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63話 菜々子とみどり湖と仲直りと



 ……わたしの名前は伊那いな 菜々子ななこ、です。


 高校2年生で、訳あって、妹のあかりと一緒に、せんせえ……岡谷おかやさんの家にご厄介になっています。


 その日、わたしは近所に、友達のチョビと一緒に散歩にいってました。


 かわいいチョビ、もふもふのわんちゃんです。


 旅行中、友達の知り合いにあずかっててもらいました。


 今日、その人の家に行って、チョビを迎えに行ってきたのです。


 元気元気なチョビは、さっそくお散歩に行きたかったみたいでした。


 そして、散歩から帰ってきて……夕方。


 わたしが鍵を開けて中に入ると……。


「……あれ? みどり、ちゃん?」


 せんせえの妹さんが、リビングのソファに座ってました。


「……どーも」

「……ど、どうも、です」


 ……みどり湖ちゃんはスマホをポケットにしまいます。


 ど、どうしたのでしょー。


 彼女とは、最近知り合いました。


 せんせえの妹さんということですが、あんまり似てません。


 ちょっとピリピリしてるといいますか……。


 でも、悪い子じゃないとは思うんです。


 せんせえの妹さんですし……。

 

 で、でも初対面には違いないので、き、きんちょーです……。


「……あのさ」

「ひゃいっ」


「……突っ立ってないで、座ったら?」

「そ、そうですね。失礼します」


 わたしはチョビを抱っこしたまま、みどり湖ちゃんの前に、座ります。


「……いや、なんでそこ座るの。別に普通にしていいし」


「え、あ、は、はい……」


 あれ? 今朝よりなんだか、怖くないです。


 朝はちょっとヤンキーといいますか、苦手なタイプかなーって思ってましたけど。


 わたしはみどり湖ちゃんの隣に座ります。


「「…………」」


 お互い無言です。

 うー……気まずいです。


 わたし、初対面の人と話すの、苦手なんだけどなぁ。


 あかりは、わたしのことこみゅしょーって言います。ひどい……。


「……あのさ」

「な、んでしょー?」


 みどり湖ちゃんがじろっとにらみつけます。


 ひぃい。


「……いちいちびびんなし」

「ご、ごめんなひゃい……」


 妹ちゃん、眼光鋭すぎです。

 もーきんるいみたいです。くえー。


「で、な、なんでしょー?」


「…………」


 すっ、とみどり湖ちゃんが手を伸ばしてきます。


 け、ケンカですかっ?

 そんなっ! わたしたちのことが、そんなに目障りだったの!?


 ちょ、チョビ~。たしゅけて~!


「あんあん♡」


 ああだめだっ、チョビはいつも通り吠えてます。くぬ、可愛いペットめっ。


「……あのさ」

「はひ……」


「……その子、触らせて?」

「は……………………ひ?」


 今、なんと?


「……だからその、あんたが今胸に抱いてる犬、触らせてくんない?」


 頬を赤く染め、みどり湖ちゃんが言います。


 聞き間違えじゃないのなら、チョビを触りたいといってきました。


 ぴん、と来ました。

 わかりましたよ、明智くん。


 この子……犬好きです!


 なんという名推理です。

 わたし将来は探偵になるのもいいかもです。 


「……ちょっと」

「あ、えっと、ど、どうぞ」


 わたしはチョビを手渡します。


「くーん……」


 チョビが悲しそうな目でわたしを見てます!


 安心してチョビ、君を売ったりしないよっ。


 貸したげるだけ、わかった?


 わかったわん、菜々子ちゃん!(裏声)


 わたしはチョビとの会話(一方通行)を終えて、みどり湖ちゃんにチョビを渡します。


「…………」


 わきわき、とみどり湖ちゃんは両手を伸ばす物の、チョビを抱っこしようとしません。


「もしかして……抱っこの仕方、わからないの?」


 かぁ……とみどり湖ちゃんが頬を赤くします。


「……べつに」


 といいつつも、受け取ろうとしない辺り、やっぱり抱っこの仕方がわからないみたいです。


 ぴん、と来ました。

 この子もまた……コミュ障なのだと!


 コミュ障同士は惹かれあうのです。

 陰の者がゆえにです!


