41話 妹JKと試着室で二人きり
俺たちはショッピングモールへとやってきている。
「洋服みたーい! おかりんお洋服~!」
双子妹のあかりが、俺の腕を引っ張りながら、女性ものの洋服屋へと入る。
「……涼しい、ですぅ~」
「うむ……外はカンカン照りだからな」
菜々子とるしあが、ぱたぱた、と手で団扇をつくってあおぐ。
「? 贄川。どこだ?」
「あ、一花ちゃん、外にいるー」
あかりの言うとおり、一花は外に立っていた。
俺は3人を残して、店の外へと出る。
「どうした?」
黒髪をポニーテールにまとめた美女が、困り顔で言う。
「いや……岡谷くん。ここ、若い子のお店だもの」
ディスプレイの服を見ると、なるほど、布面積がかなり少ない服が並んでいた。
「私じゃ似合わないわ」
贄川は結構かっちりした服を好む。
だが手足が長いし、スタイルも良い。
「そうか? 結構似合うと思うけど」
「そ、そう……?」
ちらちら、とディスプレイの服を見て、贄川が言う。
「お、岡谷くんは……ああいう、お、おへそ出すようなのが、いいのかしら?」
「いや、別に。ただお前も若いんだから、ああいうの着ても良いんじゃないか、プライベートなら」
「あ……え……う……うん。わ、わかった……お、岡谷くんが、着て欲しいなら……わ、私頑張る!」
ずんずん、と贄川が店の中に入っていく。
俺はその後に続く。
中では菜々子達が、集まって何かを議論していた。
「……このスカート、素敵です! るーちゃんに似合います!」
「菜々子、こういうずぼんはどうだ?」
「……にあうかもー! せんせえ褒めてくれるかなぁ」
「お、おかやは……喜んでくれるだろうか」
ぼんやりと俺は買い物してる姿を、遠くから見ている。
楽しそうにしてるのは邪魔しちゃいけないからな。
「あ、あのっ! すみません! 外のディスプレイの、あの服! 試着したいんですけどぉ!」
贄川が顔を真っ赤にしながら、洋服を店員に尋ねていた。
そうか、試着もできるるのか、ここ。
部屋の隅に大きな試着室があった。
「おかりーん」
そのとき、あかりが俺を呼ぶ。
「なんだ?」
「ちょっと来て~」
困ったこと?
なんだろうか……。
俺は試着室の前までやってきた。
「どうした?」
「えいっ♡」
にゅっ、と中から手が伸びて、俺の腕を掴む。
ぐいっと俺は中に引き寄せられる。
つんのめりそうになりながら、中に入ると、そこには……。
「じゃーん♡ おかりん、どうどう? あかりちゃんの下着♡」
ブラとショーツ姿だけのあかりが、そこにはいた。
黒い布地に、白い肌は良く映えている。
ともすれば透けてしまうのではないか、というきわどいデザイン。
にぃ、と笑うと、前屈みになって、あかりが俺に尋ねてくる。
「どうかな?」
目をほそめて、ささやくようにあかりが言う。
一瞬大人の色気を感じてドキリとなりかけるが、いかん、と思い直す。
なるほど、下着が似合ってるかどうか聞いてきたのか。
「おまえ……そういうのは菜々子達に聞きなさい」
「ぶー。見せる用の下着なんだから、見せる相手に選んでもらうほーがいいじゃーん」
ぷくっ、と頬を膨らませるあかり。
先ほどは大人の下着を身につけて、妖艶に微笑んでいたときは、別人に見えたのだが。
今は、年相応の、俺の知ってるあかりだ。
「じゃあ彼氏とかに選んでもらうんだな」
「いないよ! 彼氏なんて!」
あかりが、大きな声を出す。
目には怒りの炎が、ありありと浮かんでいた。
「おかりん以外の人と付き合う気ないから!」
「わかった、わかったから大声出すな……こんなとこ、だれかに見られたらどうするんだ?」
試着室に、男女が二人きり。
しかも片方は下着姿だ。
誤解を生む可能性がある。
「俺はさっさとでるから、おまえもちゃんと着替えて……」
どんっ、とあかりが、俺を壁に押しつける。
両手で、俺を挟むようにして、壁ドンしてきた。
「アタシは、見られても……いいよ? むしろ、見て欲しい……かな」
あかりが顔を近づけてくる。
長いまつげだ。
彼女はハーフなので、まつげまで金髪なんだな。
「ねえ……おかりん。アタシって……子ども?」
艶のある唇からは、熱っぽいと息が漏れる。
ブラ一枚でつつまれた乳房を密着させ、俺に迫る。
「子供だよ。教え子であり、今は保護対象」
「もう……子どもじゃないよ? 17歳だもん。赤ちゃんだって……作れる体なんだよ?」
