92話 高原様から褒められる
俺はるしあの家で一泊して、帰ろうとしたところ、朝食に誘われた。
三郎主催のお祝いが開かれた……のだが。
「三郎あんたねぇ! お嬢になんてひどいことしてるのよぉお!」
「ひぃいい! ごめんってねえちゃああああああああああん!」
一花が三郎に関節技をかけていた。
どうやらさっきまで別の家(洗馬という家)の手伝いをしてきたらしい。
戻ってきてるしあが泣いてたので、事情を聞き、処刑されている次第だ。
「あんたほんっと空気読めないわね!」
「やばいって! 腕取れるって! レゴブロックみたいに!」
「2本あるなら1本取れても問題ないでしょぉがぁああああああああ!」
「いやぁああああああああああ! あ」
ごきっ!
「折れたぁああああああああああああああああ!」
「関節外しただけよ、大袈裟ね」
のたうち回る三郎の肩を、一花が蹴っ飛ばす。
ごきんっ! という音ともに元通りになった。
「あ、動く~。さすが姉ちゃん! 柔道やってただけあるね!」
「反省してるのあんた?」
「あ、はい……」
しゅんっ、と肩をすぼめる三郎。
一部始終を見ていたるしあに、ペコり……と一花が頭を下げる。
「うちの愚弟には、あとでもっときつく言っておきますので、どうかご容赦ください」
「うう~……お嬢ぅ~……ごめんねぇ~……」
るしあは俺の膝に顔を乗せている。
さらさらとした白い髪の毛をなでてやっている。
「ほら、るしあ。許してやりなさい」
「でも……」
不満げな声を上げるるしあに、俺は言う。
「悪気がなきゃ何してもいいわけではないが、少なくとも彼は、おまえに良いことがあって、それをお祝いしたいと思ったから開いてくれたんだよ。許してやれ」
「…………おかやが、そう言うなら」
むくり、とるしあが顔を上げる。
一花と三郎がぺこり、と頭を下げる。
「お嬢様、誠に申し訳ありません」
「すんませんでした、お嬢」
るしあは深く溜息をつく。
「ワタシも大人げなかった。すまない、宴に水を差してしまい」
るしあが小さく微笑む。
「ありがとう、三郎」
「いやいやぁ! よぉし! じゃお祝いじゃ! 祝いの席じゃぁあああああ!」
三郎が言うと黒服達が拍手する。
るしあがまた恥ずかしそうに照れていた。
★
食事会を終えて、家に帰ることになった。
その段階になり、俺はるしあの祖父、開田 高原さんに呼び出された。
駄々広い和室の最奥に高原さんが座っている。
「よく来たな岡谷。まあ座ると良い」
「失礼します」
呼び出されたのは十中八九るしあ関連だろう。
俺とるしあが関係を持ったのことは、保護者である高原さんの耳に入ったらしいからな。
きちんとこの人には自分の口で言っておくべきか。
「そういろいろ考え込まずともよい。わしは単におまえに礼が言いたいだけだ」
「礼、ですか?」
感謝されるようなことをしただろうか。
高原さんは居住まいを正すと、すっ……と深々と頭を下げる。
「孫に幸福を与えてくれたこと、心から感謝する」
高原さんが、開田グループ総帥が頭を下げている異常事態に、俺は戸惑うしかない。
幸福? 与えた……だろうか。
「なんと、自覚がないのか。そうか……岡谷よ。孫の境遇は聞いておるな?」
「ええ、両親を早くになくしているとか」
「そうだ。アレは強い女でな。両親が死んだ日すら人前では決して泣かなかった。あの日を境に、孫は開田の女として生きる覚悟をしてしまったのだ。未来をつんでしまったのだよ、わしは」
未来を摘む、それは生き方を強いたということだろう。
「あの子が不自由しないようたくさんのものを与えてやった。だがどうしても女としての幸福までも用意は出来なかった。そんな折おまえに出会った。あの子は……前とは見違えるくらいに、元気になったよ」
確かに今日も泣いたり笑ったりと、とても感情豊かだった。
俺が初めて出版社であの子に出会ったとき、どこか武士のような堅さと鋭さがあった。
でも今は普通の女の子として、笑っている気がする。
「あの子に普通の幸せを与えてくれて、本当に、本当に……ありがとう」
地面に頭がつくかとおもうくらいに下げてくる。
俺は本当にたいしたことをしていないと思っている。
「感謝されるようなことしてませんよ。俺は……あの子が好きだから、そばに居るだけです」
いつでも一生懸命な彼女に、俺は心引かれているのだ。
「これからも、ずっとあの子のそばに居たいと俺は思ってます」
今の仮の恋人関係がもし解消されてしまったとしても、俺は編集として、一個人として……あの子のそばにいてあげたい。
「それを聞いて安心した。岡谷、これからも末永く、孫をよろしく頼む」
この人は本当に孫のことが大事なのだろう。
俺みたいな若造に頭を下げてまで、頼み事するなんて。
「無論です」
「そうか、安心した。やはり岡谷は素晴らしいな。孫が見込んだだけはある」
うむ、と高原さんがうなずく。
「時に岡谷よ」
「なんでしょう」
「次期総帥に興味はないか?」
「グループの、ってことですか?」
「うむ。おまえが上に立ってくれればわしも安心して席を譲れる。おまえが仕事の出来る有能な人間であることはわしが知っている。その上で頼みたい」
……そんな、1編集者に、日本の中枢企業のトップが務まるか?
いや、無理だろう。
「丁重にお断りさせてもらいます。俺は、器じゃありません」
「ふふ……なんと、謙虚な男よ。軽率に答えぬその姿勢、誠見事なり」
にっ、と高原さんが笑う。
「わしはますますおまえが欲しくなった。是非とも後継者におまえを推薦したい」
「いやですから、俺には無理です」
「優秀な部下をつける。一花を補佐にしよう。次郎太もよく働いてくれる。なに、ノウハウはわしがたたき込もう。今すぐに出版社をやめてわしの義理の息子に……」
「お爺さま!」
すぱーん! とふすまが開いてるしあが入ってくる。
「なんだ流子よ?」
「おかやには、編集者としての仕事があります。それにワタシは小説家として、彼とスゴイ作品を作ると約束しております!」
胸を張って、るしあが言う。
「ワタシたちの夢の邪魔を、しないでもらいたい!」
るしあと立てた夢。
それは業界トップのラノベ作家、神作家カミマツ先生を凌駕するような作品を作ること。
今はまだ、遠く及ばない。
だがるしあと作った新作、【きみたび】は、必ず良いところまでいけるだろう。
コレは予想でしかないが、アニメ化は余裕で決まる気がする。
「なに、総帥の件は今すぐでなくともよい。まずは流子と岡谷の婚姻からかな? ん?」
「そっ!? それは……き、気が早いです!」
顔を赤くするるしあに、高原さんは微笑む。
「まあおまえたちの状況は理解している。だからまあ、わしも動くこととしよう」
「……余計なこと、しないですよね?」
「さて、どうかな」
老獪に笑う高原さんに、はぁ……とるしあが深く溜息をつく。
仲が良いな、この人ら。
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