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第百六話 呑気剣士




 本当に今からリベニアの神傑剣士と戦いに行くのか、信じ難いほど呑気でフワフワとした雰囲気は流石のものだ。イオナは欠伸を止めないし、ルミウ様はイオナの退屈しのぎのイジりに呆れ、子供を宥めるように対応している。


 おそらく首謀者であるザーカスと戦わないということが更に、それらを強めているのだろう。私が一騎討ちをするのは申し訳なくなってきた。


 歩くことでだんだんと近づくわけだが、いつの間にかイオナはサウンドコレクトを使って中に何人待機の、周辺の状態を確認していた。マークスは後ろで戦闘中だろうし、注意するべきは左右正面だけだ。


 「予想は?」


 「んー、中に13外に10ってとこかな」


 ルミウ様の感覚を確かめるためか、いつもやっているというサウンドコレクト後の敵数予想。確認済みのイオナはニヤニヤしながらその返答を待つが、私には到底理解出来ない領域のお遊びだ。


 私もそんなことを遊びとして出来るなら頻繁に使いたいものだが、サウンドコレクトを使わなければ正確性の欠ける答えしか出せない私にはハイレベルすぎる。次から次に見せられる実力の差は一体どこまで私を成長させるだろうか。


 「正解だ。毎回サウンドコレクト密かに使ってないよな?」


 「疑うなら寝起きにでもやってみればいいよ」


 「いや、寝起きで俺を見たくないって言ってただろ」


 「なら無理だね。だから私の実力ってことで信じてね」


 「常に信じてるけどな」


 私もこんな緩い会話をしてみたい。信頼関係を最高まで結んで、阿吽の呼吸で動くなんてことをやってみたい。そんなこと可能になる人は同じ王国には存在しないが、いつかイオナたちとそうなれたらいいと、羨望の眼差しを向ける。


 「それじゃフィティー、元貴族家にはどんな風にウェルネスのやつらは待ち構えているでしょうか」


 「え?次私?」


 不意に無茶振りをしてくるが、イオナは不可能を押し付ける人ではないと知るからこそ嬉しかったりする。信じてくれてるのはよく伝わるものだ。


 歩きながらも家の中を探るように気派を操作する。サウンドコレクトでは気派やレベルなどを察知する程度しか行えず、今どこでどのように構えているかなんて分かるほど素晴らしい技ではない。


 グッと、ルミウ様に比べてしょうもない緻密な操作を続けると、そこに1人の男の存在を確認する。間違いなく首謀者であるザーカスだ。すると次第に横並びの男たちも確認出来るようになる。周りと比べて異様で異質なオーラを放ち、真ん中に堂々と座って足を組む姿は一発食らわせてやりたいと、王族らしからぬことを思う。


 これは……。


 そして出た答え。


 「私たちが来るのを横1列で待ってるってとこかな?」


 「よく分かったな。流石は期待に応える弟子だ」


 「ふふっ、どーも」


 嬉しさが込み上げると堪えきれず笑ってしまう。心の底から笑えるようになった半年前から、日常では何回も自然な笑顔を作るようになった。これも師匠のおかげかも?


 それにしても私たちが入ってくること、そして家の中を確認することまで先読み済みだというザーカスは自信満々に待ち構えている。


 1度神託剣士のミストを置いて逃げたというのに、どうしてこうも大きな態度を取れるのか不思議でならない。まぁ、悪者の考えなんて正常じゃないんだし、気にしたとこで無駄だけど。


 「正面突破する?」


 「ルミウがそうしたいなら俺は周りの10人を片付けるけどな。どうせフィティーが危なくなったらザーカスは相手にするし、退屈しのぎにはなるだろ」


 「ならそれでいいよ。私も最近は暇だったから久しぶりに暴れたいし」


 「ここならどれだけ暴れても問題ないから好きなだけ戦っていいよ」


 イオナはいつも通りとして、ルミウ様の暴れるは尋常じゃない。普段暴れることもなく、お淑やかにクールに刀を振る人だからこそ、暴れさせるとどうなるか分からない。イオナからは怒らせたくない剣士第1位と聞いているので、どれほどなのか曖昧にでも予想は出来る。


 ここら一帯を吹き飛ばさなければいいけどね……。


 「了解。俺もここで離脱する。終わらせたらフィティーの援護に回るからまた後で」


 「うん、遊びすぎてもダメだからね?」


 「分かってるさ」


 そう言い残し、左側へ一瞬にして消え行くイオナの姿は、残像を残し砂埃が足元で舞うことで、速さを知らせた。何より凄いのは音が全くしなかったこと。そばにいても意識していないと消えたことに気づかないほど静かだった。


 「私たちも行こうか。最悪イオナが遊びすぎてたら私が止めに入るから安心して」


 「うん、ありがとう」


 この安心感は私が2人に対する信頼からくるものだ。この2人の「安心して」という言葉ほど安心するものはないし、偽りということもない。まさに絶対だ。


 そうして元貴族家の前に到着すると、改めて異質な並びとオーラに意味不明さを感じる。わざわざ横並びにならなくても、カッコよさなんて悪の時点で無いのに。


 でも、マークスよりはまだ幾分か良い気派を纏っているのはありがたい。殺意に塗れたことで汚く淀んだものだが、それでもこれから始末するのならもってこいの気派。


 「開けるよ」


 そう言って、優しく警戒しながら開けると思われた扉を、ルミウ様はこれでもかと力を込めまくって右足でバコン!!と砕くことで道を作った。

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