第百二十八話 久しぶりの王城外
扉の外に出ても騒がしさは響くほどにはうるさかった。そんなにお互いを嫌い合うなら、一周回って大好き同士なんではないだろうか。ツンデレの極致というわけだ。
そんな中で、だんだんと遠ざかる声を耳にしながらも俺たちは向かう。
「どこに行くの?」
「それは行ってのお楽しみだな。とりあえず、王城は安全なんだろ?なら、少し離れるぞ」
「王城を出るってこと?」
「ああ。そういうことだな」
王城の警備は神傑剣士が2人も居るので問題はない。1人は揉めてる最中でも、いざとなれば心強い美人剣士になるので、そこは気にしてすらいない。
懸念点があるとすれば、シルヴィアが邪魔をしないかだな。命が懸かればそんなことはしないだろうが、絶対と言い切れないのもまた問題だ。
「ローブを被ればバレはしないだろうから、部屋から取ってくる。特別に紋章無しの神傑剣士のローブを着れるんだ、堪能するんだぞ」
「それってヒュースウィット王国のってバレない?」
「真っ黒のローブはそこらへんでもよく見かけるからバレないだろ。もしバレてもこれは違いますって一点張りすれば解決するって」
「……適当じゃん」
「それが俺だからな」
他にも神傑剣士のローブには色がある。ヒュースウィットは黒一色の統一されたものだが、他国には白や青、緑や赤など光の三原色を始めとした、一般的で有名な色を好きな色を選んで着ている。
俺らヒュースウィットが12人全員同じ色、しかも黒なので、他国には最強として知らしめるための統一と思われているが、実はこれも奇跡で、12人全員が黒を選んだだけにすぎないのだ。
確かに白が好きだとか言う人もいて、俺もその1人だったが、黒のローブを見たときに心躍らされてからは一目惚れで黒に決めた。他の多色を選んだ神傑剣士も黒に一目惚れしたという同じ理由だったらしく、これは完全に奇跡だった。
部屋の前に来ると「取ってくる」と1言残してすぐに紋章無しのローブを取り、帰ってくる。その間15秒も無かったのは、俺が整理整頓をしっかり行うタイプだから。
「ほら、これ着て行くぞ」
「うん。ありがとう」
バサッと音を立てて豪快に羽織ると、横顔は見えず正面だけから目の下は見えるようになる。
「これならバレないな。似合ってるし、謎の人物って感じでカッコいいわ」
「そう?着心地は良いけど、なんだか落ち着かないよ」
「それがプレッシャーだ。日々国民から送られてくる」
プレッシャーなんて思ってないが、それなりに国民の期待度は高い。剣士として長けたものが多いと言われる王国ならば、なおさらその勢いは強く重くのしかかる。それを難なく跳ね返すのだから、やはり伊達ではない力を持つ。しかし、それでも「命」が関わる以上、完璧に落ち着いて対処なんて難しいものだ。
人は俺たちを「完璧」として見るから、その分失敗は認められない。
慣れるまでは大変だったのを思い出すわ。
「大変だね。私もいずれこうなるのかな」
「いいや、これ以上だな。国王ってのは、神傑剣士よりも遥かに上の存在だからな。そこで王国を1から変えるっていうんだから、それはもう莫大なプレッシャーだろ」
神傑剣士は人気であって忙しいだけ。国王は国民の期待に応え、俺らに指示を出し、全てを取りまとめるという重役を担う。俺らなんかでは計り知れないほどの苦労があるだろう。
それを1からなんて、死んでも嫌だな。
「俺もプレッシャーをかける1人だけどな」
「イオナたちはプレッシャーじゃないよ。期待されると嬉しいからね」
「ドMに目覚めたのか」
「そうかもしれない。ちゃんと責任とってね?」
「絶対に無理だ。俺はドMの扱い方を知らないからな。イジられたいならルミウたちに頼んでくれ」
「イオナじゃないと無理」
そうだった。フィティーは冗談にノッて返すタイプだった。いつもルミウをイジりすぎて忘れていた。
「……覚えてたらな」
「ふふっ、忘れられないくせに」
いつからだろうな。こうして喜怒哀楽を見せてくれるようになったのは。出会った時ではここまで豊かな性格とは思っていなかった。それがこんなにも成長するとは、性格に関しては触れてないが、教えていた身としては嬉しい。
「忘れたいから急いで行くぞ」
照れ隠しのように見えるだろうか。それなら言ったことを前言撤回する。
まぁ、くすっとされた時点で俺の負けだろうな。恥ずかしさもなく、ただその顔を見れたことが満足だった。
ラブコメかよ!
――王城を出ると、魔人が来たというのに安寧が保たれていたかのような空気感に、少し驚かされる。空を見れば快晴とも言えず、曇りとも言えない曖昧な天気。まさにこの王国に似合った天候だ。
そこで久しぶりに外へ出ただろうフィティーに目を向けると、目を輝かせて四方八方キョロキョロしていた。
「そんな久しぶりなのか?」
「うん。いつ行ったか忘れたほど前だけどね」
その日と全く変わったリベニアの栄えた王都を見て、どこか安心したような表情を見せる。きっと王女として国民を大切にする気持ちは、隠しきれないのだろう。
本当の国王とは、そういう存在なのだ。
「その調子で、少し王都を歩こう」
「観光しに来たの?」
「間違いではないが、ちゃんと用事はある。そこに着くまで暇だから観光するって感じだな」
「ふーん。楽しいからいいか」
誰もフィティーを見ない。ローブ自体は珍しいものではないため、そもそも視線を集めない。だが、黄金色の髪色は見えれば集めるだろうな。
少しドキドキしながらも、俺たちは人混みの中を通り抜ける。
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