030 アメリカ横断
【241日目 東京時間8月5日(金)2000頃 ワシントン時間 8月5日(金)0700頃】
ワシントンで吸血鬼男爵がアリスコーディ襲撃に失敗して吸血鬼公爵に電話した日の翌日。8月5日の夜。
吸血鬼公爵と吸血鬼伯爵は韓国ソウルにある吸血鬼達の拠点に滞在していた。
「吸血鬼伯爵、韓国における拠点の拡大は中止する。吸血鬼は活動に必要な最小限の人数を残して北朝鮮側に撤退だ」
「……分かりました。しかしワシントンでの吸血鬼男爵たちの敗北で完全に方針を転換するんですね?」
「そうだ。当初は亜神を支配下に置いて我々の戦力にして、あの恐ろしい死霊魔術師どもを撃退するつもりであったが亜神を配下にするのは無理だと判断した。
吸血鬼男爵たちは誰にどんな攻撃を受けたかもわからずに敗北して闇空間に潜航して逃れた。『真なる吸血鬼』五人が奇襲的に寝込みを襲ったのに手も足も出ずに無力化された。
亜神たちは吸血鬼男爵たちをいつでも殺せたはずなのだ……男爵の右足のみ切断して命を奪わなかったのは圧倒的な戦闘能力の差があることの結果だろう。
……ならば死霊魔術師どもの撃退は諦めてこちらの世界に根拠地を作って向こうの世界からは徐々に撤退した方が良い。決断は早い方が良いのだ。こちらの世界アースに吸血鬼を大量にかくまって潜伏するには外国と没交渉の国家でなければならない。韓国では難しい」
「しかしあの死霊魔術師どもが本気でこちらの世界に攻めてきたらゲートは簡単に突破されますよ?」
「その時はまずはロシアが、そして中国が対応するだろう。二国とも軍事大国だから戦力の出し惜しみをしないで抵抗してくれるだろう……案外いい勝負になるかもしれんぞ?」
「そうですかね? 死霊魔術師ですよ? あいつらは人間に見えて正体不明の『人間じゃない悍ましい何か』なんですから……ゲートの向こう側に間断なく核爆弾を放り込めば阻止できるかもしれませんがいったんこっちに入り込まれたら終わりでしょう? 我々のように……」
「まあ、その時はこの世界の亜神が何とかしてくれるだろう……我々はひっそりと隠れて戦いが決着するのを待てば良い」
「なるほどー。では我々はこの世界では悪者にならずに穏健な行動に努めるべきですね? 亜神のアリス・コーディに詫びを入れて事情を説明した方がよいのでは?」
「それをすると一気に我々を討伐するってことになっても困るし……なんせ俺たちは吸血鬼だからな、冒険はできないよ。地球の亜神アリス一味は死霊魔術師どもとは雲泥の差だと思うがね……死霊魔術師どもには交渉という概念が無いからなあ。各国に派遣している吸血鬼は全員北に帰還させろ、亜神に見つかって追跡されたら厄介だからな」
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【265日目 東京時間8月5日(金)2200頃 ワシントン時間 8月5日(金)0900頃】
韓国ソウルで吸血鬼公爵と伯爵が好き勝手な話をしている頃……
アリスたちはソフィア・タッカーを連れてアメリカ横断旅行に出発しようとしていた。当初の予定通りにフロリダからニューメキシコ、カリフォルニアに入ってワシントンに戻るというルートである。
もともと旅行する予定だったので大統領府から航空機を手配をしてもらってるし吸血鬼のこともあるのでしばらくはアメリカに滞在した方が良いかと思ったし、ソフィアさんを連れてフロリダに行けば引っ越しと退職手続きを本人が出来るから丁度いい。
昨日はクワンティコ航空施設に行って強化した魔術の確認と追加で50羽の強化カモメを作ってワシントン近辺に飛ばして吸血鬼スキルを持つ者の捜索に当たらせることにした。
吸血鬼を発見したら顔と住居をしっかり覚えておくようにと命じてある。私たちがワシントンに戻ったら報告されるでしょう。
異世界イースのように世界中どこでも魔法が使えて神託が通じて強化カモメたちと双方向で交信できれば便利なんだけど……ここ地球においては「神託」による通信は私からの一方通行の発信しかできないので眷属の使い勝手がイマイチ良くない……その代わり地球には携帯電話やインターネットがあるから便利なんだけどね。
