第百二十七話 肩書上の承諾
一段と騒がしくなったここも、気づけば他国の神傑剣士が3人もいるという前代未聞の出来事が起きていた。12人で王国を守るのが指名であるために、こうして1人でも欠けてしまってはいけない神傑剣士が3人となると、それはもうヒュースウィットは大変だろう。
国務を終わらせてきたとは言ったが、それでも多忙な立場であるため、残りの9人は今ごろブツブツ愚痴を言ってそうだ。
仲だけはいいからな。
「国王には話を通してあるのか?」
「もちろん。そこはシュビラルト国王から伝えてあるよ」
「そうか。ってかリベニアの国王はここが襲撃されたってなった時なにしてたんだ?」
「寝てて気づかなかったらしい。護衛の騎士たちも我や我やと先に逃げていったから、起こされることもなくて」
「……最悪じゃないか。失墜してるな……」
やはり、国王が国王として振る舞わない王国では、絶対に下はついてこないということか。寝てて気づかないとか言うが、今はもう朝ではない。怠惰というのは実にうざったいものだ。
それらを含めて改善するために、新たな国王を生み出す必要がある。それがフィティーってことだな。幸い、国王を父とも国王とも思ってない人間なので、気負いなく交代出来るだろう。
「私はリベニア王国の民になるわけではありません。なので、そこらへんの融通はフィティー王女に利かせてもらえるよう頼めと言われております」
それってうちの国王にも見限られてるってことじゃね?実はリベニアって、相当な嫌われ国家だったりするのか?
ちなみに、この世界の王国は分けて5つ。我らが最強剣士団が所属し、世界で最も剣技に長けたものが多いと言われるヒュースウィット王国。御影の地制覇に毎月剣士を送り込むほど全身全霊で挑み、最も面積の小さく、人口は少ないが質の高いサントゥアル王国。レベル1が少なく、世界割合で見て最もハイレベルの剣士が多いと言われるヴァーガン王国。世界の平均を司るために創造されたのか疑うほど、何もかもが世界平均であるナファナサム王国。そして、御影の地に最も近く、その影響からか、犯罪者がずば抜けて多いと言われる落ちこぼれ国家、リベニア王国。
思えば、リベニアって相当問題国家だな。
「そうですか。ですが、私の力ではこの王国を動かすことは出来ません」
申し訳無さそうに顔を下げて言うが、これはフィティーが悪いことではない。生まれた時から人権を剥奪されたような人に、謝らせるよう教えたやつらが悪いのだから。
「いえ、イオナたちと同じような待遇は求めておりません。私が求めるのはリベニアでの活動の許可です。私はヒュースウィットの剣士であるので、依頼、国務でこの場に来ました。つまり、誰かに認められてこの場に立つ必要は無いということになります」
私はヒュースウィットから国王の命令でここに来た。そう言えば良いだけ。結局は王族からの許可という肩書きがほしいだけということだ。
自国を愛して、他国はその次である俺たちに、他国でこき使われるような立場は必要ない。むしろ手伝ってあげてる立場なんだから、少しは出迎えるほどのことはあっていいだろう。そう思っている。
「なるほど。ではこの場で許可をいたします」
「ありがとうございます」
「めちゃくちゃあっさりだな。もっと重たい空気にならないのかよ」
「今はそんなにしっかりとしたことが出来るほど地位は高くないし、騒動後だから忙しいんだよ」
言質だけだが、それでも王族の発言というものは意味がある。証明するものはないが、最悪の場合ヒュースウィットの神傑剣士の紋章を見せれば解決だろう。
仲間が増えたのはいいが、そろそろフィティーの成長過程も終わりへと近づいている。近づいているということだ。御影の地が、一歩ずつ。
「これで私もこの王国の魔人と戦えるってことか」
「ヒュースウィットと変わらないだろ」
「どうだろう。私はイオナの逆だからね。ヒュースウィットの魔人は知っていても、リベニアの魔人は知らない。強ければ楽しいんだろうけど、まぁ、私はイオナに褒められればそれで充分だよ」
「ババアが色恋に現を抜かしてるとか面白すぎ」
「おいガキ」
「……相変わらずだね。もうブニウは29でシルヴィアも20なんだから、少しは成長しなよ。王国最強って言われるほどの威厳はないの?」
女性というものはよく分からない。美しくて可愛い人が揃って居るが、全員違う性格で相性も違う。飽きないのはいいことだし、仲が良いのも、見ていてほっこりする。
そんな騒がしい中でフィティーはくすっと笑い、ニアは俺に問いかける。
「先輩、これが日常なんですか?」
「まぁな。会ったら毎回これだから、2人が揃いそうな時はいつも避けてたんだ。けどまぁ、これは不可抗力だな。知らなかったんだし」
「やっぱり先輩は人気ですね」
「大変だけどな」
まだギャーギャー騒ぐ2人に仲裁を適当にするルミウ。久しぶりの出来事に、少しぐらい楽して幸せになるのもありだと思う。
「そんじゃ、ギャーギャー騒いでるし、俺らは最終調整に行こうかな」
「最終調整?」
何それ?とフィティーが首をかしげる。
「フィティーには少しやるべきことがあるんだ。それをちょっとな」
これが終われば、御影の地へ足りるか足りないか、それが測れる。
「分かった」
そう言って、俺らの動きに全く気づかないほど楽しんでる2人と、ルミウとニアを置いて、俺たちはその場を後にした。
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