第百十二話 決着は一瞬
きっとイオナの後ろに居ればこの先は明るい。同時に実力を超えることも出来なくなる。でも、私がイオナを超えることはもう不可能だと思っている。ルミウ様でも全力を出して超えられないと言うほどの存在であり、改めて人間離れしていることをこの目に焼き付かせてくれたから。
そんなんで高みを目指せるか、とか、諦めるな、とか言われるなら、私はその人に言ってやりたい。あなたは生まれたばかりの状態で大人に勝てるのかって。それほどの差があるんだ。
諦めたっていいじゃないか。たまには必要だよ、そういうのも。
「流石に俺を相手にすればお前の負けは決まるよな」
「……邪魔はしないんじゃないのか?」
「あれはフィティーの話だ。当然、一騎討ちを邪魔しないのは成長のためだからな。危険だったら助けるのは普通だろ」
「好き勝手言いやがって」
「好き勝手言うさ。この世界は剣技世界だ。全ては剣技の良し悪しで決められる。だから俺よりも弱いお前は従うしかない」
都合のいいようなことを言っているが、実際はそれが当たり前の世界だ。それを嫌って、平等に生きるための組織を神傑剣士として作り上げた先駆者と似た考えを持つイオナとは思えない発言だけど。
「とは言っても弱ったお前をイジメるほどサイコパスでもないからな。一瞬で終わるか、地獄のような日々を牢獄の中で過ごすか、好きな方を選べるぞ。まぁ、この王国のことなんて俺は知らないけどな」
「結末は変わらないだろ。どうせ殺す気で居るんだろ?」
「よく分かったな。俺は仲間や友人の命を本気で狙うやつを、今まで生かしてやったことはないからな。例外も作らないんだよ」
仲間意識が誰よりも高いからこそ、仲間のこととなると夢中になって何事にも取り組む。それが命を脅かす重大なことならば、憤りとともに。
フワフワっとしたいつもの雰囲気とは薄っすらと違う。何かのスイッチを切り替えたように、イオナから禍々しく気持ち悪くない重い圧が放たれている。
「お前が使った滅なんだけど。1度受けそうになって分かったが、付け焼き刃みたいなものだろ?最近使えるようになったってとこだろうな。だから俺が本物の蓋世心技・滅を見せよう」
ザーカスの顔はだんだんと絶望へと変化する。しっかりと相手の力量を知るからこそ、もうすでに諦めへと変わり始めているのだろう。
それからはもう何が起きるか予測不可能だった。何をするのかと目で追うと、一瞬でザーカスの心臓のある胸部だけがキレイに貫通し、結局何が起きたか曖昧しか把握出来なかった。
滅をその場から放ったと思えば、それを弾こうとした瞬間にザーカスの背後にいつの間にか回っていたイオナが、ゼロ距離で再び背中から心臓へ滅を放った。滅なんて使えば消費体力は相当なのに、連続して使うなんて思えるわけもない。
1度目のイオナの滅を弾くほども体力は残されていなかったが、確実に仕留めに行ったイオナの圧勝だった。バタンと倒れる人間が神傑剣士なんて、今後見ることはないかもしれない。
リベニアの第2座を息を切らすこともなく倒すなんて、イオナを超える人は現れるのだろうか。
「イオナ、終わらせた?」
「ああ。もう動くことはない。そっちは?」
「私もタイミング良く今終わらせた。遊ぶには中々良い相手だったよ」
「へぇー、俺の相手はあっさりだったから微妙だったぞ」
「外と中では動きが変わるからね。好きに動ける外でも、踏み場が上下左右ある室内よりかは戦いにくいでしょ」
異次元の2人。敵を相手にして苦労したことのないだろう最強コンビは満足気だった。2人を楽しませれたと思えば、死んだウェルネスも笑顔になれるだろうか。無いかな。
「とりあえず一件落着か?」
「マークスが相手にしている敵がどうかで変わるんじゃない?」
「あいつはいい。好きにしてもらっていいだろ。どうせ国務なんだからここにも1人で来るさ」
「そうだね。なら一件落着ってことだと思うよ」
「よっしゃー、終わったー」
背伸びをすれば、空いた天井からの光に照らされる。一仕事終えた剣士は見るからに幸せそうだ。ここに来て少しでも退屈しのぎが出来たなら私も良かった。
「帰るか。帰ってやることもあるしな」
「まだ?」
「明日からだ。今日は体の疲れと、俺たちへの制裁を考える時間だろ」
「制裁って。私も何かしら成長したならそれでいいよ。今生きてるし」
「やっぱり王女様は器が大きいな。感謝するわ」
切り替えが早すぎるが故にどれが本当のイオナの性格なのか分からない。少し前は私を殺しにかかったことに対して刀を振るっていたが、今は普段の子供っぽい歳相応のイジりを始める。
ただでさえ謎が多いのに、増やされると面倒が増えてやっていけないよ。まったく。
夕方と言うにはまだ日は高く、気温も肌で感じるには涼しい。日差しも強くなくて、最高に気分の良い天候だ。勝利を讃えているのなら素直の喜ばしいこと。
そんな道を仲良く、さらに成長した3人が横に並んで歩く。今の私に勝てないものはないと、そう過信させてくれるほどの安心感は、やはり拭えない。信じる信じないの前に、圧倒的な安心感は隣に立つだけで十分感じる。
成長がどういったものか、それを知るには時間が必要だ。気長に少しずつレベルアップする私を自分自身で見守ろうじゃないか。
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