第百三十話 先を見越して
出鼻を挫かれるではないが、これからフィティーに色々と用事があるのに、フィティーに対して失礼をするなんて、リベニアの民なら結構精神的にきついのでは?
「本当に申し訳ありません……」
最後に1度、自分の軽率な態度を謝罪すると、フィティーはニコッとして問題ないと返す。やはりそこらへんのことには慣れているのだろう。日々の国民からの視線が、今のフィティーをこの場に立たせているのだと言っても過言ではないな。
「少し気になるんですけど、王女様は剣技を使うことが、不可能だと聞いたのですが……」
「それはもう過去のお話です。今はレベル6として刀を振ることは出来るようになりましたよ」
「どのようにして?」
「今私の隣に立つ剣士に師匠となっていただきました」
「なるほど……イオナくんですか」
本当はルミウも加わって2人で、だけどな。それでも俺は今回は胸を張れるほどにはフィティーを成長させることは出来たと思っている。紛うことなき達成だろう。
納得したようで、俺との関わりもそこまで深くないシャナリーでも頷いてくれるのは、それなりに実力があると認められていると言われているようなもので、なんとなく嬉しく思う。
「その過程で私が必要になったということですね?」
「私はイオナから何も聞いておりませんので、シャナリーさんが何をするのかも、私は知っておりません」
「えっ、イオナくん言ってないの?」
今日はとことん驚く日のようだ。
「ああ。サプライズってしたかったからな。そっちの方が喜ぶかなって」
「そういうこと……」
言っても言わなくても結局は信じてなかったのだから、驚くことも変わりない。フィティーは、私は喜ばない、と伝えてきそうなほど目を細めている。
気に食わないことはないだろうが、不満は少し残るかもな。女性全員がサプライズは好きという俺の偏見はハズレることになったな。
「とにかくイオナくんは説明」
「はいはい」
俺も女性との接し方など、再び勉強し直さなければならないな。やはりルミウが1番関わりやすいタイプだ。
「シャナリーのとこに来たのは、フィティーの固有能力を調べるためだ。この世界には固有能力って特別な力があるだろ?俺とかルミウが持ってるあれ。それを調べる専門の人がいるんだ。それがシャナリーで、偶然出会ってその日から依頼してたってことだ」
あの日、何故狙われたのかはそういうことだった。王国でも固有能力を調べられる人はとても少ない。ヒュースウィットでも15人いるかいないか程度。
それほど珍しい人だと、狙われるのも頷ける。それらを見抜いたのが、あの日襲った男の情報から。売れば高く売れるので、重宝されているのだ。
そしてそれから俺はフィティーにも固有能力が高確率で付与されていると思っていたため、今回の戦闘後にここに来ることを決めていた。
固有能力は先天性が基本。生まれてから持つなんてことは、今までで聞いたことはない。本で読むと、過去に何人か存在したようだが、確かな情報とは言えないため不確定。
「そんなことがあるんだ……」
初耳に深く頷く。
「ってかイオナくんは王女様に敬語とかは使わないんだね」
「そういう契約だからな。敬語なんて面倒だろ」
喋る文字数が増えるのは面倒だし、普段から意識して使わないといけないので考えるのも面倒。何もかも良いことがないため、使う意味がない。
「シャナリーこそ、フィティーをしっかり王女様って認めてるんだな」
国民からも見放されることもよくあるというが、フィティーだと知っても嫌うことはなく、むしろいい印象を抱いたようだ。全ては気派で分かる。
「私って刀鍛冶で剣技なんて全く分からないし、別に嫌う理由もなく、周りに流されて私もマイナス印象を抱くなんてことはしないよ」
「だってよ」
「ありがたいお言葉です」
ニコッとする時は、俺よりも幼く可愛らしい女の子になる。素は落ち着きのある大人の女性といった、風格のある、王に相応しい少女。
ギャップすげぇ。
「これで私も王女様との繋がりが出来て、もっと店を大きく出来るかな?」
「経営者として考えることはいいかもしれないが、王族に対して目の前でそんなこと言えるシャナリーが、俺はすごいと思うな」
「ふふっ、別に気にしてませんよ」
「ってフィティーが言う時は本当に気にしてない時だから。実は王女様は嘘がつけない体質だからな」
「いやいや、私だって嘘はつくよ。ここ最近イオナにはずっと嘘しかついてないし」
「これは嘘だな。拗ねた時は嘘をつく」
俺の中でだんだんと理解を深めれている。フィティーといる時間は、寝る時間を除けばルミウよりも長いので、それなりに分かりあえている仲ではある。
その上でこのイジりも出来るので楽しい。
そんな俺らを見て、シャナリーは不思議そうに、誰もが思うだろう単純な質問をする。
「……イオナくんって何者?王女様の師匠になるほどの実力者で仲もいい。18歳なのに、そう思えないほど貫禄あるっていうかなんていうか。とにかく、王女様と仲良くなるほどって一体……」
この会話を見ればこの質問は納得だ。王族と仲良くなるほどの人。でもリベニアの神傑剣士ではない。なら誰なのか。俺は迷ったが、別に正体を隠す必要も、もうない。
ならいいだろう。
「俺はヒュースウィットの第7座だ。世間一般では、リベニアでも世界最強とか謳われてたな。その強ーい強ーい剣士だ」
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