼に、フルーツをいくつか購入して俺たちは王城内へと戻って行った。
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