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36話 行きの新幹線にて



 俺は双子JKと、ラノベ作家の開田かいだ るしあ、そして大学の頃の友人 贄川にえかわ 一花いちか


 以上の5名で、るしあの別荘がある、長野県は軽井沢へと向かっていた。


 俺たちが乗っているのは、新幹線だ。


 東京駅発、長野へ向かう新幹線に乗った。

 だいたい2時間もあれば、都内から軽井沢へ到着できる。


 俺たちは北陸新幹線【あさま】にのって、軽井沢へと向かっていた。


「ひゃっほー! あっがりー!」

「……あかり、つよつよです」

「くっ……! またあかりが1番だとっ! 不公平だぞっ!」


 あかり達はトランプをしている。


 新幹線のグリーン車に、俺たちは乗っている。


 新幹線代は、るしあの【お爺さん】とやらが手配してくれたのだ。


 昨日、つまり旅行前日。

 俺は電話で、はじめて、るしあの保護者と話した。


 その際に、孫とJK(友達)を連れて旅行へ行くことを言うと、快く許してくれた。

 30近いおっさんが一緒だというのに、よく許してくれたなと思った。


 だがお爺さんは俺を信頼してくれているらしい。


 まあ、俺はJK組の保護者役だからな、間違いが起きるなんて思ってないのだろう。

 しかし……グリーン車か。


 もちろん高いものを出してもらうわけにはいかないと、固辞した。


 だが、孫がラノベで世話になっているからといって、出してくれたのだ。


 宿泊先となる【別荘】も、るしあのお爺さんが貸してくれるらしい。


「おかりーん、一緒にやろーよー。るしあん弱々でさー」


 俺は通路を挟んで、反対側の椅子に座っている。


 あかり、菜々子ななこ、るしあは座席を向かい合うように動かし、三人でトランプしているのだ。


 あかりは、背中までぱっくり空いたシャツに、尻が見えるんじゃないかと不安になるレベルのミニスカート。


 菜々子ななこは、ロングスカートに半袖シャツという、清楚な出で立ち。


 るしあは、真っ白なワンピースに、膝の上には大きめの麦わら帽子という、お嬢様の服装。


「あそぼー、おかりん?」

「いや、俺は良いよ」


 せっかく友達同士で楽しんでいるなか、大人の俺が混じるのはよくないからな。


「じゃー、一花いちかちゃん、やるー?」


 あかりが俺の隣に座る彼女に言う。


 髪の毛をアップにまとめた、黒髪の美女、贄川にえかわが座っている。


 白いチノパンにノースリーブのシャツ。

 長い黒髪は瑠璃色のクラッシックなバレッタでまとめあげていた。


「いいえ、あたしは結構よ。せっかく楽しんでるのですもの、水差したくないわ」


「……大人の意見どーも。でも……アタシ知ってますけどねぇ」


 じとー、っとあかりが贄川を見やる。


「【おかりん争奪大ジャンケン大会】で、アタシたちに勝って、大喜びしたくせに~」


「まったく、子供かと思ったぞ一花いちか


「……両手あげて、えいどりあーん、でした」


 俺たちが乗っている新幹線は……2人がけの席が2列。


 なぜか知らないが、全員が俺の隣に座りたがった。


 公平にジャンケンで決めることになり、贄川が勝利を収めたのである。


「だ、だって……しょうがないじゃない。岡谷おかやくんと新幹線旅行なんて、大学卒業以来だし……うれしくって」


 俺の左隣でもじもじする贄川。


 ノースリーブのシャツを、2つほどボタンを外している。


 身をよじるたび胸が揺れ、さらに谷間が強調される。


「「ぴぴー! セクハラ警察です!」」


 あかりと菜々子ななこが席を立ち、贄川の前に仁王立ちする。


「一花ちゃん……そのかっこうアウト!」

「……あ、あうとー!」


 ぎろり、とあかりがにらみつける。


