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第百十六話 人生初




 「知ってるか?なんで犯罪者が人質を取るのか」


 一歩ずつ歩いて行く。リュートはそれに動じることなく刀を抜きすらもしない。


 「あぁ?何の話だ」


 「人質を取るってことは、相手より自分が不利だと分かってるからか、相手より自分が弱いと分かってるからする行動なんだ。つまりその時点で人質を取るやつらに、勝ち目はないんだ」


 「はっ!それは違うぜ」


 「何がだ?なら、お前は何故人質として2人を連れて行ったんだ?」


 「そんなの、お前をここに呼び出すために決まってるだろ」


 「だろ?そうしないと俺を呼び出せないってことだ。猛者なら場所を選ばずに奇襲でもすればいい。相手より自分が強いと思うのなら、その場で殺せばいい。なんなら、俺なんてヒュースウィットでは最強と言われている実力者だぞ?そんなに俺を殺せる確信があるなら、どこで殺してもお前を捕まえれる剣士はいないんだから殺ればいいものを」


 淡々と思っていることを好きなように喋る。こんなに仲間の命を狙った相手と長々と話すイオナは初めて見た。だが、そんな相手に共通することは必ず息の根を止められていること。こいつも例外ではないな。


 「結局バカは強くはなれないんだよ。魔人化しても、力の強さやレベルが高くても、戦闘スキルが高い方が勝つ。賢く立ち回れるやつが勝つんだ。ってことはお前より賢い俺はお前に負けないってことだ。まぁ、俺がバカでも力だけでお前は殺せるけどな」


 リュートの目の前まで来ると一旦止まる。ここから何が始まるのか、それを場違いなほど楽しみにしている私が居た。いいことでは無いだろうが、それでも世界最強の力を8割も見れるのだから、猛者剣士として当たり前だろう。


 「よく喋るな。遺言がそれでいいのか?今はもう人質はいねぇんだぞ?」


 「それはこっちもだ。助ける人がいないんだ。後はお前を殺すだけなんだよ」


 「この距離。俺が有利だぞ?」


 「殺れよ。刀は抜いてんだ。準備はいつでもいいんだぞ?」


 互いに睨み合うが、圧倒的に勝ちが傾いているのはイオナの方。瞬きすらも許されないこの空間で、どちらの刀が振られるかを見分けるのはワクワクを更に高める。


 そしてついに刀は振られた。紛れもなくリュートから。


 イオナの左側から高速で刀が振られる。


 だが、何故か心技を使わない。いや、使っているが技名を声に出していない。あの濁った汚い聞きづらい声は響くことがない。省いたのだろうか、無駄を減らして少しでも奇襲のようにしたかったのか。


 だがどれも違った。そんな刀をなんとイオナは左手で止める。親指と人差し指のたった2本だけで。


 「声、出さないのか?」


 刀に割かれた意識を、リュートの顔付近に持っていくと、なんとそこには首から血を流すリュートの姿があった。イオナの刀は一切振られていないように見えた。だが、何故かリュートの首からは大量の鮮血。


 声帯をやられたのだろう。声に出すなんて到底不可能なほどに。


 「頑張って刀を振ったのは評価されるとこだろうが、残念ながら相手が悪い。勝ち目が一切見えないだろ?」


 表情は変わらず真顔。薄れてきた恐怖により、こうして見ると整った容姿に目を奪われそうにもなる。きっと今の私ほどイオナは余裕があるだろう。顔を見れば分かる。


 すると、そんなイオナを前にして怖気づいたか、私に視線を向ける。すぐに私は戦闘態勢に入る。だが、リュートは逃がすことを許す相手と戦っていなかった。


 全力で踏み込むと、その瞬間に飛んでくると思われたリュートは片足から崩れる。


 そして――ここから地獄は始まる。


 「おい」


 たったそれだけ。その1言だけで、私は生まれてはじめて圧に屈して膝をついた。上から自分の何倍もの重力がかけられたような重さ。それに禍々しくも気持ち悪くない気派。これは間違いなくイオナのもの。


 私にも伝わる途轍もない殺意は、耐えることに集中しなければそれだけで気を失うほどには強く激しいものだ。流を調節してそれらを耐えるが、目の前の戦闘を見逃すわけにもいかない。ここで全力だ。


 「逃げるなよ。そうやって次から次に自分の決めたことから逃げようとするお前は、俺は嫌いだ。自己中心的で自意識過剰。慢心ばかりして迷惑をかける。なぁ、これだけ聞いて、お前に生きる価値はあると思うか?」


 まだ喉は治らないというのに質問を繰り返す。これが最期に見る煽りなのかもしれない。アキレス腱を斬られ、立つことすらままならないというのに、ここから勝ちへどう導けと言う。


 髪の毛をガシッと掴まれ、無抵抗のリュートに目線を合わせて正面から威圧する。離れた私にもこれほどの強烈な圧をかけられているというのに、ゼロ距離のリュートなんて、内臓を潰されるような感覚に陥っているかもしれない。


 「俺はまだ剣技すら使ってない。全ては気派とタイミングでお前を圧倒しているんだ。どうだ?自慢の剣技を使ってボコボコにされる気分は。これがお前が今までやってきたイジメってやつだ。無力な相手を一方的にボコリ続ける。俺には全く、何が楽しいか分からないな」


 魔人だからか、震えることはない。ただ声に出して命乞いも出来ないのは精神的につらい。可能性が残された人間よりも、残されない人間の方が絶望に浸るものだからね。


 「回復するまで待ってやる。今のをたまたまと言うだろうから俺からのチャンスだ。次の機会で殺せるといいけどな」


 不敵な笑みを浮かべると、その場に顔面を叩きつけて待った。

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