第百十八話 十八番潰し
お前の番なんて言ってるが、そんなチャンスもないし、一矢報いることすらも叶わない願いだろう。勝敗はもう目に見えているが、それでも戦うことには意味がある。この世界の平和を保つためなら、元クラスメートだって殺める。10代なんて関係ない。魔人なら死を以って償うべきだ。
「お前にしては珍しく一般人を巻き込まなかったようだな。そこだけは良いやつらしい。それなら俺にそんなに負の感情を抱かなくても良かったものを、わざわざ死にに来るなんてドMの極致だな」
なんでもお見通しらしいが、私にすら何故知っているのかは分からない。元々謎の多い剣士として世間では知られていたが、名を馳せた今ですら謎は多い。なんなら増えていく一方。
永遠と味方でいてくれることは確約されているが、それでも少しぐらいは教えてもらいたいなんて思ってしまう。イオナだからこそ、世界最強だからこそ知られたくないことはあるかもしれないけど。
でもとりあえず、イオナが言うなら間違いはない。王国民に手を出さなかったのは面倒が増えなくて助かる。フィティーも今頃は役目を終えて一息ついている頃かな。
「お前に俺について分かられても嬉しくない。それにまだ死ぬと決まったわけじゃねーよ」
「まだ諦めないのか?それは根性だろうが、どう考えても今のお前は勝てない。今何を体感したんだ?忘れたわけじゃないだろ。死を覚悟したなら潔く魔人として散れよ」
「それは頷けねーな。死ぬとしてもお前を最大限壊して死んでやる」
「方法は?」
「教えるかよ、バーカ」
中指を立てて魔人としての死を選ぶことを覚悟したリュート。負の感情を源に動く魔人は、その役目を果たせばそのまま死ぬ。つまり魔人になった時点でリュートは死んだようなもの。覚悟は出来ていたということだね。
「その調子なら完治したようだな。これからはレベリングオーバーも蓋世心技も使わない。最終的にはどっちも使うけどな。代わりに8割の力で戦おう」
ここで見れるのか、待ちに待ったイオナのほぼ全力を。私は気を失う2人を守りながらも、意識はイオナに向けていた。
「8割だと?全力で来いよ。なんなら固有能力と蓋世心技もありでいいんだぞ?」
「いや、全力で蓋世心技とレベリングオーバーを使えば、きっとここら一体が無に還る。他国でそんなことが許されないだろ?何よりも、それほどの相手じゃないだろ」
「なめられたもんだぜ。そんなら最初から全力で潰してやる」
「それは言わない方が良かったかもな」
変わらない。言っても言わなくても、フィティーの左目の上位互換を持つイオナに、奇襲なんてものは通用しないのだから。
半径どれほどか定かではないが、少なくとも20mはテリトリーだ。その中に入れば自動的に先読みがされ、攻撃を避けれる。もちろん、その反射神経の速さも相まってのこと。
「来いよ」
「終わらせる!極心技・業火の太刀」
リュートの十八番、業火の太刀。刀身が炎により2倍に伸び、纏う炎も熱量を増している。魔人は身体能力を強化されるとは知っていたが、まさかこんな魔人も存在するとは。
リュートのように喋る魔人すら初めてだが、剣技を使えるとなると厄介さは増す。ただでさえ剣技を使わなくてもレベル6に近い力を持つと言われるのに、剣技を使えたらたまったものではない。
「……相変わらずだな、魔人でも」
業火の太刀が迫り来ると言うのに落ち着いた様子のイオナは、呆れたように呟くと次の瞬間、その相変わらずな部分を突いた。
「繊心技・朱雀の剣」
風級剣技であり、数少ない防御に特化した剣技。刀を振ることで強風を放ち、対象目掛けて勢いを止めることなく刀を交えさせる。刀と刀を触れ合わせることなく完結することが出来る優れ技だ。
炎を纏う刀に、強風というのは厄介なものだ。威力を弱められた上に、風で炎が消されていくのだから防ぎようがない。それも、練度の高い技ならどれだけ剣技が強くても、使う人の才能によって結果は左右されるのだから。
振り下ろされる途中で、イオナの剣技とリュートの剣技は交わる。バンッ!と音を立てて粉塵を微かに舞わせると、それはもう圧倒的だった。後ろへ勢いよく刀を弾かれるリュート。冷たく冷酷な目をしたイオナはその隙に距離を詰めると、今度は俺の十八番だと言わんばかりに刀を振り上げた。
剣技は無い。必要ないほどの力でも斬ることは出来ると煽っているようだった。
「うっ!ぐぁぁぁぁ!」
相手の戦意喪失を狙う目的で、イオナが自分でも趣味が悪いという行為。それが――四肢の切断。一瞬にして命を潰したことはなく、必ず四肢のいずれかを斬り落として殺めるという、シルヴィアに言えないほどのサイコパス。
けたたましい声で叫ぶが、これは自業自得だ。イオナの性格を知るくせにやってしまった自分が悪い。因果応報と言うべきか、先にイジメを始め、3年間も続け、その後もこうして人質を取っては逆ギレのように殺しにかかる。醜い生き物だね。
「あっははははっ!あの日の一騎討ちで止めていれば良かったものを!お前ってやつは!はははっ!」
楽しさを見出してきたイオナは不気味に思う。これまた珍しいが、人としては普通だと思う。日頃からこんなことをする性格ではないが、実は優しく仲間思いの人だからこそこういう面があったりする。
やっぱりイオナは――良い。
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