「一花ちゃん、ボタンは首元までちゃんとしめてくださーい」


「い、いいじゃない……別に……仕事中じゃないんだし……」


「と、おっしゃってますが、どう思いまするしあお嬢様?」


 るしあはお行儀良く椅子に座って、ペットボトルのお茶を飲んでいた。


 俺は二人を見て言う。


「あかり、菜々子ななこ、座りなさい。るしあを見習って」


「「ひゃい……」」


 トボトボ、と自分の席へと戻っていく双子JKたち。


「でもさーおかりん、この新幹線、アタシらのほかに誰も乗ってないんだし、だいじょーぶじゃなーい?」


 ……そうなのだ。

 よくわからないのだが、俺たちの乗っているグリーン車には、俺たち以外の乗客が見当たらないのだ。


「みんな自由席に座ってるんじゃないか? グリーン車は高いだろうし」


「え~。なーんか、自由席も人居ない気がする~。アタシちょっと見てきても」


「ま、待つのだっ! あかり!」


 るしあが慌てて止める。


「なぁに、るしあん?」

「えっと、その……そう! 新幹線が動いているときに、無意味に動いてはいけない。これはマナーだ。そうだろう、おかや?」


 るしあが席の向こうから、俺に尋ねてくる。


「るしあの言うとおりだ。座りなさい」

「ちぇー……ぜったい新幹線かしきりだよこれ~」


「はは、まさか」


 だがなぜか贄川、そしてるしあが揃って、明後日の方向を見ているのはなんでだろうか。


 と、そのときである。


「おやついりませんかー。お弁当もありますよー」


「あ、車内販売だーって、ええ!?」


 あかりが車内販売のカートを押してきた人物を見て、目を丸くする。


「るしあんの、お手伝いターミネーターじゃん!」


 黒服を身につけ、サングラスをつけた大男が、俺たちの元へとやってきた。


「さぶ……」

「さぶ?」


 贄川が血相を変えて立ち上がり、ハッ……! と正気に戻る。


「んんっ! ちょっと失礼♡ ………………こい」


 サングラスの大男の襟首を掴んで、贄川が俺たちから離れる。


「……なんであんたがいるのよっ!」

「……高原様からお嬢をサポートするようにって言われて~」


「……アタシ言ったわよね!? 別の人にシフトかわってもらえって!」

「……いやぁ、そうしたいのは山々なんだけど、みんな都合が悪いみたいで」


「……くっ、なんであんたが」

「……決して家族同伴でデートする姉ちゃんを見て笑いたいからじゃないよ痛い痛い痛いほら見てる、見てるからヘッドロックやめて!」


 ふたりが何かぼそぼそと話していたが、話し声は聞こえなかった。


 贄川と添乗員が戻ってくる。


「……あ、あのっ! あなた、るーちゃんの、お手伝いさん。チョビ、チョビはどうしたんですかっ?」


 チョビはうちの飼い犬だ。

 菜々子ななこが大層可愛がっている犬だが、さすがに旅行へ連れてはいけないと、置いてきた。


 都内のペットホテルに預けようとしたのだが、るしあのお手伝いさんが、動物取扱業(保管)の資格を持っているらしく、チョビを預かってもらえることになったのだ。

 そのとき、預かると言ったのが、このサングラスの大男である。


菜々子ななこちゃん、落ち着いて。おれはあの人の弟だから」


「……そ、そうなの?」


「ああ。おれ、三郎。チョビちゃん預かっているのは、おれの兄ちゃんの二郎太じろうた


「……そ、そっかぁ」


 ほーっとする菜々子ななこ


 一方で、あかりはじとーっと三郎を見て言う。


「いや、サブローさん、なんで新幹線で添乗員やってるの? るしあんのお手伝いさんなんじゃないの?」


「え、なんでってそりゃ……この新幹線……」


「「ちょっと来い」」


 るしあと贄川が立ち上がって、三郎と一緒に、俺たちから離れる。


「……三郎、バカか貴様」

