40話 みんなで買い物を
部屋に荷物を置いた俺たちは、ホテルでランチを取ったあと、買い物へと向かった。
「……わぁ! ひろい、です! おっきー!」
JK姉、黒髪の菜々子が、目の前の光景に驚いている。
俺たちがいるのは、軽井沢駅のすぐ目の前、KIDプリンスホテルに隣接する、巨大ショッピングモールだ。
「洋服だけじゃなくて、靴屋とか、アクセサリーとか、色々売ってるみたいだね」
JK妹、金髪ギャルのあかりは、パンフレットを広げて、感心したようにながめている。
「お嬢様、大丈夫ですか? 人混みは苦手のはず」
大学の友人、贄川が、気遣いげに、隣に居る白髪の少女の言う。
「ありがとう、一花。だが気遣いは無用だ。今この場のおまえは、ぼでぃーがーどでも何でもなく、みんなで遊びに来た仲間のひとりなのだからな」
白髪に赤目、ラノベ作家の開田 るしあだ。
この人混みに、加えて暑さだ。
るしあはあまり体力のある方ではないし、その辺を気を遣っていかないとな。
「ねえねえ! おかりん! どこから見て回るー?」
あかりが俺の腕を掴んで、笑顔で言う。
ふにっ、と俺の腕に、あかりの胸が当たる。
彼女はボタンを2つもはずし、完全に上の乳房が見えていた。
汗でしっとりと濡れている乳房が俺の腕にぴったりと吸い付いて、心地よい感触がする。
「あかり」
「おっと~♡ おかりん、あかりちゃんのおっきな生乳の感触にメロメロですかにゃー?」
「人目があるんだ、ボタンはしっかり閉めなさい。おまえも淑女なんだからな」
「あ、はい」
いそいそ、とあかりがボタンを閉める。
「……そ、そーですねっ。しめなきゃですね」
いそいそ、と菜々子もボタンを。
「だ、ダメじゃない2人とも。若いうちから、肌を露出しすぎちゃ」
「一花。おまえもか」
ボタンを閉める贄川に、るしあが呆れたように言う。
「みんなるしあを見習うように」
彼女は帽子を着用し、薄手のカーディガンで日焼け対策をし、さらにボタンはしっかり閉めている。
「「「はーい……」」」
「やはりおかやは大人だな。さすがだ」
「そうか? じゃあ、いこうか」
「「「「おー!」」」」
俺たち5人は、そろってショッピングモール内を練り歩く。
屋根があるので、るしあも日差しは大丈夫そうだ。
道の側にずらりと、店が並んでいる。
夏休みと言うこともあって、結構人が多かった……が……。
「ねーねーおかりん、なんだか妙に黒い服の人、多くなーい?」
「そうか?」
俺は周囲を見る。
一般客にまじって、黒服サングラスが多く目立つ……かな。
「……い、一花、どういうことだ」
「……おそらく高原様は、ショッピングモールも貸し切りにしたのだと思われます」
「……お爺さまっ。もうっ」
「……三郎たちスタッフと、その家族がサクラ役をやってますので、バレないと思いますけど」
るしあと贄川がひそひそと何かを会話している。
この2人は昔から知り合いらしく、結構仲が良いのである。
「……わぁ! 可愛いお洋服ですっ!」
「おっ、結構いかすサンダルそろってんじゃーん!」
双子がそれぞれ、目を輝かせる。
若い子はファッションに興味がある。
だがあかりはバイトで、菜々子は家に引きこもってて、あまり外に出て買い物をしない。
……いや、遠慮してるんだろう。
いくら俺と彼女たちとが、気安い関係だとしても、赤の他人なのだ。どうしても遠慮してしまう。
特にあかりは気をつかいすぎて、自分の欲求を発散できないで居るような気がする。
それは、良くないと俺は思う。
子供はもっとワガママで良いんだ。
「あかり、菜々子も。欲しいものがあるなら、買うから言ってくれ」
「「え……?」」
ふたりが目を丸くする。
「お、おかりん……いいよ、欲しいものは自分で買うし」
「……そ、そうですっ。住まわせてもらってるだけで十分なのに……」
ああ、やはり気にしていたのだ。
俺は首を振る。
「いいから、せっかく旅行に来てるんだ。記念に、買っておくのもいいだろ」
「「でも……」」
「金は気にするな。おまえらが欲しいものを買ってやる。遠慮なく言ってくれ……というか、遠慮されると、逆に俺が気にする」
こういう言い方はズルいだろうか。
だが……。
「そっか。うん……ごめんね、おかりん」
あかりはすぐさま察しがついたらしく、苦笑しながら軽くあたまを下げる。
「お姉! 厚意に甘えちゃおう!」
「……ええ、でもぉ」
「いいからいいから! 絶好の甘え時だよ~。そ・れ・に~? 彼氏からのプレゼントだよ」
「……! そ、それは……欲しい!」
「でしょ~!」
あかりは俺を見て、ニコッと笑う。
そして、頭を下げる。
「ありがとおかりん! じゃ、えんりょなく!」
「……ありがとう、せんせえ!」
ふたりが無邪気に笑う。
そうだ、これでいいんだよ。子供は、大人の事なんて気にせず、ワガママ言っていれば良い。
「るしあも贄川も、欲しいものあったら言ってくれ」
「「ええっ!?」」
ふたりが目を丸くする。
「お、おかや……さすがにそれはちょっと……」
「そ、そうよ岡谷くん。それにお金とか……大丈夫なの?」
「ああ、6月のボーナス丸々残ってるからな」
この子らだけに買ってあげるのも、悪いし。
「るしあには、別荘を提供してもらったお礼もしたいしな。それに贄川にも、何も贈ってやれてなかったじゃないか。大学の時から、世話になってたのに」
「おかや……」「岡谷くん……」
ふたりが目を潤ませる。
「むぅ~……」
「? どうしたの、あかり?」
俺たちの後ろで、あかりが何かを考えている。
「なーんか、ずるいなぁ~」
「……ずる?」
はて、と姉の菜々子が首をかしげる。
「おかりんばっかり、ずるいなぁって……ほら、いつもおかりんだけ、アタシらの心を、こんなに喜ばせて、弄んでばっかりでさー」
「……それの、どこがずる?」
「ふこーへーじゃん。たまにはアタシたちも、おかりんを喜ばせたり、びっくりさせたい……あ! にししっ、お姉お姉」
「?」
振り返ると、あかりが菜々子に、何かを耳打ちしている。
「……しょでね、……を、おかりんに……するの」
「! それ……最高!!」
「でっしょー! んふ~♡ あかりちゃんは天才かも知れない」
「……よっ。あかりちゃん、じーにあす!」
「やぁ、そーでしょー? お姉わかってるぅ!」
菜々子があかりの頭をなでる。
妹は嬉しそうに、姉の体に抱きついて笑う。
「どうしたんだ、2人とも?」
「「んーん、なぁんでもない! ふふっ♡」」
どこかいたずらっ子のように、ふたりが笑う。
あかりはいつも通りだが、しかし、菜々子は珍しいなと思った。
「よぉうし、おかりん、みんな。ショッピングモールにしゅっぱつしんこー!」