89話 るしあの悩み、初めての・・・
俺はラノベ作家の開田るしあに呼び出されていた。
待っていたのは、猫耳ミニスカメイド服のるしあだった。
話は数十分後。
彼女の寝室にて。
「大丈夫か、るしあ」
「ああ……すまない、おかや。冷静になったよ」
さっきまで顔を真っ赤にして悶えていたのだが、今ではおとなしくしている。
「三郎君は大丈夫なのか?」
「おそらくは……」
るしあの怒りが爆発し、それが彼の姉である一花に伝わった。
一花は憤怒の形相を浮かべ、三郎くんの襟首をつかんで消えた。
……その後彼の姿は見なかった。
遠くで悲鳴が聞こえたが、様子を見に行けないでいた。
「それで、るしあ。いったい全体、何があったんだ? 急にあんな格好をして……」
普段のるしあらしからぬ行動だった。
「創作に行き詰まりを感じてるのか?」
「か、勘違いしないでくれ! 小説に関することじゃないんだ。そっちは、おまえのおかげで、すごい順調だしな」
小説の悩みじゃないのなら、なんだったのだろうか?
「……その、笑わないで聞いてくれるか?」
「ああ、聞くよ。教えてくれ」
るしあはホッと小さく安どの吐息をつく。
ウサギのような赤い瞳が、まっすぐに俺の目を捉える。
「ワタシは、おまえを理解したかったのだ」
るしあが語ったのは、ここ最近の、俺に対する悩みだった。
俺が複数の恋人とつきあっていることに疑問を覚えたらしい。
いわゆるハーレムという形をどうして男性が好むだろうか、と。
真面目なるしあは三郎くんに相談してみたらしい。
「……人選ミスってないか?」
「……ワタシもそう思った」
彼のアドバイスでエロゲーをやってみることにしたらしい。
たくさんのゲームをプレイし、今に至るらしい。
「エロゲーのおかげで、ワタシはハーレム願望というものを理解した。三郎には感謝してるよ。でも……」
「まだ何か、気がかりなことがあるのか?」
ああ、とるしあがうなずく。
ちら、と俺を見上げて、口を閉ざす。
たぶんいうか迷っているのだろう。
ほどなくして、彼女が小さくつぶやく。
「……男の気持ちを理解できても、肝心の、おまえの気持ちがわからなくなってな」
「俺の、気持ち?」
るしあが重々しくうなずく。
「そもそもワタシがハーレム願望を理解しようとしたのは、おかや、おまえに好かれるためだ。ワタシはおまえを理解したい。お前に、ワタシを好きになってもらいたいんだ」
けど、とるしあが続ける。
「ワタシはこのとおり、堅苦しく、茶目っ気もない。女らしいさという点においては、あかりたちに完全に負けている」
るしあは幼いころ両親を失い、早くに、大人になる必要があった。
ゆえに、年に似合わない、しっかりとした立ち居振る舞いをする。
簡単に言えば子供らしくない。
そこを気にしてるのだろう。
「エロゲーのキャラは実に多種多様だ。だが共通しているのは、みなかわいらしいといううこと。男を喜ばせるようなキャラ造形をしている。一方でワタシは、なんてかわいげがないのだろうと」
「だから、あんなメイド姿に?」
「ああ。おまえが喜んでくれるかと思ったんだが……」
……そうか。
そういう悩みを彼女は抱えていたのか。
「ワタシがお前を理解できても、お前の好みの女でなければ意味がないんだ。ワタシは……おまえに好かれたい。愛してほしい。……どうすればいいかなぁ?」
るしあが弱々しくつぶやく。
その瞳は不安で揺れていた。
彼女がここまで悩んでいたのに、気づいてやれないなんて。まったく、何やってるんだ、俺は。
彼女の寂しそうな瞳を見ていると、庇護欲にかられる。
俺はるしあの細くて小さな体を抱きしめる。
「ごめんな、るしあ。不安にさせちゃって。……でもな、大丈夫だから」
「だいじょうぶ……?」
「ああ。……流子」
彼女の本名を俺は呼ぶ。
「俺はおまえが好きだよ。おまえの、そのままが好きだ」
彼女が目をむいている。
意外だったのだろうか。いや、そうだろう。今までこういうことを、るしあに言ってこなかった俺が悪かった。
俺は彼女を長く作家として見ていた。接していた。
でも恋人になった後も、以前と同じ接し方をしていたと思う。
だから不安になってもしょうがないことなんだ。
「俺は今の流子が好きだよ。真面目で、どんなことにも一生懸命で、頑張ってる姿がとてもすてきだ」
るしあは眼涙を浮かべて、か細い声で尋ねてくる。
「……ほんとか?」
「ああ、本当だ」
「……ワタシは、ぜんぜん可愛げがないぞ? しゃべり方だって、男みたいだ」
「そんなことない。流子は可愛いよ。男なんて思ってない」
ぐすぐす……とるしあが鼻を鳴らす。
泣いてる彼女の体を、強く抱きしめる。
向こうもぎゅっと抱き返してくる。
暖かいからだ。甘い匂い。柔らかな乳房。
性格も含めて彼女のすべてが可愛らしい。
「……ワタシは、ありのままで良かったのだな」
「ああ。そのままの流子が素敵なんだ」
るしあが顔をあげる。晴れ晴れとした表情をしていた。
よかった、彼女の憂いを払うことができて。
「……ワタシの努力は無駄だったのだろうか?」
「いや、そんなことないだろ。作品に生かせばいい」
るしあはすねたように唇をとがらせる。
「……作品じゃなくて、おまえに還元したい。せっかく恥ずかしいのを我慢して、こんな、恰好をしたのに」
るしあはまだエロ猫耳メイド姿のままだ。
「かわいいぞ」
「あ、ありがとう……で、でも! ワタシとしては、その……おかやに、え、えっちな気分になってほしくって、だから……」
「コスプレエッチみたいな?」
かぁ、とるしあが顔を赤くしてうつむいてしまう。
耳の先、首筋までも真っ赤にして照れてる彼女が、かわいらしくてしょうがない。
「なぁ……おかや。ワタシでは、おまえの欲情をかりたてることは、できないかな?」
エロい気分になるかってことだろう。
正直少し前までは、無理だった。
でも今こうして俺は彼女と、恋人としてここにいる。
彼女の思いを知った。
今なら……俺は、彼女を女として見ることができる。
「……おかや。……抱いてくれないか?」
るしあがうるんだ目で俺を見上げてくる。
はぁ、はぁ、と熱い吐息をるしあが漏らす。
体を上下に動かし、熱を出したみたいに赤くなっている。
「……ワタシはおまえが好きだ。愛してる。だから……だから、欲しいんだ。おまえの全てが」
「全て……」
「今のおまえも、お前との未来も、全部……」
子供ってことを言いたいのだろう。
るしあが物欲しげに俺を見つめてくる。
「わかった」
るしあが目を表情をほころばせる。
サクランボみたいなその唇に、俺は自分の唇を重ねる。
俺はるしあをベッドに押し倒す。
彼女は一切抵抗しない。
小さな体をくねらせ、唇から甘い嬌声をもらす。
俺は彼女に覆いかぶさり、そして……。
俺たちはこの日、初めて、より深くつながったのだった。
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