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【完結】窓際編集とバカにされた俺が、双子JKと同居することになった  作者: 茨木野
第7章

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98話 一方その頃 東京



 伊那いな 菜々子が岡谷とともに北海道へ行っている、一方その頃。


 JK妹あかりは、喫茶【あるくま】でバイトをしていた。


 からんからん♪


「いらっしゃーい……って、なんだるしあじゃん」


 開田かいだるしあ。岡谷が担当するラノベ作家だ。


 白い髪に赤い瞳が特徴的な、小柄な少女である。


 いつもは季節関係なく着物を着ていた彼女だが……。


「あれ? 珍しい。今日は随分と可愛らしいお召し物で」


 あかりが言うとおり、るしあの今日の服装は、かなり軽装だった。


 白いワンピースに大きな麦わら帽子と、清楚な装いだ。


「ああ。おかやがな。普通の女の子らしい服も着た方が良いっていうからな」


 るしあの後ろからスーツ姿の大男が現れる。

「ども、贄川にえかわさん」


「おひさしぶりでさぁ、あかりさん」


 ターミネーターのような見た目の大男、名前を贄川にえかわ 次郎太という。


 贄川にえかわ姉弟は開田グループでボディガードをしている。


 その日その日でシフトが違い、今日は次郎太がるしあを護衛する日だったらしい。


 贄川にえかわが椅子を引くとるしあがそこに座る。


 すかさずあかりがお冷やを二つ分持ってくる。


「お気遣いどうもでさぁ。ですが、あっしは護衛ですゆえ」


「あ、そうなんだ。大変だねー」


 贄川にえかわはそう言うと店の外へと出て行く。


「このくそ暑いのにあんな格好してるんだ」


「ワタシも別にくーるびずでもいいといってるのだが、やつは聞かなくてな」


「まじめー」


 るしあの前にメニューを置く。ぺらぺらとめくるるしあを見て、あかりが言う。


「ねえ、るしあ。おかりんと……やったの?」


 それはるしあは一瞬目を見張る。それだけであかりはすべてを察した。


 すなわち、岡谷がるしあと寝たのだろうと。

 ……一瞬だけ、ずきりと胸が痛んだ。

 愛する男が、他の女と寝る。あかりはおかやに深い思慕の情を持つが故に心が傷むのは当然だ。


 だが、すぐに精神状態を持ち直す。

 それはあかりの狙い通りでもあるからだ。


 あかりは岡谷の、大人としての牙城を崩すために誘惑している。彼を堕落させようとしているのだ。


 なぜなら、おかやは菜々子、そしてあかりを完全に子供としてしか見てくれないから。


 彼を【真面目な大人】から、【1匹のオス】へと堕とす。そのためなら他の女と寝ることも、いたしかたないと思ってるのだ。


「ああ。そうだ。よくわかったな」


 あかりの思惑など知らないるしあは、ふふん、と得意げに胸を張る。


「つい先日おかやがワタシの家に来たときに、初めてをもらっていただいた」


「ふーん、そっか。おめでと」


 るしあはあかりが平静さを保っていることに驚いていた。


 もっと動揺するものとばかりだと思っていたのだから。


「なーに驚いてるのよ」

「もっと貴様が驚くものばかりと」


「そう? 別にいいんじゃなーい?」


 二人の間に一瞬だけ、険悪なムードが流れる。だが……はぁ、と溜息をついた。


 ここでお互いに張り合っても意味が無いとわかったからだ。


「バイトか。夏休みなのにご苦労だな」


「どーも。あんたは?」


「ワタシは仕事だ。仕事の合間のな」


 開田の女としての仕事。そして、本業(だと思ってる)ラノベ作家としての仕事。


 ふたつの仕事を持つるしあだが、それを苦とは思っていない。


 彼女にとってラノベの仕事は、彼女の生きがいだからだ。


「がんばって」

「ありがとう」


 るしあは原稿用紙を広げて執筆する。

 あかりがアイスコーヒーを持ってきて隣に座った。


「貴様はバイト以外だと何かしないのか? 姉とでかけるとか」


「いや、お姉は今おかりんとデート旅行ちゅうだし」


「はあっ!?」


 常に余裕の表情を浮かべていたるしあが、初めて大きく動揺を見せた。


「どったの?」

「い、いや……すまない。意外な……展開で」


「そう?」

「何があったのだ?」


 あかりは姉がオープンキャンパスに行っていることを告げる。


 なるほど、とるしあがうなずく。


「つきそいか。そうか、そうだな……うん、そうだな……」


 それ以上の意味合いを彼女は覚えていた。

 

「なーに、あんた、おねえとおかりんが一緒に旅行いくのいやなの?」


「そ、それはそうだろ。だっておかやは……ワタシの……」


「あたしたちの、でしょ?」


 おかやは複数人の女と付き合っている。

 女たちはその状況を許しているのだ。


 るしあも特に気にせずその状況を受け容れていた。強いオスに複数のメスが言い寄るのは当然だろう……と。


 だが……。


「むぅ……」

「なーに、今更ハーレム嫌になったの?」


 にやにや、とあかりが余裕の笑みを浮かべる。


 一方で図星をつかれたるしあは、動揺しながらも言う。


「き、貴様はどうなのだ? 姉におかやが取られるかもしれないのだぞ?」


「だいじょーぶだいじょーぶ。そういうのないから」


「……随分と信頼してるのだな」


「信頼ってゆーか、お姉がどういう人なのかあたしよくわかってるし」


 略奪愛するような女ではないと、あかりはそう思ってるのだ。


「そ、そうか……ううむ、しかし……むむむ!」


 るしあははげしく動揺していた。

 つい先日、あれだけ愛し合っていた男が。


 あっさり他の女と旅行に出かけている。


 前は、気にしなかった。だが今は……独占欲をまるだしにしている。


「あんたもなんか、人間っぽくなってるわね」


 あかりの指摘通り、前は人形のようであったるしあだが、おかやと関わることで、どんどんと人間らしい感情を獲得していた。


 彼女は開田の女として振る舞うことを強いられてきた。己を殺し、律し、生きてきた。


 だから……あの頃のるしあは死人も同然だった。今のほうが、人間らしい。


「あかり……」

「ん? なに?」


「貴様……バイトは何時までだ? ちょっと付き合って欲しいのだが」

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