第百二十六話 第6座ブニウ・シック
俺の忠告に「え?なんで?」と聞き返してそのまま正面を見る。すると、やはり予想通り、俺にとってもシルヴィアにとっても強烈な相手がそこにいた。
「久しぶりだね。元気そうで何よりだよ、イオナ、ルミウ、そしてニア」
そこに座る女性がそう発言すると、同時にシルヴィアの顔は鬼の形相と化する。犬猿の仲と言われるだけあり、やはり相性最悪だ。
わざと名前を呼ばないのも相変わらずだ。
「ババアが今さらなんの用事でこっちに来てんだよ。老いぼれ耄碌ババアはさっさと自国に帰って防衛してろよ」
「あらあら、寄生虫が何か言ってるじゃない。ガキは黙って刀だけ製作してればいいのに」
表情に不満を顕にするシルヴィアに対して、隠しながらも、その本気の気持ちは滲み出てしまっている神傑剣士。これがいつもの2人なのだから、いつかは慣れないとめんどくさいな。
その場に座って俺らを待っていたのは紛れもなくヒュースウィットの神傑剣士――ブニウ・シックだった。そう、例の手紙を送ってくれた俺の信者である。
いや、信者ってか、勝手に崇められてるだけだから教祖になったつもりもないけどな。
「……2人は仲が悪いの?」
初めての2人の攻防にフィティーは思わず聞いてしまう。それほどにこの目の前の状況が呑み込めないのだ。何度見ても笑えるな。
「あのババアと仲を深めるなんて死んでもごめんだね」
「それはこっちのセリフなんだけどね。刀だけしか役に立てないガキが」
こうなった原因は俺なのだが、止めようとは思わない。そもそも止められるわけがないし、信者とサイコパスの重い愛の衝突は、俺がどうこう出来ることでもない。被害は俺にはなにもないし、別に気にすることでもないのだ。
いつか火の粉が飛んできたなら、その時は楽しく混ざってやろうとは思うが。
「はいはい、もういいから」
いつものお約束。仲裁は必ずルミウがしてくれる。止めれるのはルミウくらいだ。他は見て楽しむので止まることはほとんどない。ってかシルヴィアと会うなんて、刀を頼みに行く時だけなのであまり見れないが。
「ルミーはあのババアにイオナが取られてもいいっていうの?!」
「そうよ。このまだ小さくて言葉覚えたてのガキにイオナが取られてもいいっていうの?!」
「そんなに毎回言い合うなら私が貰うよ?嫌なら、自分のものにしたいなら、喧嘩じゃなくてイオナを困らせないようにしなよ」
ごもっともです。喧嘩してる2人を見るのも楽しくていいが、毎回これだと疲れる。少しでも仲良くなって和気藹々としてくれたら、もっと最高だ。
ちなみにこれは仲裁の決り文句。私が貰うと言ったら一旦2人は冷静になる。そして考えるのだ、私はルミウに勝てるのかと。答えはNOと出るため、自然と理解した2人は争いを止める。
単純である。
「……ったく……なんでババアがここに……」
喧嘩は止まっても不満は募るばかり。無言で見ていたニアも面白かったようでニコニコしている。普段は見れない神傑剣士と王国最優刀鍛冶の恥ずかしい会話。これは記憶に残り続けるだろうな。
「……とりあえず、座って話そうか」
「そうだな。戻って来てすぐ疲れたわ。やめてくれよな、2人とも」
「ごめんね、謝るから嫌いにはならないでね?」
「……歳の差10な?」
ブニウは28であり、そろそろ29を迎える。何を言いたいか、続けて言わずとも分かってくれるはずだ。これを除けば精神年齢は高い方であり、常識に欠けのない秀才なのだが、どこでネジを踏み外したのやら。
そうして話をする前からインパクトの強い会話を見せつけられたが、今はすでに落ち着きを取り戻している。時々目を合わせて睨み合う2人は横目で見るには面白い。
両隣にはニアとルミウなので、そこで争いが起こることはなかった。いやむしろ起こさないように選んだ。
座って何の話をするかだいたい予想のついている俺らは黙ってその話を聞く。
「改めて、ヒュースウィットから派遣ってことで私が来た。理由はイオナの不安が気になったからだけれど、この件がピンポイントに問題となって、今や神傑剣士が1座と2座がいない状況。それを穴埋めということで滞在することになった」
「俺の心配で来たら、たまたまリベニアの神傑剣士上位が2人も死んだから、残って活動を続けるということか?」
「そういうこと」
キラキラとそんなに俺に聞き返されることが嬉しいのか、輝きと興奮が伝わってくる。伝えないでほしいものだ。シルヴィアが対抗心をむき出しにすると面倒なのだから。
「御影の地へは流石に付いていかないから、4人と害虫を連れて行ってきて構わないよ」
煽りはやめられない。それは俺もよく分かっている。だから無理に止めようとはしない。むしろ楽しんでいるので、注意しても続けてほしい。
「そうだな。人が多ければそれだけ安心だが、その分王国の護衛が足りなくなるもんな。そこは真面目なんだな」
「一応神傑剣士だから」
「……イオナ、わざと褒めてる?」
「何がだ?普通に思ってることを言ってるだけだぞ」
疑いの目を向けるが、これは素直に思ったことを言ってるだけなので、紛うことなき本音である。何か裏を企んでいるわけでもない。
まぁ、毎回褒められて興奮する変人に餌を与え続けるのを好きと思えるほど、俺は変人かもしれないが。
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