34話 美少女たちと旅行の計画を立てる
俺は十二兼のもとを去ったあと、自宅へと向かう。
今日はラノベ作家・開田 るしあと打ち合わせがある。
近くの喫茶店で、と思ったのだが、るしあは俺の自宅が良いと主張。
まああかり達とこのあと遊ぶという予定らしいので、俺は了承した次第。
「どう、だろうか?」
俺の前には日本人形のような、小柄な、美少女が座っている。
真っ白い髪に赤い瞳が、兎を彷彿とさせる。
彼女は開田るしあ。俺が担当する作家の一人だ。
どうだろうか。恐らくは原稿のことだろう。
だが俺は以前、どうと聞かれて、実は服装を尋ねられたことがあった。
「そうだな。今日の服も似合ってるぞ」
「ほっ、ほんとうかっ!」
本日のお召しものは、ミニスカワンピースに、青い薄手のカーディガンという服装。
スカートから伸びる生足は白く、艶かしい。
「ふふっ、そうか……三郎と頑張って、こぉでぃねーとしたかいがあったというもの……じゃなくって!」
るしあが顔を真っ赤にして叫ぶ。
「原稿のことだッ! 誰が服の感想を言えとっ!」
「ああ、そうだったのか。すまない」
「い、いや……謝ることはない。ワタシはその……うれしかったし……うん……すごく、すごく……えへへ♡」
顔を赤くして、もじもじする。
怒っていると思ったのだが、存外うれしいらしい。
やはり思春期女子の心はわからないな。
「原稿は完璧だ。これで校了。お疲れ様でした」
「ああ、おかやも、何度もチェックありがとう」
「いや、こっちも、クドいくらいに直させてわるかったな」
「とんでもない!」
ふるふる、とるしあが首を大きく振る。
「おかやの指摘は、よりよい原稿を作るための修正ではないか。おまえのおかげで、わたしの新作は最高の出来になったと自負している。さすがおかやだ」
「ありがとう。けどるしあが頑張ったから良いものになったんだ。俺はただそれのアシストをしただけだよ。すごいのはおまえだ」
「では、二人で作り上げた傑作ということで」
るしあは満足げにうなずく。
彼女がうち(SR文庫)で出す新作は、冗談抜きで最高の出来になっている。
アニメ化も視野に入れていける作品だと俺は思っている。
この間までは、アニメは会社の規模的に無理だといったが、今は潤沢な資金がある。
この金を使って、さらにるしあの新作が、たくさんの人に知ってもらえるようにしなければ……。
「っと、そうだ。るしあ、2つ連絡事項だ。1つはイラストの件だが」
ラノベはイラストも、売り上げに関わる重要なファクターである。
「すまん、キャラクターデザイン、上がってくるのもう少しかかるみたいだ」
「そうか。たしか、【みさやまこう】先生だったな」
「ああ。僕心……カミマツ先生の2作目のイラストを担当している、神絵師さんだ。ちょっと今体調を崩しているらしい」
この間、予定通りイラストが上がってこなかったので、みさやま先生にメールした。
すると【夏風邪引いてますすみません。遅れます決して夏コミじゃないです】と返信があった。
「そうか……夏風邪か。みさやま先生にはご自愛くださいと伝えてくれ」
「わかった。みさやま先生にそうメールしておくよ」
まあちょっとイラスト上がるの遅いけど、のれば筆の速い人だから、大丈夫だろうとは思うけどな。
「もう一つの連絡とは?」
「今作品のタイトルだ」
「むぅ……タイトル」
きゅっ、とるしあが顔をしかめる。
「まだ余裕はあるが、そろそろタイトルを決めて欲しい。宣伝を打つ関係もあるからな」
「ううーん……おかや。実は……新作のタイトル、とても悩んでいるのだ」
るしあはデビュー作となる1作目、【せんもし】を書いて、今回は2作目となる。
その二作目のタイトルが、未だに決まらないで居るのだ。
「どうにもしっくりくるタイトルが思いつかなくてな……」
世の中の小説家には、2つのタイプが居る。
タイトルを先に思い付くタイプ、タイトルを後から付けるタイプがいる。
「るしあは、【せんもし】のときはどうしたんだ?」
「あのときはスルッと、書いてる途中に思いついたのだが、今回は最後まで原稿を書いても、思いつかないんだ」
「そうか……」
うーん、と俺たちは首をかしげる。