「……そうよ。たしかにこの新幹線、お嬢様のために高原様が買い取ったプライベート新幹線よ。だからって、言っちゃ駄目じゃない」


「……えー? なんで、別に隠すところじゃなくない?」

「……お嬢様は開田グループのご令嬢って事隠してるのよ。他の子達にひいきになっちゃうからって」


「……はーん、なるほどね。じゃ度を超した金持ちだってことは黙っとくのね。オッケー、把握した。絶対黙っとく」


 三人が戻ってくる。


「すみませーん、おれ、家がびんぼーで、お手伝いに加えてこの添乗員のバイトもしてるんですよ~」


「「なる……ほど?」」


 ふたりが首をかしげる。

 俺も若干怪しいなと思った。というかだいぶ怪しいな。


 新幹線の添乗員はそんなに簡単になれるものではないような気がするが。


 まあ、本職じゃないので、わからないが。

「ところでサブローさんは、何しに来たの?」


「おやつとか飲み物を持ってきましたっ。はいどうぞどうぞ」


 あかりたちにジュースとお菓子を配る。


 俺が立ち上がって、財布を取り出そうとする。


「ああー! いいですいいですって! これはおれのおごりです」


「そういうわけにはいきませんよ」


 俺が言うと、三郎は「いいんです」と笑って首を振る。


「お嬢とねえちゃ……んんっ! お嬢がいつも世話になってますので、これくらいおごらせてくださいや」


 ここで厚意を無下にするのは、逆に失礼だろう。


 俺はありがたくいただくことにした。


「サブローさんきゅー!」

「……ありがとうございます」


 JKたちが頭を下げる。


「いえいえ、あ、そうだ。あと30分くらいで軽井沢駅に到着しますんで、降りる準備しといてくださいねー。あでゅー」


 がらがら、とカートを押しながら、三郎が去って行く。


 贄川は席に座り、深々とため息をつく。


「……どっと疲れたわ」

「同僚なんだって、彼とは?」


 贄川も、三郎も、るしあの元でお手伝いさんとして働いてるらしい。


「ええまあ……」


 贄川は目をキョロキョロと動かしながら言う。


「……まさか旅行中ずっとついてくるわけないわよね、あいつ?」


 まさかね、と贄川が小さく何事かをつぶやく。


「ねえねえ、るしあーん。今日泊まるとこなんだけどさー」


 あかりが自分の席に戻って、正面に座るるしあに尋ねる。


「るしあんの別荘に泊まるんでしょ、どこにあるの、別荘」


「どこ……と言われても……」


 るしあは、なぜか答えに困っていた。


「あちこち……んん! 正直ワタシはここの地名をよく知らないんだ。駅に迎えのものが来るから、車に乗って向かう感じになるな」


「まー、長野の地名ってアタシよく知らないんだよねー」


「……あかりちゃん、私たちの名字、長野の地名だよ?」


「うっそぉ! マジ? 伊那いなって長野の地名なんだーへー」


 まあ都内に住んでたら、なじみのない名字だな。


「で、何の話だっけ……ああ、そうそう。今日から泊まる場所だ、どこになるんだろうね」


「ワタシのお爺さまが用意してくださった別荘だ」


「別荘かー、どんなとこだろ……るしあんちょー金持ちオーラばりばりだし……山まるごと1個! とかあっても不思議じゃないね」


 るしあが汗をかいて言う。


「は、はは……まさか」


「アタシここがいいなー、これ! 【KIDプリンスホテル】!」


 あかりがバッグから旅行雑誌を取り出す。

 KIDプリンスホテルというのは、軽井沢駅周辺に立っている、ホテル群のことだ。


「……わぁ! すごい、ホテルの敷地内に、スキー場あるよ!」


「それだけじゃないよ、お姉。駅前のショッピングモール、ボーリング場、ゴルフ場……そのほかたくさんのアミューズメント施設を併設した、すっごいでっかいホテルなんだから~」


