031 聖 剣
【267日目 東京時間8月31日(水)1700頃】
私たちはアンドルーズ空軍基地を8月30日13:35に離陸して在日米空軍横田基地に日付変更線を飛び越して日本時間の翌日8月31日16:45に着陸した。
入国手続きを終えて迎えに来てくれた大使館の車で埼玉県T市にあるアメリカ大使館別館に向かう。ちなみにソフィアさんにも日本語と日本知識を転写したので言葉の問題はまったくない。
【265日目 東京時間8月31日(水)20時頃 アメリカ大使館別館】
大使館別館に到着、荷物を置いてからコリンズ特任大使の執務室に集まって簡単にミーティングする。ソフィアさんは自室に運び込まれて簡単に配置された家具や荷物を整理して寝れるようにしないといけないから自室に。
「アリス様、吸血鬼共の襲撃そして長期にわたるアメリカ旅行お疲れさまでした。茜さんも初めてのアメリカでお疲れでしょう……明日からは高校が始まりますから今日は早めにお休みになった方が良いかもしれませんね」
「うん、そうだよね、日本とアメリカで時差もあるから……不思議と日本からアメリカ行く時よりアメリカから日本に帰ってくる方が時差ボケってきつく感じる……なんでかな?」
「そうなんだよね。あー明日から園長業務かあ! ミラ副園長、なんか変わったことなかった?」
「ふふふ……なんもありませんよ……ワシントンで吸血鬼の襲撃を迎撃、そして3週間にわたるアメリカ横断旅行……吸血鬼撃退という手柄をたてた上にさぞかし楽しい旅行だったでしょうね?
こっちは蒸し暑い日本で泣き叫ぶ幼児のおむつ替えと炎天下でのお散歩ですよ? 歩くのが嫌だとゴネる幼児を抱っこするアメリカ美女の私……物珍しく見られるけど誰も褒めてくれませんよ」
「……ミラちゃん! 保育園のお仕事ありがとう!大変だったねえ! 次は一緒にアメリカに行きましょう……そうだ! 吸血鬼のほかにも死霊使いとか宇宙人が居る可能性があるのですよ。死霊使いはミラちゃんの担当でいいかな? いやー助かるなあ」
ミラ副園長の瞳がキラリと光った!
「死霊使いなんて見つけ次第にぶっ殺してやりますよ? サーチ&デストロイです。海兵隊魂は私の中で健在なのですよ……あんまり気持ち悪いゾンビ系が居ないことを祈りますけど……ゾンビは嫌いですから」
なぜかミラ副園長の機嫌が直ったのでいいでしょう……さて、明日から学校始まるからコリンズさんの言うとおりに早めに寝ようかなー おや? エマ園長に電話だ。
「あら? この電話にはは出ないと……みんなちょっと失礼しますね、電話に出ます。
ーーはい。ああ、お久しぶりです! いつもお世話になっています。……ええ。ええ。ええー? いつからですか? ふんふん、なるほどー。彼らからの話は聞いてませんので分かりませんが心当たりを調べてみます。それでは」
エマ園長は電話を切った後にみんなを見回す。
「千葉県S市の御子柴君のお母さんから電話だったんだけど……御子柴君と伊集院君が旅行に行ったきり帰ってこないんですって」
♢♢♢♢
時は一カ月ほど遡る。7月の末。高校は夏休みに入っている。千葉県S市にある伊集院家において「勇者」と「魔王」の会合が行われていたー
「御子柴君、如月さんとかアリスさんとかエマ園長もだけど8月になったら一ヶ月くらいアメリカ旅行するらしいよ? 留守番のミラ副園長から忌々し気に教えてもらったよ……」
「え、そうなの? ……そうか、いいなあ、俺たち外国なんか行ったことないのに。如月さんは5月の連休に引き続いて二回目だよねえ。俺たちもいつ声がかかっても同行できるようにパスポートを取ったのに声が全然かからない。積極的にアピールした方が良いのかな?」
「アピール……僕がアリスさんに使徒にしてくださいって頼んだ時にゴメンナサイされたときのトラウマがまだ疼くよ……とても一緒にアメリカに行きたいなどとは言えないよ、これが美少女の如月さんと僕ら普通のオタクの違いなのかな……」
「うんーー気持ちは分かるよ。でも俺たちはアリス軍団の軍曹だからね、アリスさんの恩恵も頂いた。日本全国、いや、世界中を見回しても俺たちのように直接神様にお仕えできてる人間はいないよ? 上を見たらキリがないけど下を見れば俺達って凄いよ。しかも勇者と魔王だし!」
「そうだね、御子柴君は偉いね前向きで……でも僕は使徒になりたい。それで、どうやったら使徒になれるか考えてみたんだ」
