040 パラレルワールド
『……それについてはいちいち説明する時間がもったいないから美咲ちゃんがなぜここに居るのか? 死霊使いとは何者なのか?
エルトリア王国第二王子のステファノ・ギュルケとは何者なのか。そして美咲ちゃんが憑依している公爵家長女リーナ・フィオーレとは?
これらのことの説明を簡単に知識パッケージにしてあるので美咲ちゃんに知識転写してあげましょう。えいっ』
私の頭の中に知識が流れ込んでくる。…………なるほど……そういうことだったか……しかし、なぜこの私、水無瀬美咲がこんな目に合わなけれなならないのかの説明は無いよね?
転写された知識パッケージによると。
頭の中の声は「女神様」ということだ。詳しい説明は無い。女神様はこの世界に蔓延る「死霊使い」をなんとかするため地球から私の精神だけを連れてきてエルトリア王国公爵家長女リーナ・フィオーレに憑依させた。リーナちゃんは意識があって視覚聴覚をはじめとして知覚は私と共有しているけど体のコントロール権は私にあるんだって。
この世界には昔から吸血鬼たちが居て国の上層部は吸血鬼が牛耳っていたんだけど吸血鬼たちの支配って割と温厚で穏便だったから女神さまとしてはさして気にはしていなかったんだって。そういう訳で第二王子は吸血鬼だった。
ところが20年前に突然「死霊使い」がこの世界に出現して人類や吸血鬼をゾンビ化して各国中枢を支配するようになった。この死霊使いは死者を操ったり人類とか吸血鬼をゾンビ化して傀儡にしてしまう。第二王子もゾンビにされた挙句死霊使いにされてしまった。
更には人類を食料として食べてしまうという悍ましい、女神様的には許容できないレベルの危険生命体だったので排除したいけど女神様としては直接手を下すことが出来ず。やむを得ず地球から私を呼び出して聖女のスキルを与えたんだって。要するに私に闘えということですね……
私=エルトリア王国公爵家長女リーナ・フィオーレちゃんは第二王子の婚約者だったからゾンビにされたうえで死霊使いになるところだったらしい。危ない危ない。
ちなみに今の私の服装は白を基調としたゴテゴテとしたドレスと赤い靴。アパレルの文明レベルが地球で言う18〜19世紀くらいらしくて服の生地は麻なのかなあ? 重くて着心地は悪い。
私が憑依してるリーナちゃんは地球で言えば南欧系人種でブラウンの髪色にブラウンの目。体格と顔が日本人の私水無瀬美咲とソックリの美少女だった!
「なるほどー。話はいちおう分かったよ。でもアタシは闘うなんてゴメンナサイだよ、喧嘩とかしたことないし。この世界の人たちには悪いけどーー」
その瞬間、私の心は「深い深い悲しみ」に包まれた。私の両目からは涙が止めどなく溢れてくる。ああ、これは……公爵家令嬢リーナ・フィオーレちゃんの心だね……体のコントロール権は無いし意思の表示もできないけれど、感情は私にストレートに伝わってくるのか。
そういえば第二王子をホーリーライトで倒した時も何とも言えない戸惑いと恐れ、悲しみが伝わってきた。そうか。リーナちゃんはこの世界を救ってほしいと願っているんだね。
『美咲ちゃん。この世界には地球と繋がっているゲートがあるんだよ……そのゲートを通れば地球に行けます。だいたいの場所は私が知っているから教えてあげるね。はい。どうかな?』
私の頭の中にこの世界の概略地図が入ってきた。フーン、このあたりに地球につながるゲートがあるのか、ってか、この世界ってまるきり地球とおんなじ大陸の配置じゃん? パラレルワールドなんですか?
『いま、美咲ちゃんに「ナビゲーション」っていうスキルを転写しました。これから旅をするにも便利でしょう。これで私の神力も底をつきつつあります。もうあんまり会話もできないと思います……最後になんか聞いておきたいことありますか?』
自分のステータスを確認する。
名前 水無瀬美咲
種族 人(女性)
年齢 16歳 体力ー 魔力F
魔法 ー
身体強化 ー
スキル 光魔法5神聖魔法5治癒魔法5
身体強化5毒耐性5麻痺耐性5
杖術5聖杖術5
アイテムボックス5鑑定5
異世界言語(万能) ナビゲーション
称号 リーナ・フィオーレに憑依している地球人。
聖女。魂だけになっている。
「ナビゲーション? ああ……なるほど、確かにスキルに追加されてるね。でも、もう話が出来ないなんて、それは困るというかーー時間がないの? ーー最後に聞きたいこと? じゃあ私って元の体に戻れるの? それと私の中にいるリーナちゃんは?」
『私の神力はもう尽きましたので美咲ちゃんの元に体に戻すことは無理です……だけど美咲ちゃんが地球に帰ることが出来れば地球にいる神様なら元に戻せるかもしれませんね、美咲ちゃんもリーナちゃんも。保証はできませんけど……』
「そうか、だったらこのゲートを通って地球に帰って元の体に戻してもらって……地球にとっても死霊使いは脅威なんだから地球の近代国家の最新兵器を使って死霊使い達を討伐してもらってもいいってことだよね?」
『……そのとおりですけど恐らく最新兵器を運用する地球人だと死霊使いに対しては分が悪いでしょう。地球人には死霊使いかどうかの鑑定が出来ないですからね』
「ふーん、そういうもんなの? でもワタシ一人で孤独に戦うよりは良さそう……」
『地球の最新兵器よりも地球にいる神様に助力を願った方が遥かに勝算は高いでしょう。何しろ神様ですからね』
「そういうあなたも女神様でしょう? 何が違うの?」
『地球に居るのは全知全能の時空神なのです。私などとは月とスッポン、比較することもできないのです。
ただ、ほとんど留守のことが多いから居ないかもしれません。実際、貴方を地球から連れてくるときには居ませんでしたからね、はっきりしないのです』
そういうことか……だいたい事情は分かったけどなんでアタシを選んでこの世界に連れてきたのかという恨みを激しく感じるべきなのかもしれないけれど……
いまアタシが憑依しているリーナちゃんの知識や感情が私の中に徐々に流れ込んでくるのであんまり怒りの感情は湧いてこない。むしろ早く地球に行って神様の助けを求めないといけないという焦燥感を感じる。
「うん分かった。リーナちゃんのこともあるから、いちおう前向きには考えてみるよ。で、リーナちゃんの実家に早急に帰った方が良いんだよね、それからどうすればいいの?」
『第二王子を殺害したことになったであろうことを説明して旅に出てください。目的地は地球に繋がるゲートです。そして私はあなたとの会話をこれ以上続けることはできません……
後は貴方が自分自身で判断して行動してください。この世界は地球と違って文明化されておらず不潔で危険に満ちています。同じ人類だとしてもあなたを物のように扱ったり獲物として付け狙う者たちは多いでしょう。そのうえ数は多くありませんが死霊使いが跋扈しています。
でも貴方には私の神力のほとんどを費やしてスキルを与えました。
一対一なら死霊使いには負けることはないでしょう。リーナちゃんの持っているスキルも使えますからね。ただし魔力切れや多勢に無勢ということもあります。数的優位を取られないように注意を…………』
それきり女神さまは消えてしまった。私の心の中にはリーナさんの感じている焦燥感がヒシヒシと伝わってくる。私は第二王子の遺体に軽く手を合わせてから、どうやってこの王宮から逃亡するか思案を始めた。
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