90話 るしあ、幸せを得る
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岡谷 光彦の恋人、開田 るしあ。
るしあはふと目を覚ます。
気づけば部屋の中は薄暗くなっていた。
周囲を見渡す。
そこは自室の、大きなベッドの上だ。
るしあは自分がなにも身に付けてない、生まれたままの姿であること。
そして、隣にはいとしい彼がいることを見て、軽くパニックを起こす。
「な、なな、なんで!? あ……そうだ」
るしあは先ほどのことを思い出す。
開田の家にやってきた岡谷に、るしあは奇行ともとれることをした。
ギャルゲーをやって男心を理解したつもりのるしあが、暴走。
エロい格好で岡谷を誘惑したのだ。
しかし見当違いだったことが判明。
暴走したるしあだったが、岡谷が優しく受け止めてくれた。
そして思いが通じ合ったふたりは、抱き合って肌を重ねた次第。
「うう……今思い返すと、とても恥ずかしいことを……」
三郎が用意したギャルゲーを端に発する騒動。
ともすればドン引きしてもおかしくないのに、岡谷は自分を否定しなかった。
初めて、さっきは男に抱かれた。
正直言って自分が岡谷を悦ばせられたとはいいがたい。
終始彼にフォローしてもらった。
男女の営みとは、どちらが一方的に与えるのではないと理解していたのに。
初めてのるしあは何もできず、ただ岡谷から与えられる、温かくて優しい快楽に翻弄されることしかできなかった。
「……おかや」
彼に抱かれている間は、夢のような時間だった。
大好きなおかやを、とても近くに感じられた。
とても気持ちよくって、頭の中が真っ白になって、ずっと雲の上にいるような感覚でいた。
「知らなかった……こんなに気持ちがいいものだなんてな……」
るしあは開田の家に生まれ、両親を失ったときから、大人として振る舞うことをことを選んだ。
大人びていた。
だからセックスについても、知識として学んでいたし、どういうものか理解していた……つもりだった。
だがそれは間違いだった。
自分は何も知らなかったのだ。
大好きな人と結ばれることは、とても幸せなことであると。
愛する男に抱かれることは、こんなにも気持ちがいいことであると。
……自分が、思った以上に、スケベであることを。
「あんな、ケダモノみたいな声を、出してしまうなんて……うう……」
最初はたっぷりと体をほぐしてもらえたから、痛みはほとんど感じなかった。
そこから目くるめく快楽の渦に巻き込まれ、気づけば自分が岡谷の上にまたがって、彼を激しく求めていた。
一度で満足できず、二度、三度と……行為の継続を求めたのは、他でもないるしあだった。
岡谷はるしあの要求に全て答えてくれた。
……かなりふしだらな要求にも応えてくれたし、それに何より、たっぷりと優しく、愛してくれた。
それがうれしくって、気持ちよくって、彼との行為に没頭した。
「……なんだ、ワタシも、所詮は一匹の雌だったのだな」
自分は次世代を生むための母体だと、昔はそう思っていた。
セックスや恋にこがれる、同世代の女たちを、一歩引いたところから見ていた。
るしあにとって子作りとは儀式であり、それ以上の何物でもないはずだった。
でも、岡谷との行為は違った。特別だった。
愛のある、素敵な時間だった。
「……相手が、岡谷だったからかな。こんなにも、満ち足りた気持になれたのは」
そう、いつの間にか、かつて感じていた焦りはなくなっていた。
るしあがギャルゲーを通して勉強をしなくてはと思ったのは、彼を理解しなかったら、他の女たちに岡谷を取られてしまうと焦ったからだ。
でも焦る必要は何もなかった。
こうして愛してもらって、深いところでつながって、理解したから。
彼が自分を愛してくれてることに。
自分が、いかに彼を愛してるかを。
「……おかや、ワタシはもう、お前がいなくては生きてけない体になってしまったぞ。完全にな」
隣で眠る岡谷の胸板に、そっと頬を寄せる。
「お前が、ワタシを変えてくれたんだぞ」
生まれて初めて書いた原稿を、彼は面白いと言ってくれた。
ラノベ作家にしてくれたのも彼だし、自分を女にしてくれたのも、彼だ。
もう体も心も魂も、彼に全てささげると……決めていた。
彼のそばで生き、彼の子を産み、そして彼にみとってもらいながら死ぬ。
ああ、なんて素敵な人生だろうか。
「ありがとう、おかや……」
るしあはそうささやいて、岡谷の唇に、自分の唇を重ねる。
「大好き、大好きだ。ずっと……ワタシのそばにいて……ワタシの王子さま……」
岡谷はいつだって新しい世界を与えてくれた。
そう、物語に出てくる、王子様みたいだ。
大人であることを強要されていた彼女にとって、そんな夢見る乙女みたいなことを、口にする日はもうないと思っていた。
それでもいま彼女はこうして、大好きな彼に愛をささやいている。
愛する男と肌を重ねている。
まるで、普通の女の子のような、幸せな気分でいられている。
「……全部おまえのおかげだよ。ありがとう」
ふとるしあは、体のうずきを覚えた。
彼にまた抱かれたいと、彼のものを入れたいと思ったのだ。
衝動にかられて、るしあは岡谷の腹の上にまたがる。
これじゃあまるで夜這いじゃあないか。
「……るしあ?」
岡谷がふと目を覚ます。
かぁ~っと頬が赤くなる。
「あ、いや、これは、その……」
「いいよ、おいで」
「あっ♡」
岡谷がるしあを抱き寄せて、強い力で抱きしめてくれる。
くたぁ……と体から力が抜けた。
もう彼に何もかもをささげたい、彼の言うことを何でも聞きたい、そういう気分になる。
「わ、ワタシ……は、なんて、ハシタナイ、ことを」
「気にしなくていい。ほら」
るしあは躊躇した後、彼を抱きしめる。
そしてまた、甘い嬌声をあげる。
彼の愛に優しく包まれながら、るしあは思う。
生きていてよかったと。
神は自分を見捨てていなかったと。
愛する男とともに人生を歩むだけの、幸福は残されていたことに……。
るしあは深く、感謝するのだった。