44話 プレゼント貰う、そしてJK妹に押し倒される
翌日、俺は部屋のシャワーを浴びて、ベッドへと戻る。
「ううー……あたしは、酔った勢いで、なんてことをっ……!」
贄川 一花が、頭からシーツをかぶって、もだえていた。
「一花」
「ひゃいっ……!」
びくーんっ、と一花が体を硬直させる。
「起きたんだな。おはよう」
「お、お、おはよう……」
一花は体をシーツで隠してる。
だが普段まとめてある長い髪は、解かれて、生まれたままの格好をしている。
「シャワー空いたぞ。入るだろ」
「う、うん……」
一花は顔を赤くして、もじもじしながら言う。
「あ、あのね……岡谷くん。その……ごめんなさい。昨日は、酔った勢いで、その……」
昨夜、俺たちはかなり酔っていた。
お互いがお互いを求めた結果、俺たちは肉体的に結ばれた次第。
「いや、俺の方こそ、すまない。酔ったお前を、抱くなんて」
「岡谷くんが気にすることないよ。だって……あたしも、したかったし……」
俺は一花の隣に座る。
「死んじゃうんじゃないかってくらい、気持ちよかった……。岡谷くん、あんなに上手なのね」
「普通じゃないか?」
「ううん。すごい良かったわ。前後の感覚がなくなって、天国に居るような幸せな気分で……って、何言ってるだろあたしっ!」
顔を手で覆って、一花は体をよじる。
「と、とにかく……あたしから岡谷くん誘ったようなものだし、気にしないで」
「そうか……すまんな」
一花は俺を見ると、晴れやかな表情になる。
「元気、出た?」
「ああ、おまえのおかげだ。ありがとうな」
「ううん、どういたしまして。お風呂行ってくるね」
一花はシーツを脱ぎ捨てて……やっぱり恥ずかしくなったのか、体にまいて、風呂場へと向かった。
「…………」
俺はベッドに落ちてる避妊具の空き箱と、使い終わったそれを回収。
落ちているドレスやそのほか、汚れたシーツなどを回収しながら、昨晩のことを思い出す。
一花の白い肌、温かな体、そして甘く切ない声。
10年前、知り合った彼女と、こういう関係になるとは思わなかった。
ずっと、俺の中では、あのときから一花のことは、友達だと思った。
けど……昨晩の彼女の、乱れた姿。
ふれあった手や肌の感触……。
それらを知った俺は、もう一花を、今までみたいな友達とは見えない。
どうしても、女性と意識してしまう。
「…………」
あの夜、一花は俺に好きだと言ってくれた。
体を開いてくれたということは、その言葉に偽りはないだろう。
では……俺はどうなんだ?
贄川のことを、これからどう見ればいいんだ。
と、そのときである。
ぴんぽーん……♪
ドアチャイムが鳴る。
覗き穴の向こうに、双子の妹、あかりがいた。
一花は風呂だし、出てきたところで、相手は同性の、しかも子供だ。
あかりに見られても問題ないだろう。
扉を開けて彼女を見やる。
「あかり、なにかようか?」
しかし……。
「…………」
あかりはピタッ、と立ち止まり、険しい顔になる。
廊下の奥、シャワールームを見ていた。
「どうした?」
「……ねえ、おかりん。もしかして、一花ちゃんシャワー浴びてるの?」
探るように、あかりが尋ねてくる。
「ああ」
「……ふーん、そっか。取り繕わないんだ」
あかりは目を閉じて、つぶやく。
「……そっか。【そーゆーこと】か」
驚くほど小さな、そして静かな声で、あかりが言う。
「ねえ、おかりん。今夜、ひま? 話したいこと、あるんだけど」
★
