77話 デートを終えて
俺とJK妹、あかりは映画を見た後、適当にぶらついて過ごした。
何かが起きたわけじゃない。
ただふたりで、同じものをみたり、食べたりした。
「はー……余はまんぞくじゃー!」
あかりがぐいっとのびをする。
俺たちがいるのは、ショッピングモールの最上段。
ここからは町並みがよく見える。
8月の中旬。
夕方になってもまだまだ熱い。
あかりはベンチに座って、ぐいーっと背伸びする。
「もー、めっちゃたのしかったー! 充実のデートってかんじ~!」
「こんなので良かったのか?」
何もしてないけど。
「こんなんでいいの。アタシはもう、これでしばらくは24時間戦えますよっ」
あかりはパタパタと足を動かし、笑顔で言う。
終始上機嫌だったし、多分本心で言ってくれてるのだろう。
「おかりんは、どうだった?」
「ああ……楽しかったよ。充実してたな」
昼前に集合して、あっという間に夕方だ。
本当に何か特にあったわけでもないのに、気づけば1日が終わっている。
ミサエの時にはなかった感覚だ。
「おかりんおかりん。デートの締めですねー♡」
にこにこーっ、とあかりが笑っている。
まあ……なんとなく、何を期待してるのかはわかる。
「るしあんにしたように、あたしにも、熱いのほしいな~」
「ごほっ……!」
るしあにも、確かにこの間キスをした。
それと同じものが欲しいと。
「なになに、もしかしてるしあんとか、一花ちゃんに悪いって思ってる?」
「そりゃまあ……そうだろ」
菜々子にも、みどり湖にもだ。
「だいじょぶだいじょぶ。決めたじゃん。恋人契約。恋人である間は、お互い邪魔しないって」
俺はひょんなことから、5人の美女美少女と仮の恋人関係を結んでいる。
この関係が続いてる限りは、誰とどうなってもいい、という取り決めだ。
とはいえ……いや、あんまりぐずると、こいつに悪いか。
「ん……♡」
あかりが、目を閉じて俺に近づく。
俺は彼女の細い肩を抱いて、唇を重ねる。
あかりは前のような熱烈なキスをしてこない。
人前ってことを気にしてるのか、あるいは……。
「あかりんとの激しいちゅー、ほしいのかにゃ~♡」
「……やっぱり、おまえの企みか」
「にひ~♡ あったりまえじゃん! あんまガツガツいかないほうが、欲しいって思うでしょ~?」
まったくたいした小悪魔だ。
キスを終えた俺たちは、並んで夕焼けを見やる。
「なんか前より普通にキスしてくれたね」
あかりがちらっと俺を見上げて言う。
確かに、ためらわなくなってた気がする。
「これはあかりんのちょーきょーのおかげかにゃ~♡」
「まあ……おまえと出会って、いろいろあったからな」
ミサエに浮気されて、家を出て行かれて……。
双子をあずかることになって、俺のことを好きだった女性がたくさん現れて……。
イベントが盛りだくさんすぎた。
だがあれからまだ1ヶ月と少ししかたってないのだから、驚きだ。
「濃い1ヶ月だったよ」
「何言ってるの、まだまだ、これからもイベント盛りだくさんじゃない」
「たとえば?」
「出産イベントとか♡」
俺はあかりの額をつつく。
「おまえの親に挨拶に行くイベントが残ってるだろ」
あかりの両親は、子供を残してどこかへいってしまった。
だがいずれは、そこと向き合わないといけない。
本当に、俺たちがこれ以上の関係を望むのならば。
「…………」
あかりの表情に影が差す。
この子達にとって、親があまり好ましくない存在であることは、なんとなく察しがついてる。
「それでも……な」
「うん……そうでも、だよね」
あかりの震える肩を俺は抱き寄せる。
彼女は俺の肩にこてんと頭を乗せてきた。
「前は……嫌だし、今も……駄目だけど。おかりんがいてくれるなら……頑張れる、かな」
彼女が小さく笑う。それは本心からの言葉であって欲しい。
俺がこの子の幸せを願うこと、そして、この子の支えになりたいと思うことは……事実だから。
「さて、かえりましょうかな!」
「そうだな」
俺たちは並んで歩き出す。
あかりが俺の腕にからみついて、ぎゅっとハグしてくる。
前みたいに驚くことはない。
俺は自然体で居られる。
以前は女子高生との距離感を、つかめず戸惑っていた感がある。
だが今は……少しわかる。
「おかりんが少しずつあかりちゃんに、ほだされてますなぁ」
「……そこは否定しないよ」
「嫌です?」
「いいや……そんなことないよ」
「それは良かった♡」
あかりが屈託なく笑う。
彼女の笑顔は本当に元気をもらえる。
俺はもっと……この子の笑顔を見ていたいと思う。
「じゃー、次はベッドインだね♡」
「調子のんな」
つん、とあかりの額をつつくと、彼女が笑う。
何をしても笑ってくれる彼女が、本当に素敵だなと……。
俺は、デートを通じて、改めてそう思ったのだった。
これにて6章終了です。
7章に続きます!
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