王女
残酷な姿となった仲間達から声が聞こえてきた。
「...ぅ...ぁあ......ゆ...し...ゃ...。」
それは王女の声だった。俺は立とうとした。
立とうとしたのだが、立てなかった。
足の使い方というか、力の使い方を忘れてしまったのだろうか。手の動かし方は覚えていたので、手で這いずりながら王女の元へ向かった。必死に必死になって、たどり着いた俺は
王女の顔に触れた。ひどく冷たかった。まるで氷を触っていたかのように王女の顔は冷え切っていた。
俺は王女に声をかけた。
「.....................ぁ。」
声の出し方が分からない。
どうしよう。
俺は焦った。
言葉を発せないなら気持ちで伝えるしかない。
俺は生きている。おまえは大丈夫か。と。
その時、王女の身体から黒い瘴気が溢れた。
俺は離れた。
王女の黒い瘴気は膨れ上がり、繭の形になった。
俺は繭に触れようとした。
その前に繭はヒビが入り、黒い瘴気が溢れ出した。
俺は驚いていた。黒い瘴気に触れているが魔王を倒した後に感じた痛みは無かった。
繭が完全に真っ二つになる。
「...ふー。流石に肩が痛いわね。」
王女の声だった。
「勇者。何をそんな驚いた顔をしているのですか。」
紛れもない。間違いなく王女だ。
繭から人が出てきた。それは王女だった。
「.............ぁ....ぅ...。」
喋れない。喋りたい。
「勇者。魔法をかけます。目を閉じてください。」
昔から王女には頭が上がらなかった。
王国で初めてともだとになった人間は王女だった。
魔王を倒した後は結婚する予定だった。
俺の妻となる王女がお願いをしてきているのだ。
俺は涙を流したかったが、涙が出ない。
俺は目を瞑った。
「<記憶よ。記憶よ。目を覚ませ。>」
俺の頭、いや意識の中に暖かな光が入ってきた。
その瞬間、足がピクリと動いた。涙と思われる液体が俺の頬をつたる。流石王女。俺の状況を感じ取ってくれたのか。
そして声が出るようになっていた。
「...王女。毎度のことながらすまんな。ありがとう。」
「勇者。私は私にできることをしたまでです。」
王女は変わっていなかった。見た目は青白く、所々緑がかっていたが中身は王女そのままだった。
「王女。何が起きたと思う?私達に。」
「勇者。もうこんな堅苦しい呼び方はやめて名前で呼んで。」
「王...アメリ。じゃあ俺も名前で呼んでくれ。」
「えぇ、パド。何が起こったのかみんなに聞いてみましょうか。」
「みんな...?」
そう思った俺は周りを見た。仲間達の身体が動き始めたのだ。




