99話 ラーメン
俺はJK姉、菜々子とともに北海道に来ている。
ホテルを出た後、昼飯を食べるためにラーメン屋へと向かった。
菜々子は俺が行きたい場所がいいということで、俺が選んだラーメン屋にきたわけだ。
ふたりでカウンター席に座る俺たち。
「…………」
こそこそ、と菜々子が何かしてる。
椅子を少し持ち上げて、俺に少し近づけて、そして乗る。
「えへへ♡」
「…………?」
なんなんだろうか、今のは。
困惑してる俺を見て、照れながら菜々子が言う。
「ちょっと遠かったので。少しでも、せんせえのそばに座りたかっただけです♡」
上品に笑う菜々子。この子は本当に控えめな子だな。妹のあかりなら、遠慮なくべったりくっついてくるのに。
「別にいいんだぞ、もっとくっついても」
「そ、そんなっ。これで十分です。これ以上は……あう」
最近菜々子についてわかったことがある。
この子は、何につけても遠慮してくる子なんだ。
遠慮しなくていいぞっていっても、絶対に遠慮してくる。それはもう性分なんだ。
だから、無理に、無理させない。この子が自然体でいられるやりかたで、好きにさせよう。
「どのラーメンにする?」
気を取り直して俺たちはラーメンを食べることにした。
菜々子はうんうんと考える。これもまた、遠慮してるんじゃなくて、熟慮してるんだ。
彼女が答えを出すまで、俺は黙っておく。
「これにします、味噌ラーメン」
「じゃあ俺もそうしようかな」
「えへへ♡ おそろい~♡」
小さなことにすごいうれしそうにする菜々子。こういうところはあかりと一緒だよな。
待ってる間、俺は菜々子と他愛ない話をする。
「せんせえはラーメンって食べます?」
「そうだな。たまにかな。おまえは?」
「私もたまにですね。いつもあかりちゃんがご飯を作ってくれますし、外食はほとんどしなかったです」
あかりの料理の腕はプロ級だからな。
それと、この子らの家庭環境については、少々特殊だ。
どうにも親が、きちんと親をしてきてなかったらしい。なにせ子供が二人とも家を出ても、何も言ってこないようなやつらだからな。
……っと、あんまり考え込みすぎちゃだめだな。気のつかえる菜々子は、俺が何か自分のせいで考え込んでるって思いかねない。
「外食が嫌いなわけじゃないんだろ」
「はい。ファミレスとか、いいですよねっ」
「そうか。じゃ、週末とかは外食しようか」
「! そ、そんな……負担が……」
「かからないから、大丈夫だよ。むしろ、おまえたちが喜んでくれた方がうれしいよ。彼女だからさ、おまえも、あかりも」
「せんせえ……ありがとうっ!」
待っている間、ふと、俺はこうして、彼女たちと他愛ない個人的な話してこなかったなと気づく。
これからはちょくちょく、こうして話す時間を持とう。今は……全員が俺の彼女なんだからな。