2日目はショッピングモール内のボーリングやドッグランなどで遊んだ。
その間、あかりはいつも通り、屈託なく笑っていた。
……あのドア越しに聞こえた、静かな雰囲気はどこかに行っていた。
そして、夜。
俺は、あかりの部屋へとやってきた。
「おかりん、おっつー」
「ああ。菜々子とるしあは?」
JK姉とJK作家の姿が見えない。
「ちょっち席外してもらってる」
あかりは短めのキャミにミニスカートというラフな格好だ。
「用事ってなんだよ」
「おかりんに、【プレゼント】あげたくて」
「プレゼント?」
うんっ、とあかりが子供らしく明るい笑みを浮かべる。
「座って座ってっ。となり座ってっ」
あかりがベッドに腰を下ろすと、隣をぽんぽんと叩く。
その子供っぽい仕草が微笑ましく、俺は隣に座る。
「はいこれ、プレゼント! お姉と選んだんだっ」
枕元に置いてあった包みを、あかりが俺に差し出してくる。
「俺に? プレゼント?」
「そうっ。ほら、いつもおかりんによくしてもらってるじゃん? だから、お姉と相談して決めたんだ。日頃の感謝のお礼しよーって」
あかりが無邪気な笑みを浮かべる。
「…………」
「あり? どうしたの?」
「ああ、いや……。女の子からプレゼントなんて、久しくもらったことなかったから、どうしたもんかと」
「前妻のババアからはもらわなかったの?」
「ああ。そういえば、俺がいつもプレゼントしてばかりだったな」
「ふーん……そか。ゴミだね、あの馬鹿妻」
んべーっ、あかりが子供っぽく舌を出す。
「ありがとな、これ。中身みてもいいか?」
「どぞどぞ」
包みを開けると、入っていたのは、シンプルなタイプのハンカチだった。
「ネクタイにしよっかなって思ったけど、おかりんスーツあんま着ないからさ。サイフとお姉と相談してハンカチにしたんだ」
「なるほど……」
あかり達からの、プレゼント。
それは思ったよりも嬉しかった。
別に俺は見返りが欲しくて、彼女たちを保護してるわけじゃない。
それでも……こうして、彼女たちから感謝の気持ちと供に、プレゼントとしてもらえるのは……うれしかった。
「ありがとう。大事にするよ」
「にししっ。喜んでくれて何よりじゃー」
「ああ。しかし、まさかあのおてんば娘が、人にプレゼント送るようになるなんてな」
10年前じゃ考えられないことだった。
「あ、そうそう! ねえおかりん」
「ん? どうした?」
あかりがニコニコ笑いながら、普段の調子で言う。
「実はね~。もう一個! あかりんから個別のプレゼントが、あるんですよ!」
「まじか」
「お姉との共同プレゼントに加えての、さぷらーいず!」
あかりがぴょんっ、とベッドから降りる。
「菜々子はそれ知ってるのか?」
「いやいや、これはあかりんが独自に考えたサプライズ演出なので、お姉もるしあんも知らないよ~」
黙ってる方が面白そう、とでも思っているのだろう。
まったく、いつまで経ってもこの子は変わらないな。
「んじゃー、サプライズ準備してくるからさ。おかりんちょーっと、目ぇつむってて」
「はいよ」
ナニをするつもりだろうか。
いやでも、この子は前から、俺や姉をびっくりさせて、笑わせるような子だった。
10年前もそうだったな。
「ん。じゅんびおっけー。もう目あけていいよ」
「はいはい……何する……」
と、そのときだった。
ドンッ……!
俺はだれかに突き飛ばされて、ベッドに仰向けに倒れる。
突然……何が起きてるんだ?
まさか強盗!?
