67話 義妹の家出、そして告白
土曜日の夜。
俺が家に帰ると、あかりと義妹のみどり湖が待っていた。
ひょんなことから、俺に四人の恋人がいることが、妹にバレる。
そして……妹から、俺のことが好きと告白を受けた。
それは、家族としての好きではなく、恋人としての、異性として、俺が好きだという……。
寝耳に水すぎて、正直困惑している。
俺にとってみどり湖は、ずっと、可愛い妹だったからだ。
あかりに好きと告られた時以上の衝撃が、俺に走った。
……その後、俺は3時間くらい、あかりからの問い詰めを食らった。
根掘り葉掘り、何時から何時の間にやったとか、回数とか、そのほか諸々を聞かれた。
その後に、解放してくれたのだが。
『10倍返しで♡』
とあかりが意味深な発言をしていた。
なんだろうか、10倍返しとは……。
さて。
俺はみどり湖の部屋の前にやってきている。
さっきは話の途中で、走って行ってしまったからな。
コンコン……。
「みどり湖、いるか?」
しーん……。
「あれ? みどり湖?」
俺は扉に手をかけて、開く。
もぬけの殻であった。
「あいつ……どこいった……」
俺はスマホの電源を入れて電話をかける。
プルルルルルッ♪
ぴりりりりりりっ♪
「ケータイ置いてきやがったのか……」
ベッドの上には、みどり湖のスマホがあった。
俺は通話を切って考える。
実家に帰ったか……あるいは……出てったか。
「…………」
実家にもしも帰ったなら、お袋から連絡が来るだろう。
あの人、みどり湖のこと好きだし、急に帰ってきたら俺に何があったのか聞いてくるだろうから。
「探しに行くか」
俺はみどり湖のスマホを持って、部屋の外に出る。
「わっ、せんせえ? どうしたんですか?」
菜々子とちょうど、廊下で鉢合わせた。
「ん。まあ……ちょっとな」
みどり湖が家出をした、といえば、彼女は激しく動揺するだろう。
「ちょっと外に出てくる。あかりと留守番頼むな」
「あ! せんせえ……!」
俺は彼女の制止をふりきり、家の外に出る。
部屋からから3時間くらい経ってる。
結構遠くまで行ってしまったか……。
いや……違う。
俺は、みどり湖という女の子が、どういう女の子か、よく知ってる。
「…………」
俺はスマホで【検索】し、当たりを付けて、そこへと向かう。
★
「見付けた……」
やってきたのは、ここから歩いて10分くらいにある、公園だ。
ここにはドーム状の大きな滑り台があった。
側面から中には入れる。
トンネルのような構造のそこに……みどり湖が丸くなっていた。
「……お兄」
みどり湖が顔を上げる。
その目もとは真っ赤に晴れていた。
俺と目が合うと、口元を少しだけほころばせる。
じわ……と涙を浮かべ、けれど首を振って、顔を伏せる。
体育座りをしていて、膝の間に、自分の顔を隠した。
「……何しに来たの?」
「おまえを……」
どういうか、迷う。
彼女が家を出て行くときは、どう言うときだったかを思い出して……。
「……おまえと話をしに来た」
「……ん」
俺はみどり湖の隣に座る。
びくっ、と彼女は一瞬体をこわばらせた。
遠のこうとする妹に側に座る。
おとなしく、その場に尻を付ける。
「……なんでここがわかったの?」
「おまえ、何か機嫌が悪くなると、すぐ家から飛び出すじゃないか。そんで、だいたい、公園にいるだろ」
みどり湖が家を出るとき。
それは……俺に、構ってもらいたいときだ。
彼女は頻繁に出て行っては、俺に連れ戻されている。
裏を返すと、彼女は【見付けてもらいたい】と思ってるから家出しているのだ。
つまりどういうことか。
そんなに離れた場所に、いかないということ。
この近辺で公園を探し、またこういう隠れられそうな遊具があるところに目星を付けて……ここに来た次第だ。
「……ウケる。お兄、探偵かよ」
「ああそうさ。こちとら、妹捜しのプロフェッショナルだからな」
みどり湖は特に、俺がミサエと付き合うようになってから、高頻度に家出を繰り返した。
