88話 るしあがご奉仕するニャン★
あけましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いします。
8月のある日、俺は恋人である、開田 るしあの家にお呼ばれしていた。
『おかや。おまえに見せたいものがあるんだ。うちに来てくれないだろうか……?』
嫌に真剣なトーンだった。
新しい原稿だろうか。
それとも、【きみたび】の改稿バージョンとか?
いずれにしろ、真面目な彼女からの呼び出しだ。
何か真剣な話し合いなのだろう。
それこそ、外じゃできないくらいの。
「いくか」
俺がいるのは開田家の凄い門の前だ。
チャイムを鳴らすと、ぬぅ……っと巨漢が現れる。
サングラスに黒服、そして服の上からでもわかるくらの、ムキムキの体つき。
「やーやー、岡谷さんどうもどうも」
「えっと……三郎くん、でいいんだっけ?」
「そうそう! よく兄貴……次郎太兄ちゃんと間違われるけど、おれ三郎っすよぉ!」
三郎くんとは夏の、みんなで軽井沢にデートしたときに世話になった。
「今日はどうしたんです?」
「るしあ……流子さんに呼び出されてな」
「ははーん。なるほど……ついに覚悟を決めたってことだな!」
にやりと笑って三郎くんがうなずく。
何の覚悟だろうか。
「ささ、どうぞどうぞ! お嬢が待ってますぜー!」
俺は三郎くんに案内してもらい、屋敷の中へと入る。
長い廊下。立派な庭園を通り過ぎて、奥の部屋へと通される。
まえにここへ来たことがある。
るしあの部屋のひとつだ。
いくつか部屋を持ってるらしい。
「岡谷さん」
「なんだ?」
「ここ……防音なんで!」
ぐっ、と三郎くんが親指を立てる。
「はぁ……」
「思う存分やっちゃってください!」
とてもウキウキしながら、三郎くんが去って行った。
防音だからなんなのだろうか……。
「るしあ。来たぞ」
『おかやか。入って良いぞ』
俺はふすまを開ける。
そこには……。
「おかえりにゃさいませ★ ご主人様★」
ピシャッ!
俺はふすまを閉じて、深呼吸をする。
……あり得ないものが、目の前に居た気がする。
「疲れてるのかな……。猫耳をつけて、えっちなメイド服を着た、るしあがいるなんて……」
そう、ありえない。
あの古風なお嬢様がだぞ?
猫耳? メイド服? しかも結構扇情的だった……ありえん。
「るしあ。俺だ。入るぞ」
『うむ。入ってくれ』
俺はふすまを開ける……。
「お帰りにゃさい★ お兄ちゃん様★」
目を閉じて……空を仰ぎ、溜息をつく。
……るしあ、だな。
うん。るしあだ。
しかもさっき見たのと同じ格好をしている。
猫耳をつけたミニスカメイド姿のるしあだ。
「にゃにゃ? 呼び方はやっぱりご主人様の方がいいにゃー?」
「……いや、別にそういうわけじゃ……」
「旦那さまのほうが好みかにゃ?」
「いや、なんでもいい……」
「じゃ、ご主人様で★」
どうなってる?
るしあはこんな変な語尾つけるような子じゃない。
メイド服なんて着るわけないし……。
るしあのそっくりさん?
いや、一人っ子って聞いたことがある……。
「ご主人様、おかえりにゃさい。座ってくださいにゃん♡」
「あ、ああ……」
わからん、なんだ?
これは何か、試されてるのか?
編集者としての、対応を見てるのか?
わ、わからない……わからねば。
部屋の中も結構様変わりしていた。
前は純和風な感じだった。
しかし今はファンシーな内装になっている。
ヨーロッパ風というか。
アニメ調って言えばいいんだろうか。
とにかく、和風だった以前の部屋とはガラッと変わっている。
部屋の中にはキングサイズのベッド、そして革張りのソファがあった。
俺はソファに座らせられる。
「ご主人様、おなか空いてるにゃ? それとも、飲み物がいいにゃ?」
「あ、いやおかまいなく……」
「それともぉ~……わ・た・し♡ ですかにゃー♡」
……これは、どの程度マジでやってるんだろうか。
頭でもぶつけたんだろうか……?
それともわたし、なんて前のるしあがするわけないし……。
「わたしをご所望ですかにゃ?」
「飲み物! 飲み物でお願いする……」
「かしこまりましたにゃー♡」
るしあが部屋から出て行く。
がっ……!
「にゃっ!」
こてんっ、とるしあが倒れる。
「お、おい大丈夫か……?」
るしあがお尻をこちらに突き出すようなポーズを取る。
……パンツが丸見えだった。
「やってしまったにゃん★ そそっかしくってごめんにゃさいにゃー★」
「あ、ああ……」
「にゃっ! パンツが見えてるっ。んも~。ご主人様の、えっちぃ~♡」
「…………」
「おコーヒーいれてくるにゃーん♡」
ぴしゃっ、とふすまを閉じる。
俺は一人頭を抱える。
わ、わからん。
本当に今日のるしあは、本当にどうしてしまったのだろうか……。
冗談でやってるのか?
