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第百九話 左目の価値




 でも全て凌ぐことは出来る。不器用で不細工だとしても、成長過程の私にはそんなことはどうでもいい。神傑剣士の攻撃を受け止めるという事実だけで十分だ。


 同じレベル6だとしても、生まれたての子鹿とそれを狩るエリート狩人ならば戦わずとも勝ちがどちらに傾くかは分かる。それを覆すために私はザーカスに刀を振る。


 正確な位置を把握してからの斬撃は止め続けるのはしんどい。雑に扱えば刀にだんだんと耐えきれないほどの力が加わり、いずれ折れる。その前に対処するにはこちらから隙を突くしか方法はない。


 珠玉灼熱は連撃の技。しかもそれは回数制限のない、自分の体力と気派が消耗し終わるまで永遠に放つことの出来るもの。神傑剣士の基礎は何にもかもが人の限界を超えるほど高い。レベル6ともなれば、レベル5とも比べ物にならないほど人間離れしている。


 それが特異体質とかいうバカげた生まれつきの才能で強化されるなら面白味なんて全く無い。幸いか、ザーカスにそんな力は無いと認識しているので、隠していない限り大丈夫だ。


 「ほらほらほらぁ!止めてばかりだとこのまま力尽きて死ぬことになるぞ!もっと楽しませてくれるんじゃなかったのかぁ!?」


 往なす時の刀と斬撃の交わりでも遮れないほどうるさい。耳障りなものは、目を失って他の五感の発達に長けたが故に苦手なものだ。些細な音を拾えるのは奇襲にはメリットだが、デメリットが多くて大きすぎるため、あまり意図して得たいとは思わない。


 「貴方こそ、同じ攻撃ばかり放って。近づくのが怖いからそうして逃げてるんでしょ?」


 「ガキは戦闘中の口数も多いな。近づかなくてもこのままでも死ぬっていうのに、無駄なことするやつがいるかよ」


 「無駄なこと?笑わせないで。全て防がれてるのに、余裕を見せてまだこれだけで勝てると虚勢を張るつもり?」


 定かではないが、ザーカスは体力の消耗を出来るだけ減らし、私のとの決着をつけたいはずだ。だからこうして同じ攻撃を何度も繰り返す。


 理由としてはイオナの存在がある。イオナを見た瞬間のあの焦りの下唇を噛む仕草。イオナに勝つためには少しでも万全の状態で挑みたいのだろう。ルミウ様はなんとか出来ると思っているようだが、いずれそれも計算間違いになる予定だ。


 「虚勢じゃないな。お前の太刀捌きを見ればどんどんと追い込まれてるのが分かるからな。あと2分もせずにお前は地に顔をつけて息はしてない状態だろうよ」


 流石は猛者。私のありとあらゆることを読み取ったその結果、間違いはないほどに当ててくる。実際限界が近いのは分かっている。だが、それでも何とか解決策を見つけなければ私は死んでしまうのだから、全身全霊で目を凝らす。


 こういう時、落ち着きが勝敗を分けることがある。視野角が狭まる集中状態では、一旦周りに目を向けてみるのも大切だ。目だけに頼れば感覚というものを忘れ、目先のことで物事を判断するようになるのだから、それを避けるために左目で空間をもう1度正確に把握する。


 サウンドコレクトのように広がる発に引っかかるのは、味方はルミウ様だけ。敵は室内戦を行う12名中の残り6名。既に半分を仕留めたという速さは人間離れを証明している。


 「いいや、そんなことは無さそうだよ。私も負けず嫌いって性分だから、死ぬまで全力で足掻かせてもらうよ」


 見つけた(いとぐち)。それは私でしか見つけることが出来なかったかもしれないほど、小さくて分かりにくい隙間。ここを潜るために、私はこの左目を貰ったのだと思うほど、分かりにくいものだった。


 イオナやルミウ様ならそもそもこんな低レベルな戦いにはならないだろうけど。


 「面倒なやつだな!少し火力を高めてやるか!」


 次々に防がれ、ついに痺れを切らしたか、周りの仲間の倒れる早さに焦りを感じたザーカスは1秒でも早く仕留めようと躍起になる。


 そして放たれる珠玉灼熱はその斬撃の大きさはもちろん、熱を大量に含んで飛ばされる。当たれば即死は免れないのが肌に伝わる。


 「面倒なら私が終わらせてあげるよ!」


 右足に気派を集中させる。その間にも刀は動かすのだから、普段通りの早さでは集められない。少し時間がかかるが、それでもやる価値はある。


 防ぎながら溜めると、タイミングを見計らう。隙もないほど続く攻撃は、止められた時が最大の隙となる。そこを狙うのが賢い選択だ。


 そして飛んでくる斬撃を1度刀で止めると同時に、右足を地に踏みつけ、一気に溜めた気派を発として、続く斬撃を1つ止めるために放つ。


 そうすることで次の斬撃を防ぐ必要が無くなり、私はその一瞬で斬撃の的としての役割を終わらせ、即座にザーカス目掛けて走り出す。


 「っ!何?!」


 予想外の行動に、斬撃は意味がないと判断したザーカスは攻撃を止め次の手段を考える。が、そんな暇を与えれるほど自由にされては私も悔しい。


 10mとはいえ、私たちレベル6には遠い距離。それだけあれば対策は思いつくだろう。なら少しでもそれを出来なくすればいい。


 予めホルダーから取り出していた短刀を、内ポケットから取り出すと、残した気派を纏わせそれを真っ直ぐザーカスの右足に全力で投げ込む。


 体に投げつけるよりも足に投げることで、避けたとしても次の行動へと移りにくく出来る足を狙うのは、ここでは落ち着いている証拠だった。

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