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81話 一花とジェットコースター



 夏休み終盤、俺は一花と一緒に、後楽園遊園地へとデートに着ていた。


「わぁ……! すごい……懐かしい……!」


 遊園地に到着して、一花が歓声を上げる。


「懐かしいって、一花はここに来たことがあるのか?」


「ええ。子供の頃に。家族7人みんなで」


 7人って大所帯だな。

 母と父を入れて、一花には5人の兄妹がいるってことか。


「まさか彼氏とここにデートに来れるなんて……夢みたい」


 一花が目元を緩ませて、遊園地の中を見やる。


 子供の頃を思い出しているのだろうか。


「じゃあ、いろいろ教えてくれよ。おすすめとかさ」


「わかったわ」


 一花はマップを広げて、あれこれと教えてくれる。


 ここは都内にある遊園地だ。

 壁がぐるりと一周した円構造となっている。

 なかにはジェットコースターや、観覧車、そしてお化け屋敷がある。


 横に広いというより、縦に長い感じといえばいいだろうか。


「なるほど。まずはどっから行こうか」


 一花が俺を見て微笑む。


「ふたりで相談して決めましょ」


 何かを決めるとき、あかりの場合だと率先して何かをしたいといってくる。


 一花は俺と一緒に考えるのが好きみたいだ。

 協議の結果、一番思い入れのあるジェットコースターからと言うことになった。


 乗り場は3階にあるらしい。


「遊園地が縦に長いのって珍しいな」


「都内だからね。場所がないのよ」


 円形の壁のなかにある階段を上って、俺たちはジェットコースター乗り場へと到着する。

「あ、ちょっと待ってて。荷物預けてくるから」


 一花は近くのコインロッカーへと向かう。

 手荷物を、そのなかに入れて、戻ってきた。

「お待たせっ」

「何してたんだ?」


「ふふっ……♡ 後でのお楽しみよ」


 なんだろうか、凄く楽しみである。

 ……まあ多分、弁当なんだろうとは、形から察していた。


 それを指摘するのは、せっかく一花がサプライズを演出しようとしてくれているのに、台無しにする行為だ。


 スルーしておこう。


「さて、じゃあジェットコースター乗るか」


「ええ♡」


 俺たちは列に並ぶ。

 夏休みとはいえ平日なので、そこまでは並ばない。


 が、完全にガラガラというわけでもない。


「休日はめちゃくちゃ混んでるのよ、このジェットコースター」


「それだけ人気があるってことか」


「ええ。スリルがあって楽しいもの♡」


 俺と一花は並んでいる間に、他愛ない話をする。


「おまえも大変だな。ボディガードの仕事。土日は基本仕事だもんな」


「ええ。まあでも何人かで回してるし、シフトも融通が結構効くからね。ホワイトな職場よ」


「弟の……三郎くんも一花と同じなんだっけか」


「ええ。うちは基本、開田家に代々務めてるから。次郎太だけは【分家】のお嬢様をボディガード……というよりお手伝いさんしてるけどね」


「分家、かぁ」


 改めて、開田家は凄いとこなんだな。


「7人家族っていうと、兄妹は5人なのか」


「そう。アタシが一番上で、次郎太、三郎。でちょっと歳の離れた妹がふたり。四葉と五和。上の妹……四葉はみどり湖ちゃんと同じ学校よ」


「え、アルピコ?」


「そう。しかもバスケ部」


 アルピコとは、都内にあるバスケの名門校だ。

 

