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178話 幸福



 ラノベ作家。そう、俺はかつて、ラノベを書いていたのだ。

 しかしどれもうれずに、結局、ラノベ作家をやめて、編集者となった。


 ……そんな俺が、もう一度、ラノベ作家をやると宣言したのである。


「……どうして急に?」


 王子は目を丸くしていた。だが、静かに聞いてくる。

 こいつは本当に良いやつだ。俺の無謀な挑戦を、笑うことも、辞めておけと言うことも、ない。


 ちゃんと俺の話を聞いてくれる。……俺は、こんな良いやつと友達であれて、幸せだ。

 

「頑張ってる人たちを見て……また、頑張りたくなってさ」


 良いお嫁さんになろうと修行してる、あかり。

 獣医になろうと努力する菜々子。


 いずれ神を越えようともえるるしあ。

 一途に俺を愛していた、みどり湖。


 いつだって俺を励ましてくれる、一花。

 彼女たちの頑張りを見てたら、俺も……頑張りたいって思ったのだ。


 ……そして、なにより。

 そんな彼女たちが、これからもずっと、俺を支えてくれる。

 その事実が、俺に勇気をくれたんだ。もう一度、立ち上がる、勇気を。


「そうか……」


 王子は、笑っていた。

 ……目の端に涙を浮かべている。俺の挑戦を、喜んでくれてるのがわかって、うれしかった。


「出版業界の厳しさは、編集の俺が一番よくわかってる。駄目かも知れない。それでも……俺は書くよ」

「…………」


 にっ、と王子が笑う。


「おめでとう」

「ああ、ありがとう」


 王子が俺に手を差し伸べてくる。


「これからは……ライバルだな!」

「いやライバルって……売れっ子のおまえと比べたら、俺なんて……」


「何を弱気になっているっ! ともに神を目指そうと、誓い合ったなかではないかっ!」


 神……。このラノベの世界の神と言えば、カミマツ先生だ。

 編集者として、俺は王子に言った。いつか神を倒す作品を作ると。


「まだ、あの約束は果たしていない。これからは、ともに上を目指そうではないか! そして、いつか神を越えるのだっ!」

「王子……」


 こいつは……本当にポジティブなやつだ。

 そして……律儀なやつだ。王子も新作が受けて、十分売れっ子になったというのに。


 天狗になることなく……さらなる上を目指している。

 それだけでなく、底辺の俺にも、一緒に上へ行こうと、励ましてくれる。


 ……ほんと、たいした男だ。

 そんな彼から、差し伸べられた手。前の俺なら、卑屈になって、手を握ることはできなかったろう。


 強く、俺たちは手を握り合う。


「ああ。わかった。俺も……いつか神を越える作品を作るよ」


 にっ、と王子が笑う。


「やっと、笑えたね……光彦君」

「え?」


 一花が、ぐすぐすと鼻をならしながら、微笑んでいる。

 

「笑ってるかい、俺は?」

「ええ、今……最高に、しあわせそう」


 ……そうだ。俺は、今は幸せなんだ。

 一花から言われて、やっと自覚が持てた。


 ……夢を諦めて、空いた胸の穴。

 ミサエの浮気によって、その穴が広がった。

 ……でも。

 俺はあかりたちと出会い、いつの間にか、その穴が塞がっていた。


「ありがとう、王子。一花」


 昔からの友人達に、俺は言う。


「俺……今すごい、幸せだよ」

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