72話 JKによる奪い合い
俺はるしあの元で用事を済ませたあと、そのまま直帰した。
「……あ、せんせえ♡ おかりなさい♡」
JK姉、菜々子が、子犬のチョビを抱きかかえながらやってくる。
「ただいま、菜々子。ただいまチョビ」
子犬の頭をなでると、気持ちよさそうに目を閉じる。
「……じー」
菜々子が黒い瞳で、俺を凝視してくる。
「……じー」
……どうやら自分にも、ということらしい。
「よしよし」
「……えへー♡」
俺は菜々子とともリビングへと戻ってくる。
「おかりんっ。おかーえり♡」
「……ん。お兄、おかえり」
エプロン姿のあかり、妹のみどり湖が、帰りを待っていた。
「すぐご飯あたためるね~」
「あ、ああ……」
先ほどるしあと口づけを交わした関係もあってか、ふたりを見るのが気まずいな……。
と思っていると……。
ぴくっ、とあかりが立ち止まる。
ずんずん、と俺の元へやってくる。
「ど、どうした……?」
あかりが俺の胸板に鼻をこすりつけて、すんすん、と鼻を鳴らす。
な、なんだ……?
「るしあん?」
なんであかりは、るしあと会っていたのを知ってるんだ……?
「やっぱりかー……なるほどねー……♡」
ものすごい笑顔になるあかり。
……俺は学んだ。
あかりは、キレると笑う。正直に言おう。
「そうだよ、るしあと会ってきた」
「なるほど、とりあえずご飯にしよっか♡ ……裁判は後で」
「あ、ああ……」
あかりはキッチンへと向かう。
俺は着替えて戻ってくる。
椅子に座る菜々子とみどり湖。
俺は料理を待ちながら、あかりのご機嫌をうかがう。
背中からは特に何も感じられない……。
だがさっきの怒りのオーラはとてつもないものだった。
「せんせえ、あかり、どうして怒ってるんでしょう?」
菜々子が俺に問うてくる。
「……え、あかり怒ってるの?」
みどり湖が目を丸くして菜々子に尋ねる。
「うん。とっても……」
姉にはわかるのだろう、妹の機嫌が。
「おっまたせー」
ほどなくして、あかりがテーブルの上に料理をのせる。
どんっ! と。
まあ……豪勢だった。
「……ひつまぶしじゃん」
「夏だからね、暑いし、体力つけないといけないかなーって」
ちゃんと4人分が用意されてる。
菜々子たち、自分、そして俺の前にも、ちゃんとおく。
よかった飯抜きになるかと思った……
「んじゃ食べよっか♡」
「「「いただいまーす!」」」
俺は丼を手に取って、ひつまぶしを流し込む。
あいかわらず……美味い。
「最初は普通に、次は山椒かけて、最後にだし汁かけてたべてねー」
「……ほんと、料理スキルすごいよねあかりって」
感心しながらみどり湖がガツガツと食べる。
「まねー。おかりんのお嫁さんになるべく修行しるもんで」
にこーっと笑って、あかりが尋ねてくる。
「奥さんの料理、おいしい♡?」
「ああ……本当に美味いよ。いつもありがとうな」
「いえいえ~♡」
あかりが何も言わない。それが逆に怖い……。
みどり湖は気にせず食べており、菜々子もまた震えていた。
「あ、あかり……? だめだよ、怒っちゃ?」
「は? 怒ってませんけどぉ?」
めちゃくちゃ怒ってる……。
美味い飯を食べているのだが……プレッシャーがとてつもなかった。
ほどなくして食べ終わる。
麦茶が人数分出されると、あかりが開口一番言う。
「るしあんと、やったの?」
「「ええ……!?」」
菜々子、みどり湖が驚愕の表情を浮かべる。
「奥さんが家で料理作って待っている間に?」
「いや待て誤解だ。やってない」
「でもるしあんと会ってたのはほんとでしょ?」
「それは……原稿をとりいくついでに」
「原稿取りに行って、るしあんとチューしたってわけか」
「「ちゅー!?」」
みんなの前でどんどん明らかになっていく俺の所業……。
「あわわっ、ちゅ、ちゅーを……わわわっ」
「……お兄、仕事中にちゅーですか? このやろう? え?」
菜々子は顔を赤くして、いやんいやんと体をよじる。
みどり湖はぴきぴき……と額に血管を浮かべていた。
「おかりん、別にね、いいよ。だって5人と恋人関係なんだし、恋人であるるしあんとちゅーするのは、別にいいよ?」
じゃあ何でこんなキレてるんだろうか。
「でもちょーっと……ずるいよねー。ねえ二人とも?」
あかりが菜々子たちに振る。
「わ、わたしはその……あの……うらやm……」
「お姉もずるいってさー」
あかりが遮るように言う。
「みどりんは?」
「……あーしも、ずるいと思う。だって……あーしだって……お兄と、その……し、したいし……」
菜々子とみどり湖がそろって顔を赤くしてきた。
ふたりは、怒ってない様子。
「こほんっ。とゆーことでっ、おかりんには全員とちゅーしてもらいます♡」
「「「なんでだよっ?」」」
俺と菜々子たちが口をそろえて言う。
いや、どうしてそうなった……?
