2話 十年ぶりの再会、俺を慕う元教え子達
玄関を開けると、そこにはもの凄い美少女JKがいた。
金髪のギャルと、黒髪の清楚そうな少女。
……ギャルの口から、とんでもない発言が来た。
「あれ? 聞こえなかった? えっちしてもいいから、アタシたちのこと泊めてくれない?」
「……ぁ、え、っと……」
「……大人をからかうな。自分ちに帰れ」
外出しようとした俺だったが、そのまま部屋の中に入ろうとする。
「冗談じゃないよ! 本気」
「なら、なお悪いわ。そういう気はないから、さっさと帰るんだな」
ガシッ、と俺の手を握ったのは……意外にも、黒髪の、控えめな印象の少女の方だった。
「……おねがいします、ほかに行くところがないんです……」
震える声。涙に濡れた黒い瞳。
なにか、よほどの事情があるような気がする。
……だが、それでも、俺に相談するのは間違っているだろう。
「ねえ、オジサン……アタシらのこと、覚えてない?」
「は? なんだ急に……」
金髪のギャルと、黒髪の少女のセットに、見覚えなど……。
「……【おかりん】先生。覚えて、ないですか?」
「…………!」
おかりん先生。
彼女は確かに、そう言った。
「おかりん覚えてない? ほら……ねえ?」
……金髪の生意気な少女。
黒髪の、内気な女の子。
見覚えが……ある。
いや……でも……。
「……おまえら、昔、学習塾に通ってなかったか?」
ぱぁ……! と少女達の表情が明るくなる。
「そーそー! 【太陽研】!」
太陽研。それは……俺が大学生の頃、バイトしていた学習塾の名前だ。
……10年前。
俺はそこで、個人指導のバイトをしていた。
そのとき……一組の双子がいたことを覚えている。
「……伊那 あかり。それに、伊那 菜々子か」
黒髪の少女……菜々子が、花が咲いたみたいに笑う。
「おかりん先生ッ!」
感極まったのか、菜々子が俺に抱きついてくる。
押しつけられる乳房の大きさは……あの10年とはまったく違っていた。
で、デカい……じゃない。
「……良かった! 覚えててくれたんですね!」
「あ、ああ……菜々子。でかくなったな、おまえ」
身長とか胸とか。
「にっしし、でしょ~。お姉Gカップですよ、Gカップぅ~」
「……こ、こらっあかりっ。よ、余計なこと言わないのっ」
顔を真っ赤にして首を振る菜々子。
そ、そうか……Gか……でかいな……。
「ちなみに、アタシはFカップなんで、あ、お姉がでかすぎるだけで、アタシもじゅーぶんおっぱいでっかいからそこんとこよろしく」
「……あかり。おまえは、ませてるところまったく変わらないな」
「人間そーそー変わらないって。おかりんもあの頃とまったく変わってないね」
おませさんな妹のあかり。
おしとやかな姉の菜々子。
俺が10年ぶりに再会した、元教え子達は……。
体は成長すれど、中身はまったく変わらない姿で居て……。
それが、少しうれしかった。
★
俺は2人をとりあえず家に入れることにした。
元とは言え教え子だ。
まったく知らない仲でもない。
それに今は夏も終わり秋に入った。
夜はとても寒い。
そんな中に彼女たちをおいとくわけには、いかなかった。
「おまえら、よく俺がここ住んでるってわかったな」
少女達がソファに座る。
俺は……とりあえず飲み物でも用意するか。
「ふふん、名探偵あっかりんの力を舐めてもらっちゃあ困るよ~」
「……すみません、単に、覚えてただけです」
「覚えてたって……ああ、そうか。大学の時から、同じマンションだったな」
大学卒業後、俺は住んでいたマンションをそのまま使っていた。
「だとしても、なんで知ってるんだ?」
「……そ、それは」
「おかりんバイト終わった後、塾のみんなでおかりんの家まで尾行しようって遊びしたことあってさ~。そんで覚えてたの」
「マジかよ……知らなかったわ」
……普通に犯罪では?
いいやでも、子供のやったことだしな……
「……ご、ごめんなさいっ。悪いとは思ったんですけど……」
「なーに言ってるのお姉が一番、おかりんの家知りたがってたくせにぃ」
「……あ、あかりっ。ば、ばかぁ」
菜々子が妹の肩をぽかぽか叩く。
悪びれた様子もないあかり。
ああ、ほんと……10年前と何ら変わらない……。
大学時代に戻ったような気がする……。
「お、おかりんどったの? 泣いてる?」
「え? あ、ああ……なんだろう、ちょっと……なんか懐かしくてついな」
お湯が沸いたので、インスタントのコーヒーを入れて、2人の元へ戻る。
菜々子は恐縮しきりに、ぺこぺこと頭を下げる。
「ほら、飲め」
「……すみません」
「てんきゅー♪」
あかりは普通に受け取り、菜々子は何度も頭を下げながら、俺からカップを受け取ろうとする。
ぴたっ。
「ひゃっ……!」
菜々子の手と俺の手が触れる。
その瞬間、彼女は顔を赤らめて、過剰に体を反応させる。
それが原因でコーヒーがこぼれる。
「うぉあちっ!」
「おい! 大丈夫かあかり!?」
あかりのカーディガンと、菜々子のスカートにコーヒーがかかる。
「ん、だいじょーぶ。カーディガンと、シャツにほんのちょびっと掛かっただけ~。それよりお姉はだいじょうぶ?」
「……う、うん。スカートかかっただけ。肌はだいじょうぶ」
……良かった、ふたりに火傷がなくって。
深く吐息をつく。
「そーりゃよかった。んも~お姉ってばぁ、愛しのだーりんと手が触れただけで過剰反応とか、乙女か★」
「……ちち、ちがうよぉ!」
「とかいいつつぅ、お顔が真っ赤なのはなんでですかねぇ~。うりうり」
「……うぅう」
……2人が無事で良かったが、一歩間違えれば火傷するところだった。
「……ごめんなさい、先生」
「いや、別に。次気をつければ良いさ」
俺はつい昔の癖で……。
菜々子の頭を、なでる。
「……!」
「あ、悪い。つい昔の癖で……すまんな」
じわ……と菜々子が涙を浮かべる。
そして、またえぐえぐと泣き出してしまった。
「す、すまん! いやだったか?」
「……ち、違うんです! 違うんです……ただ……安心して……」
それだけ言って、菜々子は泣き続けてしまう。
どうしたもんか……。
「おかりん、シャワーと着替えかしてくんない? よごれちゃったからさ」
あかりが、すかさずフォローを入れる。
「あ、ああ。わかった。風呂場に案内するよ」
「ん。てんきゅー。ほらお姉、いこ?」