94話 北海道へ
俺は双子JKの姉、伊那菜々子とともに北海道へ向かうことになった。
菜々子が北海道にある国立大の、オープンキャンパスに参加することになったからだ。
贄川一花に羽田空港まで送ってもらった俺たちは、飛行機に乗り込んでいた。
「…………」
「菜々子?」
「ひゃい!」
俺の隣に座る彼女が、びくんっと体をこわばらせる。
長くつややかな黒髪に、垂れ目がちな瞳が、庇護欲をそそる。
「何緊張してるんだ?」
「あの、えと……せんせー……」
俺は昔、塾講師をやっていたことがあった。
菜々子と、その妹のあかりは、そのときの教え子。
菜々子はまだ俺のことを昔の癖でせんせーと呼ぶのである。
「わたしその……飛行機が初めてで」
「そうなのか?」
こくんこくんと菜々子がうなずく。
確か彼女は高校生だったはず。この年になって飛行機に乗ったことがないなんて……。
いや、そうか。
彼女たちの家庭事情は、少々複雑だった。家族で旅行を、そもそもしたことがなかったのだろう。
「大丈夫だ。緊張なんてする必要ないよ」
「で、でも……飛行機……落ちたらどうしよう……あかりちゃんが、墜落事故に気をつけてってー……」
あかりめ。姉をからかってるな。まったく……。
「大丈夫だって。日本の飛行機は優秀だから。墜落なんてしないってば」
「そ、そうですよね! せんせーがそういうなら、大丈夫ですよねー!」
そこへ飛行機の乗客に向けたアナウンスが入る。
携帯電話の電源を切ることを告げていた。
「電源きらないとです。電波障害が起きて、飛行機が墜落するって!」
「……誰から聞いた?」
「あかりちゃんから!」
家に帰ったら注意しておこう、姉をいじめるなって……まったくもう。
まああいつなりに心配してるからの発言、なんだろうな。
「ひ、飛行機……こわい……うう……墜落……やだ……あかりちゃん……一人にしちゃう……」
この姉も、妹のことを思ってるらしい。
自分が死んで妹を悲しませないように……か。本当に優しい子だ。
「俺がついてるよ。大丈夫」
俺は菜々子の手を握る。
手が冷たくなっていた。氷みたいだ。そこまで緊張していたのか。
「せんせー……」
菜々子の頬に赤みが差す。すこしだけ、手が温かくなった。
ぎゅっ、と俺は恋人でもある菜々子の手を握りしめる。
彼女はおずおずと、けれど、しっかり、俺の手を握ってきた。
「えへへ……♡ おっきくって、頼りになる手です♡」
「そうか。それはよかった」
「はい! ふふふっ♡」
まもなく飛行機は飛び上がり、空の上へと俺たちを誘う。
浮遊するとき菜々子が悲鳴をあげたのはナイショだ。
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