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9話 浮気妻を双子JKとともに撃退



 俺は浮気してた妻のミサエと、喫茶店にいる。


 離婚届を書かせる目的で俺は来た。


 ミサエは復縁を求めてきたが……俺はそれを拒んだ。


「…………」


 ミサエはうつむいて、黙ったままだ。


 大汗をかいており、ファンデーションが崩れてきている。


 突きつけた離婚届を、彼女が受け取ろうとしない。


 俺はテーブルの上に用紙をおく。


「いつまで黙っているつもりだ? 俺は何を言われようと考えを変えないし、おまえが浮気したことは、覆しようがない事実だろ?」


 ミサエは……ハッ、とした表情になる。


 そして一瞬だけ顔を歪めると、こういった。


「あのねあなた……黙ってたんだけど、実はあの日……わたし、あの男に、無理矢理犯されたの」


「は……?」


 ……なにを、言い出すのだこいつは?


「無理矢理犯された、だと?」


 ミサエは妙にギラついた目をしながら言う。


「そうなのよぉ! 聞いて! あの日、あの男……木曽川きそがわが! 突然! 家に押し入ってきたのよぉ!」


 ミサエがヒートアップする。


「声がデカい。周りに迷惑だ。稚拙な嘘はやめろ」


「嘘じゃあないわよぉ! じゃあ逆に聞きますけどぉ! あなた、私が実際に木曽川と浮気していた場面を、見たのかしらぁ……!?」


 ……痛いところを突いてくる。


 確かに、俺はミサエと木曽川が実際に浮気している現場を見たわけじゃない。


 俺が帰ってきたとき、木曽川が寝室から出てきた。


 そして布団には、セックスのあとがあったというだけ。


 肌を重ねるまでの過程を、俺は知らない。

 妻が浮気したという現場を押さえたわけでもなければ、それを実証する物もないのだ。


「ほら見たことかぁ! ね、ないんでしょ? 私が浮気してたっていうのなら、その証拠持ってきなさいよ、証拠をよぉ!」


 ばんばんばん! とミサエが机を叩く。


 弱い部分を見つけたら、徹底的にそこをついてくる。


「証拠がないんじゃ別れられないわねぇ……!」


 ……陰湿なやつだ。

 さて……どうするか……と思っていた、そのときだ。


「……証拠なら、あります!」


 声のした方を見やる。

 そこには、黒髪の美少女が、真っ直ぐに俺たちを見ていた。


「な、菜々子ななこ……」


「あかりんもいるよー」


 金髪JKのあかりも、姉と一緒にこちらにやってくる。


「おまえら……何してるんだよこんなとこで」


「援軍だよ」

「……ごめんなさい。言いつけやぶって。でも……せんせえが心配だったから……」


 叱られた子供のように、菜々子ななこがうなだれる。


 だが怒るつもりは毛頭なかった。

 この子達の登場で、どこか心が軽くなった気がしたから。

 

「あ、あなたたち、誰なのよ!?」


 ミサエがヒステリックにそう叫ぶ。


「誰でもいーじゃん。あんたには関係ないでしょ、オバサン」


「お、おば……!」


「いい年したオバサンのくせに、夫を裏切って若い男と遊んでさ。そんで男に捨てられて、嘘までついて泣きついてくるとか……みっともないと思わない?」


 ミサエの表情が怒りで歪む。


「このガキ……! 言わせておけば……!」


 バッ、とミサエが手を振り上げる。


 パシッ……!


