第百話 助太刀
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その隙を見てこの機を逃すまいと、ザーカスは動き出す。
「蓋世心技・滅!」
やはりそうだった。刀を顔の横に構え、両足に込めた力で前へ進む。滅は威力範囲はとても小さく、威力自体も他の蓋世心技と比べると劣るが、唯一どの技に於いても最強のものを誇る。それが――突きだ。
相手へ打ち込む場所を確定させ、そこへ向けて、一直線に刀の先1cm程度に気派を圧縮して突く。そうすることで触れたものは、その瞬間に爆発するように突き刺さる。人間が相手ならば貫通するのは当たり前、どこを狙われても刀で受けなければ致命傷になる剣技だ。
そしてその最強の突きをザーカスは俺の横腹目掛けて迷いを捨てて、怒りを込めて、これでもかと最短距離で来る。
滅を見たのはいつだろうな。8ヶ月前ぐらいのお遊び模擬戦でレントにやられたやつが最後だったか?いやいや、そんなこと考えてる場合じゃなかったわ!
迫りくる刀は俺の思考を遥かに上回る速度。気派を使って防御壁は作っているものの、態勢も万全ではなく、どこに突かれるか正確無比な位置は掴めてないので一瞬が命取りになる。
とはいえ、実は致命傷は覚悟している。俺の気派とはいえ、滅を完全に相殺するほどの量を持ち合わせていない。これは俺の落ち度だ。気づけたのは成長だが、遅かったのは成長不足。体に刻んでおくと成長へ繋がりやすいので、フィティーに教えてばかりの俺にはいい勉強になる。
致命傷を負った後はそれらを残りの気派でカバーしながら戦うつもりだ。
近づく滅という地獄。ここで捉えた刀の行き先は左横腹の腰上10cmだ。そこに気派をぐわっと集め、防御壁を作ると俺は退く準備をする。
そしてついに、キンッ!と交わる音が響く。
「んっ?!」
すると突然ザーカスの驚くような情けない声が聞こえる。同時に俺も、その驚きの理由をこの目で捉える。俺の横腹とザーカスの刀の間に1本の刀が入り込んでいた。つまり、止められたのだ、ザーカスの滅は。
「君が苦戦なんて珍しいこともあるんだね。止めてくれよ、見たくもない君の姿を見せるのは」
「マジか」
その刀を止めるのは俺の最大のライバルであり、最強の相棒――ルミウ・ワンだった。同じ神傑剣士として部類されるだろうルミウとザーカスだが、その差は大きいのだと目で見て分からされる。ザーカスの全力の蓋世心技を、ルミウは利き手である右手1本に力を込めるだけで止めていた。
「お前は!」
クルッと回転し、左足を軸に強烈な回し蹴りを繰り出す。思わずガード不可能だったザーカスは無抵抗に宙を舞いながら滅を放った場所へ戻される。
紛れて俺もミストの腹に左手で殴り込む。
「助かった。感謝する、ルミウ。でもなんでここに来たんだ?」
「君の絶対的テリトリーが消えたなら何かしらの異変が起きたことは分かる。だからすぐに消えた理由を探したんだ。そしたら少し先の広場でミストの気配を感じたから、多分そこだと思って来たんだよ」
「やっぱりルミウはルミウだな」
「うん、私は私だよ」
エアーバーストを持つルミウだから緻密な気派の操作に気づいたのだろう。日頃から敏感であるため、近くの危険を察知しやすいので奇襲対策には常に万全のルミウ。でも敏感だからこそ、日々のどうでもいい気派や気持ち悪い気派で気分を悪くするのもあるあるなので、そこは可哀想だ。
「それより、ミストの相手は私のはずじゃ?」
「あー……なんのこと?」
「はぁぁ、もういいよ。生きてるし、まだ刀は触れるだろうから遊ぶには十分」
はい、怖いねぇ。遊ぶじゃなくて痛めつけるの間違いだ。ルミウの取扱説明書にそう書いてあるからな。
「ルミウ、なにか言いたそうに睨んでるぞ」
「ん?」
息絶え絶えの今にも死にそうなミストに、ピンピンしているザーカス。こちらは何もかも完璧である神傑剣士。どんなことが起ころうとも、勝ち目はない。
「……お前ら……他国の神傑剣士だな?俺の蓋世心技を受け止めた女も中々だが……何よりも……女が来ることを知っていて、わざと刀を入れ込む空間を作ったお前が1番やべぇ」
バレてるのかよ。
「って言ってるけど、ホントは気づいてたの?」
「まぁ、神傑剣士なんで」
実は気づいていた。滅を構えるザーカスが突っ込んで来る時に、絶対的テリトリーを最大まで拡大したことによりルミウが侵入したことに気づき、即座に空間を作った。
拡大したのは、出来るだけ周辺の気派を集めたかったから。広場とはいえ、住宅が並ぶのには変わりない。ならば人がいるのは当然だ。集を使える俺だから出来た技だ。
たまたまラッキー。
「それで?知ったとこでどうする。これこそ完全に万策尽きた状態だろ」
「もちろん……考えてあるさ……」
ミストはもう限界だった。最後の力を振り絞るように立ち、最期まで足掻こうと意地を見せる。
「ミスト……すまない!」
悔しげに、別れを惜しむようにザーカスは納刀するとすぐさまそこを立ち去ろうとする。
「お前らを俺は……殺す!」
残された死ぬ寸前のミストはテンプレの置き土産、魔人化を始めようとしていた。
「待て!蓋世――」
「ルミウ待て、逃していい」
追いかけても、蓋世心技を使ってもやつは仕留めれる。だが、それを俺は無理矢理にでも阻止する。
「何故!」
「理由は後で説明する。仲間を見捨てるあいつを許せないのはわかる。だが今はミストの魔人化を止めるのが優先だ」
「……了解」
落ち着きを取り戻し、使おうとした蓋世心技を止め、ルミウは極心技で魔人化する前にミストの首を絶ち斬った。
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では次は150話若しくは200話で!