 妹はそこでレギュラーやっている。


「下の妹……五和も、来年はアルピコに通う予定。うちみんなスポーツ得意なの」


「世間は……狭いな」


 そんな風に他愛ない話をしていると、俺たちの順番が回ってきた。


 コースターが一周して戻ってくる。

 前の客が降りてから、俺たちは案内された。

 一番前の席に座る。


「らっきーね! 一番前に座れるなんてっ」


 前に遮蔽物がないから、最も怖い場所だろうに。


 一花はウキウキとしていた。


「あ、ごめん。アタシだけはしゃいじゃって。もしかして……ジェットコースター苦手?」


「ん。まあ普通だな。気使わなくて良いよ」


「そう♡ 良かった」


 しばらくすると、安全バーが降りる。

 かたかた……と音を立てながら、コースターが……上っていく。


 出てすぐに、結構な急な坂があった。

 コースターはほぼ垂直になって上っていく。


「け、結構上るな……」


「ええっ、そうなのよっ。観覧車とほぼ同じ高さから降りてねっ。東京ドームを見下ろせるのっ」


 一花が弾んだ声で言う。

 頬が紅潮している。たぶん凄い興奮しているんだろう。


 かたんかたんかたん……とコースターが上っていく。


 わ、ま、マジか……こんな高さからおりるのか?

 

 都内の高いビルを、普通に見下ろせてる。


 や、やばいんじゃないか? しかも……レールはこっからほぼ真下に降りてるし……。


 きゅっ、と一花が優しく、俺の手を包んでくれる。


「大丈夫よ光彦君。何があっても、アタシが守るわ」


 一花が力強く言う。

 彼女の手は小さく柔らかい。

 でも……握られていると、安心感が伝わってくる。


 普段人を守る仕事についてるからかな。


「ありがとう」


 俺は一花と手を握り返す。

 彼女はうれしそうに笑うと、指を絡ませてきて、ぎゅっ、と強く握る。


 そして……。


 コースターは、ほぼ垂直に……落ちる。


 ごぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!


「ひゃっほぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 一花の長いポニーテールが、ばたばたばた! とはためく。


「ちょっ!? は、速くないか!?」


 垂直に落ちてく間、浮遊感があった。

 ケツが浮く。


 しかもとても速い。

 目があいてるだけで、痛い。


 眼鏡かけてたら吹っ飛ぶぞこれ!


「えー!? 楽しいって!? あたしもー!」


 風切り音で一花の声が聞こえない。

 だが楽しそうだ……って見てる余裕がない!


 コースターは上下にアップダウンしたり、捻ったりして、ものすごい早さで遊園地内を一周する。


 その間一花はずっと……。


「速い速ぁああああああああああい!」


 とか。


「ふぅううううううううううううう!」


 とか。


「いえぇえええええええええええええ!」



 と、コースターが落ちるたびに、楽しそうに笑っていた。


 普段は落ち着いている彼女も、こういう場面でははしゃぐらしい。


 ほどなくして……コースターが元の場所に戻ってきた。


「あー! もうっ、最高だったわ!」


「そ、そうだな……」


 一花がとんっ、とコースターから降りる。


 俺に手を伸ばしてくる。


「はい、光彦君」


「お、おう……さんきゅー」


 俺は彼女の手を引いて、コースターから降りる。


 結構体フラついている。


 一花は俺の隣に立ち、支えてくれた。


「ゆっくり、階段おりましょ」

「ありがとうな」


 少しゆっくりと時間をかけて、俺たちはコースター乗り場から離れる。


「あ、見て光彦君! あれ!」

「写真……?」


 位置口付近に、モニターがあった。


 コースターの写真が何枚も張ってある。


「途中にカメラがあったじゃない? 撮られてたのよ」


「全然気づかなかった……」


 俺たちが写ってる写真が、最新のものとして、モニターに映し出されている。


 一花はカメラガン見して、ピースまでしていた。


 俺は前を向いてそれどころじゃなかった。


「記念に買うか」

「そうねっ!」


 俺は2人分の写真を購入。

 

 一花に渡すと、うれしそうに笑って、胸に抱く。


「ありがとう。大事にするわねっ」

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― 新着の感想 ―
[一言] 早く結婚決めて! 小説は続いて〜
[一言] ジェットコースターは、一番後ろが怖いらしいです。
2021/12/04 20:05 退会済み
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