「そんなに難しく考えなくて良いです。こう、ふわっと、ふわっと、です」


 わたしはチョビを抱っこして見せます。


 みどり湖ちゃんがわかりやすいように、位置を変えて。


 ふんふん、とみどり湖ちゃんはわたしの仕草を真面目に見ていました。


 ややあって、わたしはみどり湖ちゃんに相棒を渡します。


 くーん、菜々子ちゃん、離ればなれいやだよー(裏声)


 大丈夫さ、チョビくん、すぐにまたあえますっ!


 とまあ寸劇はさておきです。


「……か、かわええ」


 みどり湖ちゃんがチョビを抱っこしながら、頬を緩めます。


 えへへ、友達を可愛いって褒めてもらえて、うれしいです!


「……名前、なんてーの?」


「チョビです!」


「チョビって……たしか【デジマス】のヒロインの?」


「でじ、ます?」


 聞いたことないです。


「……あ、あんた現代日本に生きてて、デジマス知らないとかマジ?」


「あ、なんだかとっても流行ってるって、あかりがよく言ってます」


「……マジで見たことないんだ。すごい、天然記念物だ」


 会話している感じでは、みどり湖ちゃんに最初に抱いた、怖いイメージはありませんでした。


 普通の子……だなぁと。


「……じゃあなんでチョビって名前なの?」


「動物のお医者さんのチョビから取りました!」


「……ど? なんて?」


「えー! みどり湖ちゃん、動物のお医者さん知らないんですか!?」


 そんなばかな!

 あんなに面白い神漫画を、知らないだなんて!


「人生損してますよっ!」

「……お、おう……急にテンション高いな」


 これはゆゆしき事態です!

 動物のお医者さんを知らない人間なんて、いてはいかんとですよ!


「ちょっと待ってて! 漫画、取ってくるから!」


「……あ、ちょっと!」


 わたしは一旦自分の部屋へと戻ります。


 本棚にささってる、単行本を12冊、もってきます。


「これです! これがかの有名な動物のお医者さん、です!」


 ソファの上に単行本を積みます。


「……あ、漫画なんだ」


「はい! 文庫版も出てますし、そっちももってますが、どっちにしますっ?」


「……へ? いや、別に読むなんて一言もあーし言ってないけど……」


「だめです! 読んでください……人生を損しないために! さぁ!」


 わたしが第一巻をもって、ずいっ、とみどり湖ちゃんに向けます。


 少し引いた彼女でしたが、はぁ……とため息をつきます。


「……わかったし」


    ★


「ただいま~。お姉。あかりんが帰ってきたぞー」


 夜、あかりがバイト先から帰ってきました。


「……これメッチャ面白いねっ」

「でしょう! ね、ここのチョビが可愛いんです」


「……わかるっ」


 わたしたちはすっかり、動物のお医者さんトークで盛り上がってました。


 それくらいこれ、神漫画です。

 ほんとうにおすすめです!

 みんな……買おう!