「おかりんは女子ズみんなのもの♡ なんじ、一人にちゅーしたのなら、残り4人ともちゅーしましょう、って神様も言ってるでしょ?」
どこの神だどこの……。
しかしあかりは、本当に独占欲が強いというな。
「こほん、ではお姉、先にどうぞ♡」
「え、えええー!?」
しゅぅう……と頭から湯気がでる勢いで、顔を赤くする。
いや、うん。そうだよな。
「やめとこうか。人前だしな」
「……は、はひ」
菜々子はホッ……と安堵の吐息をつく。
次はみどり湖を説得しないと……。
「みどり湖……んんう!」
妹は振り向き際を狙って、俺の唇に、自分の唇を重ねた。
「み、みどり湖ちゃんー!?」
ぷは……と妹が俺から唇を離す。
「ん……ごちそーさま」
ぺこっ、とみどり湖が頭を下げる。
「み、み、みどり湖ちゃん!? は、は、はしたないよぉ~……」
顔を真っ赤にして菜々子が言う。
だがみどり湖はすました顔で横を向く。
「……だ、だって全員とき、キスするんでしょ。な、ならいいじゃん……ね?」
「い、いや……」
「……ね?」
ずいっ、とみどり湖が顔を近づける。
「……他の子にも、したんでしょ? な、なら……いいじゃん。したかったし……それとも、いやだった?」
不安げにみどり湖が俺を見上げる。
妹に勘違いさせてはいけない。
「嫌じゃなかったよ」
「……ん」
みどり湖は頬を赤くして、そっぽを向く。
耳が両方とも真っ赤になっていた。
妹と……キスをしてしまった。
ついこの間までは普通に兄妹だったのだが……。
昔は好き好き、とキスをしてきた彼女が、恥じらいを持ってキスをしてきた。
大人になったのだなと思う気持ちと、妹とキスをしてしまったという背徳感で……胸が痛い。
「んじゃ最後はアタシね♡」
あかりは立ち上がると、俺の膝の上に、馬に乗るようにしてまたがる。
「わ、わわっ! あ、あ、あかりっ! そ、その体勢……えっちだよぉ~……」
……確かに端から見たら、危ないお店で、やばいプレイをしているふうに見えなくない。
「いいよ♡ このままお望み通りのやばいプレイに移行しても、アタシは一向にかまわんっ」
「俺がかまう……やめてくれ……」
俺があかりをどけようとする。
だが……。
「えーい♡」
あかりは俺に抱きついて、そのままキスをする。
以前、二人きりのときにしたような……情熱的なものではなかった。
バードキス、とでもいうのだろうか。
ついばむように、俺の唇とキスをすると、顔を離す。
「…………」
あの夜の、むさぼるようなキスと比べたら、実に軽いものだった。
「……もっとすごいのは、デートの時にね♡」
あかりが耳元でささやくと、ぱちん、とウィンクをする。
ほんと……天使と悪魔が同居してるな、この子は……。
あかりは俺から降りる。
「これでご満足していただけましたか?」
「「まさかでしょ……」」
ごごご……と怒りのオーラを背後から垂れ流しながら、あかりとみどり湖が言う。
「るしあんとチューしたことに対する、裁判が残ってるよ♡」
「いや、でも恋人とはキスして良いんだろ?」
「いいけど、だめです♡」
「どっちだよ……」
みどり湖が頬を膨らませて言う。
「……お兄、いつからそんな遊び人になったし」
「いや別に遊び人ってわけじゃないけど」
「……ちゅーしたんでしょっ。ずるいよ。もっとしたいのに……」
二人が怒っている一方で、菜々子が沈黙したままだ。
「菜々子……菜々子?」
「お姉!」
顔を真っ赤にして、椅子の上でくたぁ……と力を抜いていた!
な、なんだ風邪か!?
「菜々子!」
「きゅー……」
目をぐるぐる巻きにして、菜々子が気を失っている。
「お姉にはちょーっと刺激が強すぎたかな」
「いやそうだろ……! 菜々子! おい、菜々子ー!」