「あなた!?」「おかりん……」


 俺はミサエの手を掴んで止めていた。


「座れミサエ。子供に手を上げるなんて最低だぞ」


「あ、あんた! こ、こいつらの肩をもつわけ!? こいつらが好きなの!? 私より!?」


「好き嫌いの話じゃない。子供に暴力を振るう大人がどこにいる? お前のやっていることは分別のある大人の行動じゃない」


「ッ……!」


 ぎりっ、と歯がみするミサエ。


「大丈夫か? あかり」


「ふぇ……? う、うん……へーきだよ。その……あんがと」


 頬を赤らめて、ぽそりと、あかりがお礼を言う。


 別に俺は当たり前のことをしただけだ。


「それで、何しに来たおまえら?」


「……証拠もってきたんです」


「アタシら持ってるんだよ、切り札……このばか女が浮気してたって言う、証拠がね」


 あかりはポケットからスマホを取り出す。

 アルバムフォルダーをいじって、1枚の写真を俺たちに見せる。


「なっ!? そ、それはぁあああ!」


 スマホの画面には、俺の家の玄関先の様子が映っていた。


 ちょうど、部屋を出て奥の廊下から、写真を撮ったようだ。


 ドアを笑顔で開けるミサエと、軽薄な笑みを浮かべる木曽川の写真だ……。


「……私たち、せんせえが家に帰ってくるまで、マンションで待ってたんです。そしたら、この人がせんせえの部屋に入っていくところを、私たちは目撃したんです」


 そこを、激写したってわけか……。


「何が突然無理やりだよ。こんな笑顔で出迎えてさ」


「う、うそよ……! こんなの……合成写真よぉ……!」


 半狂乱となって、ミサエが叫ぶ。


 あかりのスマホを奪おうと、また手を上げてきた。


 俺はミサエの手を取って、関節技を極める。


「い、痛い……! なにすんのよ!」


「子供に手を上げるなって言ったばかりだろうが」


「放しなさいよぉおおおお! その写真をよこしなさいよぉおおおおお!」


 あかりはフンッ、と馬鹿にしたように鼻を鳴らす。


「合成写真? それ、この動画を見ても言えるのあんた……?」


 画面をスワイプする。


 今度は写真ではなく、動画が写っていた。

 笑顔のミサエが出てくる。


 木曽川に正面からハグして、玄関先で情熱的なキスをする……。


「やめてぇええええ! 見るなぁああああああ!」


 必死になって手をばたつかせ、あかりのスマホを奪い取ろうとする。


 だが、俺に阻まれて動けないミサエ。


 野犬のようにわめく様を見て、あかりがびくんっ、と体をすくませる。


 あかりをかばうように、姉の菜々子ななこが一歩前に出る。


「この証拠を持って、裁判をすることもできるんですよ。あなたは確実に負けます。その場合慰謝料の請求となりますけど、あなた、払えるんですか?」


「そ、それは……!」


「払えないですよね? お金ないんでしょう? 浮気男にも捨てられて、自業自得だから親にも頼れるわけないし……だからせんせえのもとへ帰ってきた。違いますか?」


「う……うぐぅうううう……」


「これ以上付きまとうならこの証拠を、せんせえに渡します。裁判の証人として立つ覚悟もできてます。これだけ確かな証拠が揃っている中で、まだ嘘つきますか?」


「…………」


 ミサエは、力なくうなだれた。


 完全に精気が抜け落ちた表情で、つぶやく。


「……ごめんなさい」


 ミサエは、死にそうな顔で俺を見上げながら言う。


「……浮気してごめんなさい。あなたを裏切って……ごめんなさい。あなたに、嘘ついて……ごめんなさい。全部、全部謝るからぁ……」


 だから、とミサエが言う。


「だからぁ……許してぇ~……ゆるしてください、おねがいしますぅ~……」


 ミサエが、惨めったらしく言う。


「私、貯金なんてないし……今までまともに働いたこともないし……実家にも……帰れない。絶対に理由を聞かれる。浮気したなんて言えるわけない……まして、それが原因で離婚したなんてなれば……親からも即捨てられちゃうのよぉ……」


 ねえ、とすがるように、ミサエが言う。


「それなのに、あなたは私のこと、捨てるのぉ?」


 ……こんな、こんな浅ましい女と俺は結婚していたのか。


 腹が立つを通り越して……あきれ果てた。

 だが……もう俺の決心は揺るがないのだ。


「ああ。俺はお前を捨てる。俺はお前が嫌いだ」


「…………」



 絶望の表情を浮かべるミサエ。


 実年齢は29なのに、倍くらいふけたように感じた。

 

「情に訴えようと、嘘で誤魔化そうとしても無駄だ。俺は考えをあらためない。もしこれ以上すがってくるなら、裁判を起こす。不利になるのはお前の方だ」


 俺はポケットから、スマホを取り出す。


「全部、やりとりは録音させてもらった。俺がここにきたから、今までずっとな」


 最近のスマホは便利で、ボイスメモも取れるのだ。


 俺はずっと声を録音していた。こうなる展開も予想してな。


「なるほど、さすがおかりん!」


「ろ、録音! そ、そんな! 卑怯よ! 盗聴よぉ!」


「お前は嘘つきだからな、こうして記録を残して何が悪い。それに卑怯だと? ……先に裏切ったのはおまえだろうが」


 俺は証拠を手に、妻に言う。


「負けるのがわかってる裁判を起こされるか、ここで離婚するか……どっちが賢いか程度は、理解できるな?」


 ミサエは俺の言葉を聞いて……がくりと肩を落とす。


 やがて……小さくうなずいた。


 俺が取り出したペンを手に持って、汚い字で……離婚届にサインし、捺印する。


 それを確認してすぐに、俺は伝票を持って立ち上がった。


「飲み物代くらいは払ってやる。だが、お前とはこれきりだ。じゃあなミサエ」


 俺はその場を後にしようとする。


「ま、まって……あなた……」


 最後の最後に、何を言い出すのだろうか……。


「……財産、わけてよ」


「「「は……?」」」


 ……俺も、双子も、絶句した。


「夫婦の、共有財産でしょ? マンションも。家具も……」


「あ、あんたねえ……!」


 俺はあかりを止める。


「マンションは俺の名義で、俺が買ったものだ。家具も全部俺が買った。おまえのもんは全部俺が買い与えたもんだ。お前が自分のものと主張できる権利はない」


「う、ぐ……」


「だがお前の私物は全部お前にくれてやるよ。服とか化粧品とか、全部お前の家に宅配便で送ってやる。それで手打ちだ」


 俺にとって、妻の痕跡のあるものなんて、一つたりとも手元に残したくなかった。


 だから、ちょうどいい。

 全部処分してやろう。


「最後の最後に……世話になった夫に金をせびるとか……どんだけ人間のくずなのよあんた」


 吐き捨てるように、あかりが言う。


「……同じ女として、あなたを軽蔑します。もう二度と、せんせえに近寄らないで」


 静かなる怒りを、菜々子ななこがぶつける。


 ミサエは何も言わなかった。


 うつむいて、呆けたようにその場から動かない。


 ……俺はもう、振り返らなかった。


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[一言] さっきも言ったようにお前等の体液の付いたティッシュと護謨は証拠として弁護士に預けてDNA鑑定に出した俺には弁護士のこの二人の教え子と労働基準局の担当官も付いてるのでバックアップは十分だよ?
[一言] さっきも言ったようにお前等の退役の付いたティッシュと護謨は証拠として弁護士に預けてDNA鑑定に出した俺には弁護士のこの二人の教え子と労働基準局の担当官も付いてるのでバックアップは十分だよ?
[気になる点] 妻であるミサエの財産分与の主張は条件によっては正当な権利だと思う。これは夫である主人公と妻であるミサエが結婚してから購入したり貯蓄したりしたものかによって決まる。つまり、結婚前の財産で…
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