第百四話 始動
イオナと覚悟を改めたあの日から1ヶ月半ほど経過した今、私たちは私の命を狙う組織――ウェルネスとの戦いへ向かおうとしていた。
「それで?なんでマークスが居るんだよ」
イオナが、今まで姿を見せなかった第1座――マークス・バーガンに対して不満を募らせ、吐き出す。
「私も国務としてウェルネスの排除にあたる以上は、この場にいても可笑しくないんだがね。むしろ君たちがこの場にいる方がおかしな話だ」
「確かにそうかもしれないが、今までルミウが調査したことを元に俺らは動いているだけだ。やつらの手がかりを得てここにいるのか?」
「もちろん。そこの他国のお嬢さんと大差ないほどの量は得てるつもりだよ」
マークスは私も好んで接したいとは思わないタイプだ。ルミウ様とイオナとマークスの4人でいても、気派を掴めるようになった私にも気持ち悪さというのが伝わる。
吐き気を感じるのではなく、上から空気圧に押されて息が苦しくなるような、大袈裟に言えばそれほどだ。
「ところで、私も気になるのだが、何故王女がこの場に?神傑剣士の国務に参加なさるおつもりで?」
私に対して見下す態度を取らない数少ない人物でもあるマークスらしい丁寧な聞き方。なんでも、呪い人とか人間関係とかどうでもいいらしく、自分が嫌なことをされなければそれでいいとのこと。
「そのつもりです。私の命を脅かす以上、王族として己の刀で始末をつけるのが道理かと」
「なるほど。それならば頷くほかありませんね。両隣に立つ護衛の2人も中々の猛者ではありますが、王女もそれなりに成長した様子で、問題はないでしょう」
王族より神傑剣士の方が地位は低い。なので言うことを聞く以外に道はない。これがメリットととれるなら最強だけど、刀1本で全てを変えられる世界なのだから神傑剣士相手なら油断は出来ない。
生まれたときから決められた地位なんて脆いものだ。
「私はサポート、いえ、周りの掃除をすれば良かったですか?」
「そうだ。悪いが、ザーカスの首はフィティーに任せる。どうせ国務を終わらせるなら有意義なものにした方が良いだろ。あんたにはなんの益もないけどな」
「いえ、十分です。手間が省けるならそれだけで楽ですから」
変わらぬテンションにも全く不信感を拭わないイオナ。出会ったときから警戒しているようで、謎の多い剣士は信じると必ず不利益を被ると言っていたほど。マークスを一切信じてないらしい。
だからイオナもいつでも刀を抜けるように気派を纏っている。
「そろそろ良いかな?面倒は早く終わらせて床につきたい性格なもので」
ルミウ様は相変わらずクールに事を進める。まとめ役なのだが、有無を言わせず無駄をなくして進める方法は威圧感満載で有効的だ。
「目的地はここからおよそ15km先の王都を抜けた先にある荒野。そこに構えられた拠点内にザーカスたちは居ると予想している。確定位置は着く少し前に教えるから、今は向かうことに集中して」
確実に掴んだ情報を開示するが、今までもイオナと共同で探っていたことも間違い1つもないと言われるほど、正確性に長けた調査能力がある。だからマークスとは違い、イオナは信じている様子。
疑うこともしないそうだが、それは最大の尊敬からくるもので、決して私なんかにそれほどの信頼を抱くことはない。これまでの過程で積み重ねたものに、たった半年強程度で並べるわけもないけど。
マークスは自分の調査によって得た情報と合致していることを頷くことで強調する。案外プライドというものが高いのかもしれない。
「なぁ、向かう前に1つ、神傑剣士を殺しても良いのか?」
「国務として私に託されている。だから判断も何も私が決めるが、王国としてはそれらを認めない方向で裁くことを決めている。だから何も問題はない。ウェルネス自体、魔人化前に人間を殺すという行為を勝手に組織として作り上げているのだから、覚悟もしているはずだよ」
「それは分かってる。俺もウェルネスたちは殺めるつもりでいるからな。聞きたいのは神傑剣士を1人削ってもリベニアは安全なのかってことだ」
自分の育った王国ではないのに、ツンデレなイオナは心配している。神傑剣士の抑止力とは相当なもので、1人欠けるだけでも大きな被害を齎す。
今では2日に1体に戻ったものの、1日2体ならほぼ終わりだろう。
「安全だよ。今は少し暇だと感じるほど平和は保たれ始めているからね。それが激務になるだけで、被害は増えない」
自信満々だった。言葉一言一句に偽りはないようだ。未来を知る人でないとここまで断言出来ないだろうに、余裕だと言い切るのは謎多き第1座に似合っているかもしれない。
「そうか。なら何も気にすることはないな。悪だとしても人殺しは好みではないから、乗り気とは言えないが。まぁ、呪い人の不安を取り除けるならそれくらい背負うのが神傑剣士だもんな」
「面白い考えを持ってるようだね」
「あんたほどではないけどな」
睨んだのか、ニヤッと挑発したのか分からないが、何かイオナの中でマークスに対することが分かっているのかもしれない。あの顔はそういう顔だ。
「君はやはり不思議だ」
水面下の攻防に私が介入する隙はない。このままイオナに任せて私は自分のことに集中しよう。そして私たち4人はともに荒野にあると言っていた拠点へと向かうことになった。
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