だからこそ、わかるんだ。
彼女がだいたい、どういうとこに隠れてるかって。
「……そっか。お兄、あーしのこと、ちゃんと探しに来てくれたんだ」
みどり湖は目をほそめて、俺の肩に、頭を載せる。
ふにゃりと頬を緩めて、くしくし、と頬ずりしてきた。
俺はみどり湖の、少しパサついた髪の毛をなでる。
子猫みたいな、少しちくちくとする感触。
俺が触れるたびピクピクッ、と体を震わせる。彼女は本当に、子猫のようだ。
「なあ……みどり湖。さっきの……話だけどさ」
「……どっち?」
俺に四人の恋人がいること、そして、彼女は俺を異性として好きだということ。
「どっちも……だよ」
俺はまず、ミサエと別れて、軽井沢に旅行へいくところの経緯を話した。
「……やっぱり、あのミサエばああ、最低の女だったね」
みどり湖は非難するように、俺に言う。
「……だから言ったじゃん。何度も。あの女と一緒にいると、不幸になるって」
「ああ、そうだな……」
俺がミサエと付き合いだしたのは、高校生の頃から。
あそこから何かが狂いだした。
みどり湖は、俺に何度も言ってた……って。
「別に言ってないだろ、そんなこと。死ねってやたら言われただけのような」
あとなんであんなのと付き合うの、とかな。
「……う。そ、それは……そういう意味でいったのっ」
「ああ、そうか……」
妹は素直じゃないのだった。
声を荒らげる妹の頭をなでる。
すると、すぐに大人しくなった。
くた……と力を抜いて、俺に寄りかかってくる。
「忠告してくれてたんだな。ありがとな。……それと、ごめんな。おまえが善意で、忠告してくれてたのに、無視するみたいになって」
「……いいし。今、幸せみたいだから。あーしは、それで」
「幸せ、か?」
「……うん」
みどり湖は静かに語る。
「……お兄、気づいてないみたいだけどさ。ミサエばばあと付き合ってたとき、顔色ずっと悪かったよ。いつも辛そうにしてた……。お兄のイケメンの友達と、あのニエカワ、さんと一緒の時以外は、ずっと」
王子と、一花のことだろう。
そんなに辛そうにしていただろうか、俺は。
いや、してたのだ。
一番近くで見ていた彼女は、そういうんだから。
「……でも、今はお兄、明るい顔してる。今が、楽しんだね」
みどり湖はどこか、悲しそうなニュアンスで言う。
「……あのJKコンビの、おかげなのかな」
「ああ、そうだな……」
あかり達だけじゃない。
俺の周りの人たちが、俺を励ましてくれたから、元気になれたんだ。
「……ねえ、お兄。お兄にとって、あかりたちは大切なんだよね?」
質問というより、確認のような意味合いで妹が聞いてくる。
彼女は諦めたように笑っていた。
「そうだな。大切だよ」
「……だよね」
あかりと菜々子も、もう俺にとっては大事な元生徒ってだけじゃなくなった。
妹が最初に言っていたように、家から追い出すことはできない。
「……わかった。あーし、実家に帰るよ」
みどり湖は四つん這いになって、トンネルから出て行こうとする。
「待ってくれ」
俺はみどり湖の腕を掴んだ。
びくっ、と体を強くこわばらせるけど、その場にストン、と座る。
「まだ、もうひとつの話が残ってるだろ」
「……あ、あれ……いいよ、もう」
みどり湖の目に涙が溜まっている。
「……もういいんだよ。わかったから。あーしの入る余地、ないんだって……」
「おまえ……本当に、俺のこと好きなのか?」
みどり湖は、辛そうに、けれど、どこか寂寥感をこめた笑みを浮かべて言う。
「……そーだよ。ごめん、キモいよね……ごめん……わかってるから。兄妹で恋愛なんて、きもちわるいって……」
俺は……。
俺はまず、こういった。
「ごめん」
「……………………え?」
俺の一言に、妹が目を丸くする。
「ごめんな。お前の好意に、ずっと気づかずにいて。おまえの心を、傷つけてただろ」
俺はあかり達の一件を通して、学んだんだ。