「……わぁ、素敵~♡」


 双子JKたちが黄色い声を上げる。

 一方で、るしあが笑顔のまま固まっていた。


「……お嬢様、大丈夫ですか?」


 贄川が立ち上がって、るしあの隣に座る。


「……い、一花。大丈夫だよな?」


「……大丈夫です。確かにKIDホテルは開田グループ傘下。しかし、まさか高原様も、このホテルまるごと貸し切るような暴挙にはでないかと」


「……そ、そうだな。ありえないよな。プリンスホテルまるごと貸し切るなんて、うむ、ないな」


「……ええ、おそらくはコテージを用意してくれてるかと」


 女子4人が固まって座っているのを、俺はぼんやりと眺める。


 数ヶ月前には、こんな風にだれかと旅行することなんて、考えられなかったからな。


「あ、おかりん。そろそろつくみたいだよー」


「じゃあ各自、荷物をまとめて、降りる準備をしようか」


「「「「はーい!」」」」


 ほどなくして、新幹線は軽井沢駅に到着する。


 るしあが「は、早く改札へ行こう、あまり周りは見るな」と俺たちの背中を押す。


 ほどなくして、改札を潜り、ホームの外に出る。


「お待ちしてましたぁ♡」


「「ちょっとこい!」」


 俺たちを出迎えたのは、新幹線のなかで出会った三郎氏であった。


 るしあと贄川が三郎の両腕を掴んで、俺たちから離れる。


「……なにやってるのよあんたぁ!」

「……だからお嬢のサポートだって」


「……いい!? これはあたしにとっても、お嬢様にとっても大事なデートなの! ぶち壊したらあんたの大事なものも破壊するわよ!」


「……ひぃい! 股間のマグナムは失いたくなぃい!」


 贄川たちが戻ってくる。


「サブローじゃん。どしたの?」


「お嬢達を別荘に御案内する役を、この不肖にえきゃわわあぁーーーーーーー!」


 三郎氏が股間を押さえて、その場に崩れ落ちる。


「……ど、どしたんですかっ、さぶろーさんっ!」


 菜々子ななこが心配して、三郎氏に近寄る。


「だ、大丈夫……股間の紳士が……ちょっとチャーグルイミスドンされただけだから……」


 ふんっ、鼻を鳴らすと贄川。いつの間にか三郎氏の隣に居た。


「じゃ、じゃあ……気を取り直して、御案内しまーす。ついてきてくださーい」


 俺たちは三郎氏のあとに続いて歩いて行く。


「別荘までどうやっていくの、サブロー?」


 ころころ、とあかりがキャリーを転がしながら尋ねる。


「もうすぐそこにあるだいじょーぶ……」


「「…………」」


 たらり、とるしあと贄川が汗をかく。


「さっ! つきましたぜ! お嬢の別荘……!」


 俺たちは、呆然とする。


 指さす先にあったのは、軽井沢の駅前すぐにある……


 KIDプリンスホテルだ。


「……あ、あのぉ。さぶろーさん。ここ……ホテルなんですけど?」


 するときょとん、と三郎氏が可愛らしく首をかしげる。


「へ? だから、お嬢の別荘でしょ、ここ全部?」


「「えぇーーーーーーーーーー!?」」


「「三郎ぉおおおおおおおおお!!!!」」

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― 新着の感想 ―
じぃじ・・・・ やりすぎ!(笑)
[一言] 日本には東京と神奈川と長野しか無いらしい(別作品でディスティニーワールド出るからギリ千葉も?)
[気になる点] 添乗員ってのは旅行会社の付添人というかツアコンのことです。 弁当を売ってるのなら、下請け会社の販売員。 車掌をイメージしているのならば、乗務員になります。
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