「おかや、何か良いタイトルないかな?」
「そうだな……。まあ、俺は【作家じゃない】んで、るしあが自分で決めるのが一番だと思うぞ。作品タイトルは作家が付けるべきだと思うし」
「ぬぅー……ううーん……」
るしあが唸っていた、そのときだ。
「二人とも、ちょっと休憩しない?」
「あかり」
金髪JK妹の、あかりが、俺たちの前に麦茶の入ったグラスを置く。
今日はチューブトップにホットパンツという、非常に肌色の多い服装をしてる。
「あんまうんうん唸ってても、良いアイディアは出ないと思うよ。一息つきなって」
「あかりの言うとおりだな。少し休もう、るしあ」
「うむ……そうだな」
俺、るしあ、あかり、そして菜々子は、リビングのテーブルを囲んでいる。
おやつは芋羊羹と麦茶。
「うまぁ~~~~~~~~~~い♡」
るしあが頬を手で押さえて、歓声を上げる。
目を閉じて、「ん~♡」と体をよじっている。
「なんだこの芋羊羹はっ。美味すぎるぞっ! こんな美味いものははじめてだっ!」
「そりゃー良かった。作ったかいがあるってもん」
にしし、とあかりが嬉しそうに言う。
あかりが作った芋羊羹を口にする。
口の中に芋のなめらかな食感が広がる。
麦茶で流すとこれがまた合う。
「どうおかりん?」
「ああ、いつもながら美味い」
「にひ~♡ やったぁ!! おかりんが褒めてくれたー! ちょーうれしー!」
いえーい! とあかりが手を上げて喜ぶ。
ぷるん、と大きな乳房が揺れる。
「くっ……! あかりめ……なんとズルい。おかやをこうやって籠絡していくのかっ! 菜々子、ズルいとは思わぬか?」
「ふぇー? もぐもぐ……ふぁにー?」
菜々子は一心不乱に羊羹を頬張っていた。
どうやら友達の会話が聞こえてなかったようだ。
「お前は少し危機感を持てっ。だいぶ妹にリードされてるぞっ!」
「ききかんー? はて?」
「……もういい」
はぁ、とるしあがため息をつく。
俺はさっきから、気になっていることを、あかりに言う。
「あかり」
「はいはい♡」
「そのかっこう……」
「あ、気づいた? 今日はチューブトッププラスへそちら見せスタイルで、おかりんを悩殺しようかなーって♡」
「風邪引くから、カーディガンか何か羽織りなさい」
部屋の中とはいえ、冷房を効かせている。
薄着していたら風邪を引いてしまうからな。
「んもー。おかりんってば優しいんだからっ。……でももーっちょっとさぁ、こう……動揺して欲しいなーなんつって」
「お前も苦労してるのだな、あかり」
るしあが同情のまなざしをJK妹に向ける。
一方であかりは苦笑しながら答える。
「あんがと。るしあん、あんたも苦労してるのね。仕事中まったくピンク色な雰囲気にならないし」
「そうなのだっ! こんなにも頑張っているのに、振り向いてくれない……!」
一方で菜々子はむぐむぐもぐもぐ、と羊羹を頬張っている。
「菜々子。口についてるぞ」
俺は菜々子の口周りに突いた芋羊羹を、ハンカチで拭う。
「……えへへっ♡ ありがとう、せんせぇ」
「このムーヴ、やはりおかりんはあたしらを子供としか見てくれない……最大の敵は大学時代の女か……」
「ああ……やつは強い。そして美しい。強敵だ」
ふたりがよくわからない話題で盛り上がっている。
「ところで二人とも、俺、今日から夏休みになった」
「「夏休み? あるの?」」
「ああ。今日から10日間だ」
「「「10日もー!?」」」
JK姉妹が驚くのはなんとなくわかるのだが、なぜるしあまで驚くのだろうか。
ああ、校了前に編集者が休んで大丈夫かのかということだろうか。
その点はスケジューリングを調整しているので万事問題ない。
「やったー! 10日もおかりんと一緒に居られるなんて~!」
「……うれしいですっ♡ はっぴーさまーでいです~♡」
あかりと菜々子が立ち上がると、俺の両隣に座って、ぎゅーっと抱きしめる。
やはり、まだまだ親に甘えたい時期だったのだろう。
「夏休みなのにどこにもつれてけなくてすまんな。だから、この10日はどっか行こうと考えてる」
「……どこかというと?」
「旅行とかどうかな」
「「「旅行ぅ……!?」」」
だから、なぜるしあが驚くのだろうか。
……ん? もう一人増えてないか?
