97話 札幌デート
ホテルに到着した俺と菜々子。
結局同じ部屋に泊まることになった。菜々子は終始顔を赤くしてあうあうと言っていたな。
未成年と同じ部屋に泊まる。普通に事案だ。確かに合意のもととは言え一般的に許される間柄じゃないし、こんなところ誰かに見られたら普通に問題だろう。
その時は、俺が泥をかぶる覚悟でいる。
この子の未来を傷つけないことだけを考えよう。
ホテルに荷物を置いた俺たちは、昼飯を食べるためいったんホテルを出る。
「……わわ、道路広いですっ」
大通りを見ながら菜々子が感心したようにつぶやく。
夏で、しかも帰省シーズンだからか道行く人の数も多いし、車もまたしかりだった。
「……あと、ひんやりですね、空気が」
「だな。東京とは全く違う空気感だな」
「……はい、ぺたぺたしないです。こう、さらさらというか」
実家である長野ともまた違った肌感覚がする。
あそこは勘違いする人が多いが、別に涼しいとこじゃないのだ。
山の間にある盆地に、人里があるため、熱が逃げずに夏はめちゃくちゃ暑い。尋常じゃない。
まあそれはさておき。
「昼何にしようか?」
「……せんせーの好きなもので」
にこにこしながら菜々子が答える。
「主体性をもっていいんだぞ」
「……わたしは、せんせーがいいならそれがいいんです」
妹のあかりとは本当に正反対の性格をしている。
あの子は自分の中に、したいこと、したいものをきちんと持っている。
どちらが悪いわけじゃない。好みはそれぞれだ。俺に決めてほしいというのも、主体性のなさからくるではなく、俺が喜ぶほうがいいという主張があるならまあいいか。
「ラーメンとかどうだろうか」
「……いいですねっ! ラーメン大好きです!」
ばっ、と持っていたカバンからガイドブックを取りだす。
「……このお店と、ここと、ここと、ここがおすすめだそうです!」
ガイドブックにはたくさんの付箋が挟まっていた。
どうやら事前に調べておいたのだろう。
ここもあかりとは正反対だ。したいことはあれど、あまり計画性をもたず、いいと思ったところへフィーリングへ行くからなあの子。
「調べてくれてありがとな」
「……いえ~♡」
ほめられてうれしかったのだろう。ほわほわと笑う。幼さと賢さが同居している。それが菜々子という女の子なのだな。




