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第百二話 狂信者の手紙




 翌日、ルミウに話したことをフィティーに闘技場内、鍛錬を始める前に伝えると、少し驚きを見せたものの承諾してくれた。私を狙うのならそれ相応の対応をすると言った時の顔と覚悟は並大抵のものではなかった。あれは虐げられた底からの這い上がりを知る人の顔だった。


 ルミウは調査を頼もうとしたら、君に言われる前に調査へ向かう、頑張ってね、という置き手紙をされており、気配も辿れないほど遠くへ行っていた。ヒュースウィットですら阿吽の呼吸だったものを、5ヶ月近くも毎日顔を合わせて話しているのだから、さらに相手のことを良く理解し始めている。


 頑張ってね、なんて美人に言われて頑張らない男はいない。普段そういうことを言わない美人ならなおさらに。


 「1つ聞いていい?」


 伝えた内容に気になるところがあるらしく、スッキリしたい面持ちのフィティーは柔らかな声で聞いてくる。


 「なんだ?」


 「今から勝てる力を身に着けて戦いに挑むんだろうけど、それでももし負けたらどうするの?」


 日々鍛錬を繰り返す神傑剣士に、どれほど天才と言われる存在の剣士でも力をつけたばかりでは勝つことは難しい。それをよく知るフィティーだからこその問題だった。


 「そうなったら第1に大切なのは命だ。もちろん俺が間に入って止めるさ。もしくはルミウがな。だから微かにでいいから死を感じるんだ。そうすれば間違いなくレベルアップするし、潜在能力も引き出されるだろうからな」


 死から得られるという確信はなくてもフィティーの今までの成果を見れば分かる。体に負担がかかればかかるほど成長の質が高まる。ドMの境地のようなものだが、実際、気派を習得する際の倒れる寸前までの集中と使い方は、少なくともあの時俺が気派を送り続ければならないほど追い込んでいた。


 そして翌日の鍛錬では無駄のないほど整った気派を披露するのだから、俺の予想を遥かに凌駕していた。フィティー・ドルドベルクの才能は追い込まれて開花する。それは確信だった。


 「それなら気にすることなく戦えるからいい事聞いた」


 「聞かなくても守るのが無意識に分かるほど優男感は常に出てるだろ?」


 「出てるけど確認は必要でしょ」


 「出てないから確認したんだろ」


 「大正解。イオナから優しさなんて常日頃感じてるから、もう鈍っちゃって鈍っちゃって分かんないよ」


 言葉遊びをこれでもかと毎日のように続けるが、付き合ってくれる優しさは俺の偽りの優しさより何倍もましだろう。冗談の投げかけ合いのため、矛盾なんて日常茶飯事。これが心の安らぎにでもなってくれてるなら嬉しいが。


 「あっ、そうだ思い出した」


 そう言って上着の内ポケットに手を伸ばすと、白い封筒に包まれた手紙のようなものを取り出す。


 「それは?」


 「これ、今日の朝私の部屋に届けられてた封筒。ヒュースウィット王国からイオナ宛に届いてたんだよ」


 「俺に?」


 手のひらサイズの長方形。それを俺に渡す。ヒュースウィットからならメンデかエイル、もしくはテンランからの現状報告か、緊急要請かと予想する。


 しかし、開封するとそれが珍しいものだと筆跡から分かる。一文字一文字がペンの先生かと言わんばかりのキレイさに、バランスの取れた間隔。


 手紙の内容を知りたいため俺はそのまま手紙を読み始める。内容はこうだ。


 『手紙上だけど、久しぶりイオナ。リベニアでは王女の師匠をしているそうじゃない。順調と予想してるけど、イオナなら巫山戯て怒られたりしてるのかな?とにかくこれを読んでいる時のイオナが無事であることを願っている。では本題に移ろう。最近のヒュースウィットは特に問題はなく王国を保てているんだけど、妙なことが起きた。それが君をイジメていたというロドリゴ・リュートが消息不明になったこと。別に痛くも痒くもない問題だけれど、イオナには報告してすぐにでも注意をする方が賢明と思ってこの手紙を送った。そして勘だけど、イオナに良くないこととして降りかかる気がしてならない。実力はいつものように信じている。だけど、身の回りにも気を配っていた方が良いかもしれない。これだけは伝えるべきことだと個人的に判断して送らせてもらった。後、いつでもイオナのいるとこへ駆けつける準備はしているから、危機を感じたらすぐに要請すること。ルミウもいるから問題ないとは思うけど。とりあえず伝えたいことは書いてあるから、ルミウにもよろしく伝えてね。そして、私はイオナに会いたいから速く帰って来てね』


 そう長く綴られた手紙の最後に――ブニウ・シックと贈り主の名が書かれていた。ブニウは俺の1座上、神傑剣士の第6座に就く、異名青龍(せいりゅう)の剣士と呼ばれる28歳の女性剣士。


 もちろん完璧な女性なのだが、完璧の裏には隠された驚きの事実があるのも当たり前。このブニウという女性、最後の文からは優しいお姉さん感を匂わせるが、実は俺の狂信者だったりする。


 めちゃくちゃ剣技について知りたがりのブニウは、神傑剣士で最も多くの剣技を持ちながらレベリングオーバーというチート能力を持つ俺に、いつしか調べるうちに沼へ堕ちたと言う。


 変人だが美人であるが故に残念美人と言われる。俺ハーレムなんて思うかもしれないが、残念ながら俺にそういった感情を持つのはブニウとシルヴィアだけなので、変人には好かれる体質らしい。

 少しでも面白い、続きが読みたい、期待できると思っていただけましたら評価をしていただけると嬉しいです

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