「お姉……それと、あんたも。何してるわけ?」


 じろ、とあかりがみどり湖ちゃんをにらみつけます。


 朝の出来事から、妹はみどり湖ちゃんに良い印象を抱いてないのでしょう。


「……別に」


「何その態度っ」


 わたしは……妹の前に立って言います。


「あかりちゃん、落ち着いて」

「お姉……?」


 意外そうに目を丸くしたあと、あかりは首をかしげます。


「みどり湖ちゃん、ぶっきらぼうですが、悪い人じゃないです」


 ぽかん……とみどり湖ちゃんが口を開いてます。


「ど、どうしちゃったの、お姉。急に?」


「わたしとみどり湖ちゃんは、同じ漫画を愛する……同士ですから」


「ごめんちょっと何言ってるかわからない……」


 頭痛を堪えるようにあかりが額に触れます。


「頭痛いの? バファリンのみます?」


「いや、大丈夫だけど……」


 はぁ、とあかりがため息をつきます。


「…………」


 みどり湖ちゃんは、わたしと、そしてあかりを何度もチラチラ見てます。


 なんとなくですが、何か言いたいのかなって、思いました。


「なによ、あんた」

「あかりちゃん、め、です」


 わたしは妹の唇に、指をちょんと起きます。


「みどり湖ちゃん、何か言いたいみたいです」


 彼女は目を丸くしたあと、すっ、と立ち上がります。


 そして……。


「……ごめん」


 ぺこり、とわたしたちに、頭を下げてきました。


「……昨日と今朝は、その、ごめん。ちょっと……大人げなかった。ごめん」


 あかりは一瞬目を見開きます。

 そこには疑念が浮かんでるように思えました。


 双子だから、お姉ちゃんだから、わかるんです。


 あかりは……みどり湖ちゃんの真意を測りかねてるみたいです。


 だから、わたしはこうします。


「気にしてないですよ、ね、あかり」

「お、お姉……?」


 わかってます。あかりは、結構強情なところもありますし、心にわだかまりがあるって。


 怒ってる理由一番の理由は、みどり湖ちゃんが、わたしに、キャンディの棒をぶつけたからです。


 あかりは……優しいんです。


 わたしが、【あの人】に酷いことされたとき、いつも、庇ってくれてました。


 わたしはバカで、力もなくて、弱いから……。


 いつも、あかりがわたしを守ってくれます。


 優しい子なんです。だから、みどり湖ちゃんの態度が、許せなかったんです。たぶんそこに一番怒ってるんじゃないかなーって思います。


 でも……いいんです。

 わたしは気にしてないんです。


「お姉……でもこいつ……」

「誰だって、イライラするときくらい、あるでしょう?」


「そりゃ……まあ。そうだけど」

「それにあかり……今朝の態度、あかりもちょっと良くなかったよ」


「でもそれは……」

「わたしのためって、わかってる。でも……ね。仲良くしようよ、ふたりとも」


 わたしはあかりと、そしてみどり湖ちゃんを見ます。


「だって……ね? 同じ家に住むんですもの。仲良くがいいです。お家が明るいほうが、せんせえも喜びますよ。ね?」


 みどり湖ちゃんもあかりも、そして、わたしも。


 せんせえのことが大好きなのです。


 だから……せんせえに迷惑かけたくない。

 そこを共通してるから、仲良くできるって、思うんです。


「ほら、あかり?」


「……悪かったわよ、アタシも。大人げなかったわ」


 あかりがペコッと頭を下げます。


「わたしも、ごめんなさい」


 ぺこっ、と頭を下げる。


「ちょ、なんでお姉が謝るのさっ」

「……そ、そうだし。あんた悪くないじゃん……あ」


 あかりたちが顔を見合わせます。

 気まずそうに、目をそらし……がしがし、と髪の毛をかきます。


「わたしだって、みどり湖ちゃんが何にイライラしてるのか、わかってあげられませんでした。だから、ごめんなさいです」


「……ん」


 みどり湖ちゃんも、あかりからも、今朝のようなギスギスした感じがなくなりました。


 よかったよかった、みんな仲よくが一番です!


「……あーしも、ごめんね」

「ん……まあ、いいよ」


 ふたりが仲直りしてくれました!

 よかったよかった!


「ってか、あれ? おかりんは?」

「……ちょっと席外してもらってるし」


「あ、そーゆーこと……」


 あかりは何かを察したようでした。

 でも、わたしにはなんのこっちゃです。


 チョビ、わかります?


 足下に居たチョビが見上げてきます。


 わからないや、菜々子ちゃん、きりっ(裏声)


 ですよねー。


「……もう用事すんだし、お兄にLINEするわ」


 と、そのときでした。


 ぽこんっ♪


 わたしのスマホにLINEの通知がアリマした。


「アタシんとこにもだ」

「……あーしにも。お兄からだ」


 わたしがLINEのアプリを立ち上げます。


【友達の家に、今日は泊まる】


「「……は?」」


「あ、そうなんだ~……って、どうしたの、ふたりとも?」


 あかりとみどり湖が、急にこ、怖い顔してます。


 どうしよー、チョビ~。こわいよ~。


 まかせな、ぼくを抱っこするんだ菜々子ちゃんっ(裏声)


 わたしはチョビを抱っこしてぎゅっとします。


「ふーん……泊まり。へえー……」

「……お兄。帰ったら、尋問するから」


「あ、それアタシも手伝うわ」

「……ん」


 な、なんだか不穏なワードが……!


 せ、せんせえ! 

 早く帰ってきてくださいー!

  

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― 新着の感想 ―
[一言] あらま強力な連合軍ができちゃった。おかりんは明日の太陽は拝めるのか? 帰宅と同時に「ギルティ」言い渡されそう(笑)
[一言] 問い質すでもなく追及する訳でもなく、尋問ですかもう有罪前提で言ってますやんw。 みどり湖はギリ誤魔化しきけるかもしれんが、あかりは無理やな生きて帰れるかな岡谷。
[一言] 動物のお医者さんですか、あの作品は好きで飼い犬にチョビと名前つけてました。同じ感性の人がいるんですね
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