あかりが、俺の足の間に、長い足を挟んでくる。
「ん……♡」
唇をすぼめて、そのまま……。
「辞めなさい」
つん、と俺はあかりの額をつつく。
「公共の場で、そういうことするな。店に迷惑がかかるだろ」
「うん……ごめんね」
肩を落とすあかり。
「そうだよね、こんなとこ……店員さんに見られたら、おかりんにも迷惑掛かるし」
うつむくあかり。
俺が怒ったのだと思っているのだろう。
怒るのと注意するのは、区別が難しい。
特に今の若い子には、どう注意すれば良いのかいつも迷う。
あかりの場合は、大人になった自分に、この下着が似合うか、聞いていたのだ。
俺はあかりの頭をなでる。
「似合ってるぞ、その下着」
「ほんとっ」
「ああ。すごいセクシーだ……っていうのは、おっさんくさいかな」
ぱぁ……! とあかりが明るい笑顔を浮かべると、俺の体に抱きつく。
「ううん、おかりん素敵だよっ♡ えへへっじゃーあー、おかりんには、この下着かってもらっちゃおっかなー?」
俺はあかり達に、何でも好きなものプレゼントすると約束していたのだ。
「ああ、いいぞ」
「やったー! 初夜はこれ付けてくね♡」
「そう言う冗談は、相手が本気にしかねないからやめなさい」
「えー? おかりんはー? 本気にしてくれないの?」
不満げなあかりの額を、俺がつつく。
「しないよ、今は」
「ふーん……そっか。今はか……ふふっ♡」
と、そのときだった。
「あかりちゃん、随分長くここに入ってるけど、どうしたの?」
しゃっ……!
「「「あ……」」」
カーテンが開くと、そこには、贄川が居た。
「え……? え……え?」
贄川の手には、袋が握られている。
たぶんさっきの服を買ったのだろう。
ぱさ……とその袋が床に落ちる。
「え、うそ……岡谷くんと……あかりちゃんが……」
しまった、どう見ても、試着室に女を無理矢理連れ込んで、裸にひん剥いた悪い男の図に見えるだろう。
贄川は、そう誤解したんだ。
「贄川、誤解だ」
「あ……え……あぁ! 誤解! 誤解ね、うん! なるほど……! だよねっ。ふたりが出来てるわけないよねっ!」
すると……。
あかりが俺の腕を、両の胸で挟み込んで……。
ちゅっ……♡
「ひぎゅ……!?」
贄川が目を大きく品向いて、あんぐり……と口を開く。
俺の頬にキスをしたあかりは、小悪魔のような笑みを浮かべる。
「そーゆーかんけーです♡」
「あわわっ……はわわわわわわっ……」
贄川は顔を真っ赤にすると、目をぐるぐると回す。
「いや、だからな贄川。違うんだって」
「う、ううぅうううおおおおおぉおおお幸しぇにいぃいいいいいいいいい! うわぁああああああん!」
贄川が子供のように涙を流しながら、俺たちの前から走り去っていく。
「んふふ~♡ どうやら一花ちゃんは、おかりんとアタシが、ねんごろであると誤解したよーですね~」
実に楽しそうに、あかりが言う。
俺はため息をついて、あかりの額をつつく。
「あまり大人をからかうものじゃありません」
「はーい、ごめんなさーい、先生……ふふっ♡」
俺は試着室の外に出る。
あかりが着替え終わるのを待つ。
まったく、こいつは昔から、人をからかって楽しむのが好きなんだから。
「でもね……おかりん。アタシもね……いつまでも子供じゃないんだよ」
布のこすれる音。
漏れる吐息は、どこか大人びている。
「体は、赤ちゃんもう作れるんだし。法律でもアタシは、おかりんの奥さんになれる」
「法律上は、だろ」
「アタシは本気だよ。本気で、おかりんのお嫁さんになるんだから」
しゃっ、とカーテンが開くと、あかりが出てくる。
その手には、試着していた黒い下着が握られていた。
「だから……これ買って、いつかおかりんに初めてをあげるときに、着るんだ」
屈託のない笑みを浮かべて、あかりが言う。
その笑みに……俺は、どう答えて良いのかわからなくて……。
「大人をからかうな」
結局、いつも通りのリアクションしか出来なかった。
正直、わからないんだよな。
俺は、この子の好意の受け止め方を。
「うん、今はそれでいいや」
あかりは少し寂しそうに笑って言う。
そこへ……。
「お、おおおお、おかやぁああああああ!」
顔を真っ赤にしたるしあが、菜々子と贄川とともに、俺の元へやってくる。
「一花からきいたぞ! あ、あかりとや、野外ぷ、ぷぷ、ぷれいをしたと!」
はぁ……と俺はため息をついて、言う。
「してない」