「違うよ」
「なっ……!?」
月明かりに照らされて、俺は、俺を突き飛ばした犯人の姿を……見る。
あかりだ。
ただし……。
「お、おまえ! なんてかっこしてるんだ!」
彼女は……何も身につけてなかった。
キャミソールも、下着の一枚すらも、あかりは身につけず、生まれたままの姿だった。
「な……え……あ……?」
月下のあかりは、それは……もう、言葉にできないくらい、美しかった。
真っ白な肌は月明かりに照らされて、青白く、本当に輝いているようだ。
自分の顔より大きな乳房と、つん……と上を向いたサクランボのようなピンクのつぼみ。
太もも、二の腕には、適度な肉がついており……。
そして、体は、一点の染みも曇りも、毛すらない……芸術品のような裸身。
あまりに綺麗すぎて、俺は……思わずしばし呆然と見入っていた。
だが、すぐに俺は正気に戻る。
「すぐ服着ろばかっ……んっ!?」
あかりは俺に馬乗りになった状態で、俺の唇を……強引に塞いできた。
「んぷ……ちゅ……」
あかりはぐいぐい、と自分の体と、唇を押しつける。
舌を情熱的に絡ませて、まるで自分の舌の感触と、唾液の甘い味を覚え込ませるようだった。
なんだ、これは。
高校生のするキスなのか……?
「あかり!」
ぐいっ、と俺は彼女の細い肩をだいて、押し返す。
「ちょっとムード足りなかった?」
「そうじゃない! おまえ何馬鹿なことやってるんだ!」
知らず声が大きくなっていた。
だってそうだろう?
「子供がこんな、ハシタナイ真似したから?」
ぞくり、とするほど、静かなる調子で、あかりが俺の心の中を言い当てる。
「おかりんって、可愛いね」
くすり、とあかりが笑う。
それは……いつも見せる、無邪気な子供の笑みじゃなかった。
目をほそめて、ぺろ……と俺と重ねた唇を、舌でなぞる。
それは……紛れもなく、女の、妖艶な笑みだった。
「いいから服を着ろ」
俺は彼女の姿を直視できず、背を向ける。
「ねえおかりん。いつまで……昔のままだと思ってるの?」
彼女が、俺にしなだれかかってきた。
俺の背には、あかりの大きな胸の感触。
そして……二つの、硬いこりっとした感触と、あかりの甘い吐息。
「あたし、もう大人だよ?」
それは、あかりがいつも口にしているセリフだった。
自分は子供ではない、大人であると、何度も何度も。
「おかりんはさ、それを子供の冗談か何かだと思ってるけどね。違うんだよ。あたし……ほんとに女になったんだよ?」
ぎゅっ、とあかりが強く、後ろからハグしてくる。
乳房の柔らかな感触。
ぐいぐい、と押しつけられる。
甘い髪の毛の香り。
興奮した雌猫のように、ふーっふーっ、と鼻息を荒くしているあかり。
……こんなあかり、知らない。
「あ、でもね。勘違いしないで。男の子と付き合ったこともないし、もちろん処女だよ。おかりんに……抱いてもらいたくって、綺麗な体ずぅっと保ってたの」
「おまえ……いい加減にしろ。大人をからかうな」
「アタシは本気だよ。おかりんは……何も……なぁんにも、わかってない」
あかりが俺の服の下に、手を滑り込ませてくる。
冷たい手。緊張しているのがわかる。
だがするり……と俺の胸板と、そして……下腹部に、彼女の手が伸びてくる。
思わず、反射で、俺は彼女を腕で振り払う。
距離を取って、彼女を見る。
裸のままのあかりが、くすり……と笑った。
「良かった。ピクりともしなかったら、どうしようかって思っちゃったよ」
俺はシーツを掴んで、彼女に押しつける。
「おまえ……一体何がしたいんだよ!」
やはり声が大きく、荒くなっていた。
急に、次から次へと、不測の事態が起きて、対処できてない。
ただ、彼女の体を、前のように直視できなかった。
ダメだ。何を考えてる。
あの子は、俺の教え子で、今は……被保護者なんだぞ?
