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第百二十三話 最終決着




 追い込まれた時の生き物の行動は面白いもので、死を覚悟して果敢に目の前の状況に飛び込んで行くか、あまりの恐怖に怯えて立ち竦むかの主に2択で動く。マークスは死ぬのであれば、弱い方、つまり勝てる可能性が少しである相手を選んで飛び込むことを選択肢したということ。


 イオナよりも強いなんて信じがたいことではあるが、未知である以上は頷くか、それを否定し続ける以外に思うことはない。結局は予想の話でしか語れないのなら、それが最善というわけだ。


 とはいえ、確率というものが存在するなら絶対に勝てるとも言い切れないが、今までの戦闘をこの目で見てきて、99.9%イオナの勝ちは揺るがない。どこか感情を失ったかのような表情は冷酷であり、自身でも様々なことが限界に達しているようだ。


 「逃げるという選択をしておいて、今更面と向かって正々堂々と刀を交えるなんて恥ずかしいことだが、お前のその蛮勇に免じて付き合ってやる」


 一撃で仕留めるなんて簡単ですぐ終わることなんてやる気はない。逃げようとすれば足を斬られて逃げる暇なく首が胴体を去るはずだったと思えば、今この状況は延命処置と言っても過言ではない。


 「蛮勇?これは私にとってあの人の役に立つための策だ。決して蛮勇などではない」


 「お前は嘘をつくのが下手だな。誰かに恨みでも抱いている魔人が、いくら崇拝するような上の存在の魔人がいたとしてでも、役に立って死ぬことを本望と思うわけがないだろ」


 「どうだろうな。御影の地はお前たちの理解と想像を遥かに凌駕する世界。一概に、魔人は負の感情を抱いているだけの屍にすぎない、と思えないだろ?」


 「だとしてもだ。お前からは常に何かに対しての殺意が漏れている。少なくともそれは、誰かを殺したいほど憎んでいるということ。それならお前が魔人としてどう生まれたかなんて関係なく、魔人としてでも、人でなくなってもその対象が後悔するほど殺したいと思ってるってことだ。これは紛れもない事実であり、お前の嘘を証明するものだ」


 私には分からない。距離があるからでも、声が聞こえないからでもなく、単純にどこを見ても読んでもそれは解けないのだ。


 イオナが嘘をついているとは思いにくいし、でもそれを証明するものは私にはない。ハッタリと言われればそうかもしれないが、今のイオナは私を頷かせるほどの驚異的なポテンシャルを見せてきた。


 一歩でも動けば即座に戦闘開始されるこの雰囲気の中で、ほんの少しも動かない猛者は、まるで私を納得させるために時間を稼いでいるようだ。


 「たとえそうだとしても、私のこの気持ちが本当であることは、君にも読み取れるのだろう?」


 「まぁな。それでも、お前の言うことが絶対的に本望であるとは言い切れなくなった。それだけで満足して死ぬことは不可能に出来たんだ。十分な働きだろ」


 「……君の性格はこちら側のものと思えるほどに不可思議だ」


 「俺はお前と会った日から不可思議だったけどな」


 薄々気づいていたのかもしれない。最低でもフィティーと4人でウェルネスを倒しに向かった際、もうその時点で気づいていたようだった。今思えば数々の行動に合点がいく。


 もしかしたら、出会ったその時、もう確信に近いものがあったのかもしれない。真実は定かではないが、バカと吹聴するイオナは実は賢い。だからこそ、計算済みの策略だったと思えるのが怖いというものだ。


 「お前から色々と話が聞きたいが、そんな優しい魔人でもなければ暇も余裕もなさそうだ。そろそろ気持ち悪さも限界だ。終わりにしよう」


 そう言うと再び集中力を限界まで高める。意図して集中の領域に入るなんてハイレベルなことを出来るのは、私が知る中でイオナだけ。私でも一瞬で集中なんて不可能だ。


 だんだんと強まったその()は体中を覆い、危険を察知すればそこを無に還すために動く。その時間も約束通りの『あの人』を超える速さなのだろうか。目が離せない。


 「私も君とのお喋りには飽きた。早く殺して颯爽とこの場を去りたいものだ」


 互いに戦闘態勢をとるが、圧倒的に力不足のマークスに、私は目を向けられなかった。眼力は今までで最大であり、血が吹き出そうなほどには力んでいる。


 全てを懸けているのだろう。


 「うぉぉぉぉ!!!」


 第2形態でもあるような叫びだが、それから変化は生じることはない。周りは強烈な風によって吹き荒れるように噴水や地面、ベンチや近くの建物が揺れる。


 「殺す!」


 イオナが魔人として殺めるべき負の感情の対象ではないだろうが、殺意はそれなりにあった。このマークスではきっと私でもいい勝負の末に勝利を掴むだろう。


 ――でも今は相手が悪い。それからはもう何も変わることはなく一方的だった。次から次に放たれる剣技は、悉く鋒で受け止められることで意味を成さなかった。


 届かない刀はマークスのもの。イオナの刀は軽く遊ぶように振り回す赤子のようなものなのに、それでも体のどこかに傷がつく。もう見ていて恐ろしかった。まるでリュートへの復讐を継いでいるかのように酷だ。


 「繊心技・絶無(ぜつむ)


 ついに決着。楽しめたなんて言葉はなく、マークスの最期の刹那前に放ったイオナの1言は、マークスの顔を微笑ませるが――聞こえなかった。

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