♢
アメリカ横断旅行に出発したアリス、エマ園長、茜たち。
最初にワシントン近郊のアンドルーズ空軍基地からフロリダ州タンパのマクディール空軍基地へ空路での移動でタンパへ。
タンパには6日間滞在してソフィアさんが転居退職手続きをする間に私たちは西海岸に行って私が地球に出現したポイントを見に行ったりオーランドにあるディズニーワールドに行ってパレードとかショーを見たり買い物したり。
東海岸のケープカナベラルに行ってNASA見学をさせてもらったり。大統領官邸から手を回してもらったから特別待遇だった。
次にフロリダ州のパンハンドル(鍋の取っ手)にあるビーチリゾート、フォートウオルトンビーチのエグリン空軍基地に飛んで一日。F-35A含めて色々な飛行機を見せてもらった。
エグリン空軍基地からは車でメキシコ湾を左に見ながらのんびりとハイウエイをドライブ。ペンサコーラで一泊して名物の蠣料理を食べてニューオリンズに。ニューオリンズでは3泊してミシシッピ観光をしたりナイトクラブでショーやジャズを見たり聴いたり。
ニューオリンズ国際空港からニューメキシコ州エル・パソ国際空港へ。エル・パソでメキシコ料理を食べて一泊。車で北上。ホワイトサンズ国定公園を抜けて普段は一般公開していない陸軍ホワイトサンズミサイルレンジ内にあるトリニティサイト(最初の原爆実験の爆心地)を見せてもらってホローマン空軍基地からラスベガス空港へ。
ラスベカスで4日間。英語分かるからショーを見るのが楽しい。その次はイエローストーン国立公園に2日間。次いでサンフランシスコで2日間観光してワシントンに帰ってきた。
♢
「いやー長い旅だったねえ、茜ちゃん。どうだった?アメリカ横断旅行。アメリカって広いよね?」
「うん凄く広いね!。フロリダだけでも日本の半分くらいあるんじゃないのかな?
メキシコ湾はエメラルドグリーンの海がきれいだったしミシシッピの見渡す限りの湿原もビックリだよ。
ケープカナベラルの宇宙基地の中の道路の溝にソコソコ大きいワニがいたのはビックリだったな~イエローストーン公園は雄大で感動するよね〜
ディズニーワールドとかニューオリンズ、ラスベガス!英語が分かるって素晴らしいね!ショーとかコンサートがあんなに楽しいなんて!
……ありがとうアリスちゃん、エマ園長。こんなの自分じゃ来れなかったよ」
「ふふふ! そうでしょうそうでしょう! 夏休みのイベントとしては十分に満足のいくものだったね。私自身も初めて行く場所もいっぱいあったし……ラスベガスとかイエローストーンとかサンフランシスコとか。今回きてみて良かったよ」
「アリスちゃん旅行のことはもういいから吸血鬼がワシントンにいたかどうか確認しようよ。『おーい。そこの強化カモメ! ワシントンのカモメたちを集めてらっしゃい!』」
一時間ぐらいかかってカモメたちは集合してきた。
『さて、強化カモメたち。吸血鬼スキル持ってる奴。居たかな?』
『マスター、そんな奴は居なかった』
『……君たち真面目に捜索したの? サボってたんじゃないだろうね? サボるカモメはクビにするよ? 転写した魔術をアリスちゃんに頼んで全部取り上げてただのカモメに逆戻りだからね?』
『サボりたいのは山々だが我らはサボれないのだ。調教されているからな……頼むからただのカモメには戻さないでくれ。あんな馬鹿で惨めな連中と一緒にはなれない』
『そうなの? だったらこれからもチャンと働くのよ? 私たちは日本に帰るけど、あなたたちはワシントンで警戒していなさい。
リビングにビデオ会議を開きっぱなしのパソコンを置いておくから何かあったらパソコンの前にきてしゃべりなさい。日本にもビデオ会議開きっぱなしのパソコン置いてカモメに監視させるから』
『分かったのだ……だからクビにはしないでくれ』
♢
翌日にはアリスたちはアンドルーズ空軍基地から日本に帰っていった。
エマ園長の指示を受けてワシントンで吸血鬼捜索を続ける強化カモメたち。
しかし吸血鬼たちはアメリカからは完全に撤収したのでいくら強化カモメ達がサボらずに探してもアメリカで吸血鬼を発見できることは無いのだった。
次話 031 聖 剣