「あたしがしたいのは、昔も今も変わらないよ。大好きなおかりんの、女になることだよ」
あかりが後ろを向いて、シーツを広げる。
肌は隠れたはずなのだが……。
月明かりのせいで、シーツに、彼女の裸が透けて見える。
くびれた腰や、太ももの間にあるカーブライン。
明確に尻も胸も見えていないのに、彼女の姿から……目が離せない。
「おかりんのなかではさ、時が止まってるんだよね。あたしもお姉も、10年前の、小学生のときと、同じだと思ってる」
「同じだろ。今も昔も、子供だ。何も変わらない」
「そうだね。大人は10年じゃなにも変わらないかもしれない。けど……子供は、10年したら、大人になるんだよ」
あかりはシーツを裸身に巻き付けて、まるで獣のように、四つん這いになって、俺の顔を近づける。
そこにいたのは、裸の【女】だった。
一花と交わった昨晩の記憶もあいまって、俺は……どうしても、性的な興奮を感じてしまう。
「……ねえおかりん? えっちしよ?」
彼女が耳元で、ささやくように言う。
ぺろり……と俺の耳たぶを下で舐めると、ぞくりと体に快感が走る。
戸惑いすぎて、頭がついていかない。
だが……体は、どうしようもなく……目の前に居る恐ろしいほど美しい女に反応していた。
「……あたし、あなたの赤ちゃん産みたいの。あたしの心も体も全部、あなたのものだよ?」
俺は、後ずさりする。
目の前に居るのが、俺の知ってるあかりだとは、どうにも思えなかった。
何か別の、妖艶ななにかのように移る。
あかりが俺の上にのしかかり、そして又唇を重ねようとする。
「…………」
だが、彼女が自ら止める。
そして……。
「ふふっ……期待しちゃった?」
あかりは体を起こすと、くすりと笑う。
「残念、おあずけ♡」
あかりは俺から離れていく。
「そんながっかりしなくっても……さ。ちゃんとしてあげるから」
「いや……俺は……」
ぐいっ、とあかりが背伸びする。
「おかりん。これで、わかったでしょ?」
ちら、とその青い瞳が俺を見て、にこりと笑う。
数分前と同じ笑みのはずなのに、まったく違うように見える。
「伊那 あかりは、もう子供じゃないんだ。残念だねおかりん。もうあなたは……あたしのこと、子供って見れないよ」
あかりが自分の体を抱いて、唇の端をつり上げて……艶っぽく笑う。
「あたしのこと見るたびに、今日の出来事思い返しちゃうんだ。次第に耐えきれなくなって……最後には飢えた獣のように押し倒しちゃうの」
そんな予言のようなことを、あかりが言う。
ともすれば強姦ととらえられる行為。
しかし……あかりは、実に嬉しそうに語る。
「そんなこと……」
「しない、って、言い切れる?」
あかりは自分の唇に、人差し指を立てて、くすくすと笑う。
俺の中から……10年前の、あのクソガキのようなあかりが、消えていく。
「ん。われ、奇襲に成功せり。一花ちゃんに出し抜かれちゃったから、焦っちゃった。ごめんね」
俺は、気まずいやら、気恥ずかしいやらで、まともにあかりの顔が見れない。
これから、俺はこの子と、どう向き合っていけば良いんだ。
前ならば、こんな馬鹿なことを、と注意できた。
あかりはニシシと笑って謝って、俺はやれやれとため息をつく。
だが……それは、俺が教師で、あかりが生徒だったからこそ、成り立った関係だ。
……その関係は、今日、徹底的に壊された。
一花と結ばれ、あかりに押し倒されたことで……。
「…………」
気づけば俺は、ホテルの外に居た。
どうやらあかりの部屋を後にしてたらしい。
見上げた空には、見事な満月が広がっている。
思い起こすのは、一花とあかり。
そして菜々子と、るしあ。
俺の周りにいる女子たち……。
「これから、俺は、どう接してけばいいんだよ」
俺は一人、そうつぶやくしか、できないのだった。