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第百十七話 恐ろしい圧力




 叩きつける勢いなんて、普通の人間が受ければ鼻は折れてしまうほど。魔人が相手であり、憎い相手でもあるとしても、やはりここまで怒りを顕にするイオナを見たことはない。


 関わってきて4年近くになるが、普段から陽気で適当に過ごしていた姿からは全く想像つかない。今見ても同じイオナなのか疑わしいほどには目の前の人を認めていない。


 見た目も名前も気派も何もかもがシーボ・イオナなのだが、たった1つの違和感がそこまで私の意識を変えさせる。どこまでも恐ろしい力を持つ人間だ。


 そんなイオナはリュートから少し離れた正面で、喉やアキレス腱が治るのを待っている。5分ほど経過してもそれは同じだ。目は閉じていても意識ははっきりと向けられている。少しでも動けばそれを察知出来るように。


 そして慌ただしい王城の真逆の静寂の中で、先に口を開いたのはイオナだった。


 「もう喉は治ってるだろ?後はアキレス腱だけだろうから、ここからは少し話をしよう。お前の最期を絶望と恐怖で迎えさせたいからな」


 喉も治ってないと、嘘をつこうとしていたことを見抜くと再び距離を詰める。完治していない右足では到底実力では及ばないため、イオナも安心している。いや、元から負けるとは思っていないのだから安心もなにもないか。


 リュートはそれを嫌がるかのように目を鋭く細める。睨むといえばカッコよく聞こえそうでも、今は虚勢を張る子供のようにしか見えないため、そんなことはない。


 目の前まで来ると、胡座をかいて話し始める。


 「全て正確に答えないと死期が近くなるだけだからな。まず、お前が魔人になった理由を聞かせろ」


 「…………」


 「おい、最初から口を閉ざすなよ。俺は魔人についてなるべく知りたいんだから、教えてくれないと面倒だぞ」


 それでも無言を貫くリュート。治療に専念させるイオナがここで傷つけることはないと思っているようだ。残念だが、それが浅はかな考えというやつだ。こう見えても、ヒュースウィット最強は戦闘スキルは高い方なんだから。


 「はい、第1段階」


 次の瞬間、先程よりは弱く、でも受け付けない淀んだ気派で上から圧力をかける。きっと内臓が抉られるような苦しみよりも、精神的な面にダメージを与えているのだろう。


 「っ!?」


 顔を歪ませて、今のこの状況がきついのだと言っているようだが、それは自業自得だ。死ぬことはないし、死ぬことも出来ないのだから、この苦しみが消えるのは正確に答えを言った時だけ。


 無限に続く痛みなんて、いずれ精神が崩壊しそうだ。


 「これが第1段階ってことは倍以上が続くってことだ。苦しみたいなら何度でも無視か嘘をつけばいい。でも死なないから判断は正しくした方がいいぞ。まぁ、俺からすればお前の苦しむ顔なんてブサイクすぎて見たくないけどな」


 死ねるのならまだ無言を貫く理由はある。それでも、このリュートというやつには覚悟はないようだけど。


 「ちなみにだが、次ルミウたちに狙いを変えたらその瞬間に体のどこかがランダムに斬られて飛ぶぞ。それじゃ、次だ。どうやって御影の地へ行った?」


 「…………」


 ここでやっと震えが止まらなくなったか、目の前の最強に人間でなくなった本能ですら怯え、既に敗北を認めていた。瞳孔は激しく左右に揺れ、命乞いをしたそうに無言を貫く。


 「はぁぁ、どうせ言っても言わなくても死ぬんだから、最期くらい役に立てよ」


 第2段階へ上げられたか、空気感の変化をこの身で感じる。言わないと死ぬが、言っても死ぬ。どちらとも選べば絶望という背水の陣。可哀想とは思わない。むしろイオナをここまで怒らせたことはすごいと思える。


 私にはこの男のことなんて心底どうでもいい。


 「もういい。お前への質問は終わりだ」


 ドンッ!と第3段階へ変化したこの場は、範囲内だけの空気が歪んでいるように見える。これが最強の気派だ。体力を底なしで溜めれることにより、比例して気派も底なしだ。


 「やっぱり黒幕はマークスってことか。情報提供ありがとな」


 「はっ?……くっ!」


 突然のイオナの予想外の発言にリュートは驚く。押し潰されながらも、その驚きは激しく伝わるもので、確実に正解だということを私に教えてくれた。


 「なんで分かったかは教えない。当たって良かったよ」


 敵が見せる不敵な笑みをしてみせる。絵になるのは味方で容姿が整っているからか。はたまた別の理由か。


 「お前……うっ……」


 上から圧力をかけられることにより潰されてしまうと、呼気をする際に苦しみを味わう。肺は息を吸うたびに膨らむ。胸部でも腹部でもどちらかを必ず。その際にどちらも圧迫されると、呼吸困難となり、生き物はパニックになる。リュートは今まさにその状況。


 何故情報がバレたのか分からない現状と、押し潰される現状が相まって最大級の苦しみを味わっているだろう。復讐対象がこんなんなら、私も流石に笑ってるかな。


 「俺は変人なんでな。よし、そろそろ回復しただろ。これからはお前の番だ。最期の足掻きを見せてくれよ」


 そう言って圧をすべて取り払う。優しさも見えるが、これは今からボコボコにしてやるという意思表示でもある。死を目の前にしたばかりの人間が、死を目の前にさせた人間に勝てるわけもない。


 イオナは後方へ距離を取ると、リュートが立つのを待った。

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