子供だ子供だって、思って、彼女たちの心の中を覗かないことは、失礼なことなんだと。
子供は大人が思うより早く成長する。
特に女の子は、俺が思うよりもずっとずっと大人だった。
そんな彼女たちから好意を向けられていて、気づかないフリをしたり、子供だからと真剣に考えないことは……。
彼女たちを傷つけることに、他ならないって。
俺はミサエと別れて、あかり達と同居し、4人から告白されて……。
やっと、気づいたのである。
だから、いつからかは知らないけど、みどり湖が俺のことを、異性として好きだったとしたら……。
それに気づかず、ずっと妹扱いしていたのは……俺が彼女を傷つけていたことになるからと。
だから、謝ったのだ。
「……お、お兄が謝ることないよ! あ、あーしが……勝手に、好きになっちゃっただけだし……」
みどり湖が慌てて首を振る。
好きと言ったあとに、耳の先まで真っ赤に染めた。
「……ねえ、お兄。嫌いに、ならない? こんな……妹から、好きって言われて」
俺は少し迷って、あかり達にごめんと心の中で謝って……。
「……ッ!」
俺はみどり湖のことを、ギュッと抱きしめる。
「……だめ、だめだよぉ……。お兄は……恋人、いるんだから。妹のことなんて、こんな……こんなふうに……しちゃ……好きになっちゃうよぉ……」
ダメと口ではいうものの、みどり湖は俺の腕の中から逃げようとしない。
むしろ、俺に体を近づけてくる。
「ありがとう、みどり湖。でも……俺は前も言ったけど、今のっぴきならない状況に居るんだ」
「……4人と付き合ってるってヤツ?」
「ああ。正直、倫理的にアウトとは思ってる。だが……断り切れないんだ。俺は、誰も大事だし、もっとみんなのこと……知りたいと思ってるから」
俺はまだ、道半ばに居る。
誰かと結ばれ、供に人生を歩む相手を、探している最中だ。
「その中にも……みどり湖。お前も含まれてるよ……」
「え? じゃ、じゃあ……!」
みどり湖が表情を明るくする。
「あかり達に……了解とってからだけど。おまえがよければ……その、恋人から始めないか?」
あかりに感化されてるのかもしれない。
自分から、この仮の恋人関係に、誰かを誘うなんて。
しかも、妹を……。
「お兄……お兄!」
みどり湖は目に涙を浮かべて、俺に飛びつく。
そのまま俺は押し倒され、彼女が俺に、覆い被さった。
妹は四つん這いになって、俺を見下ろす。
長い髪の毛が重力に従って垂れる。
髪の毛の間からのぞく表情は、笑顔だった。
ぽたぽた……と涙を流しながら、顔を近づけて、情熱的なキスをする。
ちゅっ♡
「……好きっ♡」
ちゅっ、ちゅっ♡
「……好きっ、大好きっ♡」
チュッ、チュッ、チュッ、チュッ……。
みどり湖は、17年の思いを全部吐き出すかのように、俺にキスのシャワーを浴びせる。
目を閉じて、ちゅうちゅうと唇をついばんでくる妹が愛おしく、俺は彼女を抱きしめる。
ひとしきり彼女がキスをして満足をしたのか、俺の胸の中で、丸くなる。
目をほそめて、頬ずりしながら……。
「……お兄♡ 大好き……♡ 好き……♡ 好き♡ だいだいだぁいすき……♡」
……いけないことをしていると、わかっている。
けれど、普段クールな彼女が、こんなふうに、情熱的に甘えてくる姿を見て……。
背徳感で、背筋がぞくりとする。
「おーかりん♡」
……いや、違うか。
背徳感なんてもんじゃ、なかった。
俺は顔を、トンネルの出口に向ける。
「あわ、あわわわ……」
菜々子が、顔を真っ赤にして、自分の顔を手で隠している。
あかりは、それはもう……今まで見たことのないくらい、美しい笑顔であった。
「家に帰ったら、第二回、ね♡」
また、岡谷家裁判が行われるというのか。
「あ、いや……あかり……」
「……逃げんじゃねえぞ」
「あ、はい……」
……どうやら、夜は長そうだった。
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