「うん? どうやったらなれると思うの?」
「手柄をたてることだよ。アリスさんの使命である『人類の守護』これは僕たちが白い世界の謎の女に言われたことでもあるけど、人類の敵からこの世界を守ることが手柄になると思うんだ」
俺は伊集院君の目をまっすぐに見つめてみた。珍しく迷いのない目をしている。伊集院君は本気のようだ。
「なるほど。でもどうやって? どこにいるかも分かんないのに?」
「それは御子柴君、勇者の持つ『聖剣』を使えばいいんじゃないかと思うんだ。前に言ってたじゃん聖剣を使うと敵の場所が分かるって。エネミーサーチって技だっけ? 使ってみようよ」
おお、なるほど! 全然考えても居なかったよ……確かに俺の聖剣は俺が異世界に放り込まれて第2王子に憑依しているとき王国の宝物庫から持ち出した神器で、聖剣技を使うための特殊アイテムでもある。
俺が使っていたこの聖剣は地球に精神だけ戻されたはずなのになぜかアイテムボックスに入っていた。ついでに神槍とか勇者専用の鎧なんかも入っていた。薬草とかポーションとかも入っていたけど地球ではなぜか機能はせず、何の効果もないただの草と液体になっていた。
……そうか、聖剣か……なんか中二病っぽくてアリスさんとかには教えなかったんだよね……茜さんも聖剣には触れてこなかった。そっとしておいてくれたのであろう……優しい。
「なるほど……聖剣か……一度つかってみるか……?」
俺はアイテムボックスから聖剣を取り出す。見た目は、古くからある超大作ゲームのアレにそっくりのビジュアル。実用性の欠片も感じられない中二病全開の逸品である。
異世界では皆さんの憧れの的の聖剣であったが、ここ地球では恥ずかしくて使えないと思っていたのだ。しかしこの考えも逆に未熟だったのかもしれない……気付かせてくれてありがとう、伊集院君。
「では、人類の敵……とりあえず、吸血鬼ーーエネミーサーチっ!」
聖剣を使ったエネミーサーチは、ある程度具体的な対象を指定しないと機能しない。居るかどうか自分も信じていないような敵はダメだ。「吸血鬼」は白い空間の女から言われたから多分居るんだろう
……うおお! 聖剣が光り輝いた! 居るのか? 吸血鬼が!
「……伊集院君……! 吸血鬼は居るらしいね? 自分でやっててビックリだよ」
伊集院君は生唾を飲み込んで食い入るように聖剣の動きを見つめている。
聖剣がほのかに光り輝くとゆっくりとある方向に向こうとする。その動きを妨げないようにし保持していると聖剣はある方向でピタリと止まった。聖剣の向きを変えないようにして床に置いてからスマホで地図ソフトを立ち上げて聖剣の示す方向を調べる。
「ほとんど西だねえ……チョイ北かなあ。聖剣持っていた時の感じだと1000キロ以上はありそうだった。日本国内ではないね、朝鮮半島か更に中国……でもアフリカ大陸ほどは遠くないかな?」
聖剣の示す方向は上下方向も含んでいるので例えば地球の裏側なら真下を示すのだ。だからどの程度下向きなのかで距離の見当はつく。今回は若干下向きだったので朝鮮半島か中国だろう。
念のために「死霊使い」と「凶悪な宇宙人」でエネミーサーチをかけたけど反応はなかった。
「反応があった吸血鬼は朝鮮半島か中国か……あんまり遠い外国だと行けないねえ。はあー、だめか。テレビでも見よ、御子柴君」
伊集院君の家って結構な裕福な家なんだ。昔からの地主で土地持ちの家系で家は大きいお屋敷。伊集院君の部屋は10畳くらいある洋室で大型テレビまである。こんな部屋にいたら勉強なんか手に付かない自信はある。
俺は聖剣をアイテムボックスに片付けようと手に持った。テレビでは丁度お昼のニュースで韓国と北朝鮮の南北首脳会談の様子が映し出されていた。北朝鮮の国家指導者の横にいる中年男の顔がアップになった瞬間。聖剣が震えた。
聖剣が反応している! 聖剣はこんな反応をすることがあるのだ……恐らくあの中年男が吸血鬼なのだろう。
「伊集院君、俺、吸血鬼を見つけちゃったみたい。いまテレビに映っていた中年男だよ。映ったの一瞬だったからもう今は写ってないけど」
「ええ?ホントに? じゃあ、もう一回見て確認しよう」
伊集院君の部屋のテレビは24時間録画だからいつでもどの番組でも見返すことが出来る。俺たちは中年男の顔をスマホで写真に撮ったりWEBで北朝鮮や韓国、南北首脳会談のこと、そして中年男のことを調べていった。
次話 032 ソウル