いいや、冗談を言うタイプじゃないんだが……。
なんだ? どうしたんだ?
頭打ったのか? それともるしあのそっくりさんなのか?
いやでもあんなアルビノな美少女が二人といるとは思えないし……。
「お待たせにゃんにゃーん♡」
笑顔のるしあが帰ってくる。
……そう、笑っている。
前は微笑むことが多かった。
こんなふうに、口を開けて、明るい笑顔を向けることはなかった。
新鮮であったし……かわいかった。
「コーヒーお持ちしたにゃん♡」
「あ、ありがとう……」
……それにしたって、何があったんだろう。
こんな180度変わってしまうことなんて、あるのだろうか。
俺の隣にるしあが座る。
「お砂糖とミルクはいるにゃん?」
「じゃあ……ミルクだけ」
「かしこま★」
るしあは俺の隣に座る。
ミルクのポーションをコーヒーに入れて、スプーンでかき混ぜる。
赤い目を俺に向けて、のぞき込むようにして、くるくるとスプーンを回す。
「なに、やってるんだ……?」
「オプションですにゃー♡」
「お、オプション……?」
「そうですにゃ! メイドさんによる、相手の目を見てかき混ぜるオプションですにゃ★」
……メイドを曲解してないか、るしあよ?
メイド喫茶のメイドだぞそれは……。
でも、大きくてつぶらな瞳に至近距離で見られていると、思わず吸い込まれそうになる。
本当に綺麗だなこの子……。
「はいできあがりですにゃ♡ にゃあっとぉ! 手がすべったにゃー!」
ぱしゃっ!
「あっちぃ! ……くない?」
そこまで熱くない。
むしろ冷たい……あ、そうかアイスコーヒーか。
「にゃにゃっ! 申し訳ないにゃ! すぐに拭くにゃ……!」
おしぼりを手に取って、俺のズボンを……というか、股間のあたりをふこうとする。
「だい、大丈夫だから。自分でやるから」
「そう……ですかにゃ」
すごい残念そうなるしあ。
そんな、しおらしい態度を急に取られると……戸惑う。
「ごめんにゃさい……るしあは悪い猫にゃん」
るしあが立ち上がって、ベッドの方へと向かう。
ベッドの上に乗ると、しゅる……とメイド服を脱ぎだした。
「え、え? ええ?」
俺が止めるまもなく、るしあが猫耳と猫尻尾をつけた状態で……裸をさらす。
「っ!」
思わず、ごくりと生唾を飲む。
体の起伏には乏しい物の、雪のように真っ白な肌。
そして、毛がひとつもない局部。
汚れなき無垢なる裸身を向けて、顔を真っ赤にしたるしあが、ベッドに四つん這いになってお尻を向ける。
「るしあに……えっちなおしおき、おねがいしますにゃ……」
ふりふり、とるしあが腰をいやらしく降る。
「子猫をいっぱい孕ませて……」
俺はるしあのそばまでやってくる。
「ハシタナイ格好は、やめなさい」
俺は彼女に上着を掛けてあげる。
るしあはポカン、とした表情になる。
「え? お、おかや……ワタシ何か間違ったかな?」
「全部、すべて、かな」
でも……とるしあが体を起こして、無垢なる瞳を俺に向ける。
「殿方は、えっちな猫耳メイドに、えっちなご奉仕されたいのだろう?」
……どうやら本当にそう思っている様子だ。
「情報ソースは?」
「エロゲーだ!」
「え、エロゲーか……」
「うむ!」
……そうか、このわざとらしい演技。
エロゲーをやって勉強したのか。
「それと三郎が、これが完璧だって。……だめ、だったかな? かわいく……なかったか?」
不安げに俺を見上げるるしあ。
「いや、かわいかったよ。そこは素直にそう思った」
「! そうかっ!」
「ただ……な。ちょっと振り幅が極端すぎて、俺じゃついてけなかった」
「そ、そうか……」
しゅん、とるしあが肩を落とす。
俺は彼女を抱きしめる。
「あっ♡」
「でも本当に可愛かったぞ。正直……くらっと来た」
「そ、そうか……頑張って良かったよ……」
細くて小さな体を抱きしめる。
きゅっ、と控えめに抱き返してくるるしあ。
これくらいが、ちょうど良いんだ。俺にとっては。
「なんか……視線を感じるな」
「奇遇だなおかや、ワタシもだ」
くる、と俺たちは振り返る。
ふすまが少し開いていて、そこからハンディタイプのビデオがのぞいていた。
「三郎ぉおおおおおおおおおおおお!」
るしあが顔を真っ赤にして立ち上がる。
「あ、お嬢。おかまいなく! これ、仕事なんで! 高原さまに成長の記録を取れって言われててさ! げふんっ!」
怒りの表情を浮かべたるしあが、枕を思い切り投げつけたのだった。
……とりあえず、何があったのか事情を聞かないとな。
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