「旅行なんてだめだー! 行くならワタシも連れてってもらいたいぞ!」
るしあが顔を赤くして叫ぶ。
「おかりんたちと水入らずで旅行なんだから、ちょっとは遠慮して欲しいかなーって思う。ねー、お姉?」
「……そ、そうだぁ。るーちゃん、空気を読むんだぁ」
と、そのときだった。
「ダメよ岡谷くん!」
ばんっ、と窓ガラスをだれかが叩いた。
「って、贄川?」
窓の外には、俺の大学時代の友人、贄川 一花が立っていた。
「しまった……!」
かぁ……と贄川が顔を赤くして、あわあわと慌てる。
俺はベランダの窓をがらりとあける。
「おまえ、何してるんだよ?」
「え、っとぉ……その……」
俺の隣に、るしあがやってくる。
「一花、迎えにくるのが少々早いのではないか?」
るしあの瞳は猜疑心がありありと浮かんでいた。
一方で一花は、完全に気おされている。
「お、お嬢様が……その、し、心配でっ」
「ほぅ……ワタシの何を心配してるのだ?」
しどろもどろの贄川。
一方でるしあは背後から極寒のオーラを漂わせながら問い詰めている。
「だ、だって……お、男の人の部屋に、女子高生が3人って……間違いが起きたら、どうするんですかっ?」
「間違いとはなんだ、言ってみろ一花?」
かぁ~……と一花は顔を真っ赤にして、顔の前で指をつつきながら言う。
「だ、だから……よ、4ぴ」
「セクハラ警察はいりまーーーす!」
「……ぴ、ぴぴー!」
あかりと菜々子が、そこに割って入ってくる。
「あ、あなたたち……岡谷くんの……」
「「妻です」」
「違う。俺が保護してる子供達だ」
そういえば贄川には、この子達の説明をしていなかったな。
あとできちんと言っとかないと。
「あかりちゃんわかっちゃいました。この人が、おかりんの昔の女ね?」
じとっ、とあかりが贄川をにらみつける。
「む、昔の女って……別にあたしは、岡谷くんとはただの友達で……」
JKににらまれて、完全に萎縮している。
怒ってるときのあかりは誰よりも怖いからな。
「友達ってどこまでの友達? セフレ?」
「せ……!? ちょっと岡谷くん、今どきのJKってこんなに破廉恥なの!?」
「ハレンチじゃないもーん。普通だもーん、ねえおかりん?」
……なんだかややこしいことになってきたな。
「一旦落ち着けおまえら。るしあを見習え」
うむ、とるしあはうなずいて言う。
「ではこうしよう。この場に居る全員で、軽井沢の別荘へと行こうではないか」
どうやら落ち着いていたのではなく、考え込んでいたらしい。
「……べっそう? るーちゃん、別荘なんて持ってるの?」
「うむ。おかや、ワタシは今年の夏暇なのだ。おまえさえよければ、一緒に旅行へ行かないか?」
「旅行って……いやなんでだよ?」
「友達とどこかへ遊びに行くのに、理由があるか?」
なるほど……ようするに、るしあは双子を遊びに誘ってくれているのか。
「アタシ、いきたーい」
「……私もっ、です!」
るしあは贄川を見る。
「おまえもついてこい、一花」
「お嬢様……よろしいのですか?」
「ああ。ワタシが望むのはフェアな勝負だからな」
「お嬢様……!」
まあ2人が、友達と遊びに行きたいというのなら、行かせてあげよう。
「じゃあ楽しんでくるんだぞ」
「「「「ちょっと待て」」」」
全員が、そろって俺に言う。
「え? おかりん、何他人事みたいに言ってるの?」
「だって、るしあの友達はおまえらだろ? まあ旅行に子供だけとはいかないかなとは思ったけど、大人の贄川が同行するなら俺、いらないだろうって」
「「「「それじゃあ意味がないんだよ!」」」」
……結局、旅行には付き添いが必要だと言うことで、俺も同行することになったのだった。